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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ
ジョブ型のもとでの課長の在り方を整理するも、ジョブ型に限らずの話になっている。
『ジョブ型と課長の仕事 役割・達成責任・自己成長』['21年]
ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の「クライアントパートナー」であるという著者による本書は、ジョブ型人事制度のもとでの課長の役割と仕事とは何か、これまでとは何が違うのか、何を為すべきかについて、体系的に整理したものであるとのことです。
序章では、ジョブ型雇用雇用の本質とは何かを解説したうえで、ジョブ型雇用の成功のカギは、社員が個性を自覚し、ジョブを選択し、自己の運命に責任を持つこと、換言すれば「自律」と能力開発への自主的な取り組みであるとし、その上で、組織の中核を担う課長級の社員からジョブ型雇用に合った役割と仕事を理解し、行動を変容することが出発点になるとして、
①課長は中核管理職である
②21世紀のパラダイムを主導する
③チームの目標管理を推進する
④役に立つスキルを磨く
⑤マネジメントの焦点を理解する
⑥自らの運命を支配する
の6つの基本を掲げています。
第1章では、これからの課長がやるべきこととして、
①ジョブの意味を正しく理解する (ジョブとは付加価値を生むもの)
②ジョブの価値を向上させる (ジョブは与えられるのではなく、自らつくるもの)
③ジョブを実践する原則を知る (7つの原則)
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。最後の「7つの原則」とは、
[第1の原則]2020年代の成功につながるマインドセット
[第2の原則]トップダウン型目標管理ではなく、自律型目標管理
[第3の原則]360度型リーダーシップ
[第4の原則]顧客の創造
[第5の原則]思考力の錬磨
[第6の原則]コミュニケーション力の錬磨
[第7の原則]社会的課題への積極的な関与
であるとのことです。
第2章では、変えるべきマインドセットとして、
①「競争に勝つ」から脱却する (競争志向から顧客志向へ)、
②戦略的思考の定義を変える (競争戦略からブルーオーシャン戦略に立ち戻る)
③管理者から支援者に変わる (ファシリテーターの役割を担う)
④部下ではなくパートナーとして接する (部下から学ぶ)
⑤中間管理職から中核管理職に変わる (成果を生み出すプロフェッショナルになる)
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。
第3章では、チームの目標管理をどう行うかについて、
①自律的な仕事環境をつくる
②作業の棚卸しをする
③目標達成に必要なスキルを確認する
④ジョブディスクリプションを運用する
⑤チームの目標管理を行う
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。
第4章では、チーム運営に必要なスキルとして、
①リーダーシップ
②共感力を生むコミュニケーション力
③問題解決のためにの思考力
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。
第5章では、課長のマネジメントの課題として、
①コンプライアンス問題への対応
②リスクマネジメントへの対応
③ダイバーシティへの対応
④SDGsへの対応
⑤組織づくりへの対応
⑥顧客起点の行動
の6つを挙げ、それぞれ解説しています。
第6章では、課長の自己成長のための習慣として、
①内省の習慣
②継続的な学習習慣
③定期的なフィードバック習慣
④プロジェクトをつくる習慣
⑤教養を身につける習慣
⑥キャリアビジョンを考える習慣
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。
要約すると、ジョブ型人事制度のもとでの課長には、経営からの待ちの姿勢ではなく、顧客起点から機会を探り、最適なビジネスを自律的に展開すること、問題の発見と解決のための自発的な目標管理プロセスを運営すること、プロジェクトをリードすること、人の育成と同等に自分のキャリアを開発することなどが求められるということを言っているように思います。
いずれも至極もっともであり、「課長の教科書」としては、さまざまな気づきを喚起してくれる本であると思いました。課長の役割や責任、人材育成や自己成長について、ジョブ型という視点で捉え直そうとする試みかと思います。
ただし、本書で書かれていることの多くは、「ジョブディスクリプションを運用する」といったようなことを除けば、ジョブ型雇用であるかどうかによらず、以前から言われてきた、または近年よく言われていることであり、今後さらに求められるであるように思いました。その意味で、オーソドックスですが、新味はさほど無いように思いました。
コーン・フェリーとしては、〈ジョブディスクリプションの必要性〉に持っていきたいのだろうなあ。そのために、協力コンサルタントに、日本企業向けの「課長論」を書かせているようにも思えなくもないです。