【3387】 ◎ 守島 基博 『全員戦力化―戦略人材不足と組織力開発』 (2021/07 日本経済新聞出版) ★★★★☆

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「全員戦力化」に必要な組織力をどう高めるかを説く。「過程の公平性」という考え方に関心を持った。
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全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』['21年]

全員戦力化3.jpg 本書は、日本企業が抱える最も大きな人材問題は「人手不足」であり、社員全員を戦力化する必要があるが、それには組織力を高めるためのマネジメントが重要になるとし、そのために何をすべきかを論じています。

 第1章では、戦略人事とは企業目的の達成のために人事を行うことであり、数多くの経営環境の変化が起きている今、不足しているのは人手ではなく人材であって、多くの企業が人材不足に陥っている可能性があるとし、そこでとるべき人事戦略は、「全員戦力化」とでも呼ぶべきものとなるとしています。

 第2章では、「全員戦力化」のために必要なのは組織力であるとし、「組織力開発」の重要性を説いています。第3章では、職場に宿る組織力として、「協働」「人材育成」「所属」「同質化」の4つを挙げ、組織が弱体化するときにはどのような兆候が見られるか、特に危うい職場の人材育成とは何かを論じています。第4章では、従業員が働きがい・働きやすさを感じる組織とは何かを考察し、働きがいの根幹には達成感と成長感があり、働きやすさについては、個の尊重であるとしています。

第5章では、ダイバーシティおよびダイバースな人材を活用するインクルージョンという考え方は、全員戦力化において重要であるとし、インクルージョンの3要素として、①意見を表明しやすい職場、②組織文化や組織風土、③一段上の目標の共有、の3つを挙げています。

 第6章では、組織力としてのミドルにフォーカスし、ミドルは強い組織の礎であるが、環境の変化などによりミドル育成機能はいま低下しており、ミドル対象の研修に頼らない組織的な対応が求められているとして、その重要ポイントとして、①コンピテンシーまたは行動レベルのミドルの役割明確化、②組織図の修正、③フォロワー育成への投資、の3つを挙げています。

 第7章では、チームにフォーカスし、いま企業経営で構築され、活躍が期待されるチームとは、①多様化、②期待される成果・目標。③チーム内コミュニケーションという面で従来のチームの概念から変容しつつあり、こうしたチームを活用する組織力強化のカギとして、①ダイバーシティからインクルージョンへの進化、②心理的安全性、③個を自立させる組織の確保の3つを挙げています。

 第8章では働き方改革について、働く人が個々の事情に応じて、多様で柔軟な働き方ができるようにすることは、「全員戦力化」の考えにも一致するとした上で、「同一労働同一賃金」が意味するものは何か、法が求める衡平原則の課題と、組織力としての公平性を確保する施策を述べています。第9章では、従業員エンゲージメントとは何か、働く人のココロをつかむには何が必要かを論じています。

 最終章では、コロナウィルス感染拡大が要請する組織と人材の革新とは何かを述べていますが、この最終章のみが書き下ろしで、第1章から第9章までは、日本経済新聞などに掲載された既出の論考をもとに加筆・アップデートしたものであるとのことです。経営者・管理職をも読者として想定しているため、それぞれの章が、テーマごとに概論になっている印象があり、著者自身も述べているように、「全員戦力化」という課題について、方法論までは議論できていないような印象を受けました。それでも、インクルージョン、ミドル育成機能強化、チームの活用、働き方改革など、どこに焦点を当てればよいかということについては把握できると思われ、著者身の主張にぶれがなく一貫性のある内容であると思います。 

 個人的に印象に残ったのは第8章で、同一労働同一賃金法制が求める衡平原則は、誰と誰を比較するのか、何を比較の基準とするのか、どこまでの格差が許容されるのかの3点について合理性の判断に関して曖昧さが大きいとの問題点を指摘しつつ、公平性を確保し、企業運営もスムーズに進める方法として、「過程の公平性」と呼ばれる考え方を紹介している点です。これは「手続きの公平性」「手続きの平等性」などと呼ばれることもあり、一般的にいえば、評価の手続きや基準の公開、上司との話し合い、苦情処理システムの整備などによって、従業員がもつ公平感を高めようという考え方で、目標管理制度の導入や評価結果の本人への開示などは、その代表的な施策となるとのことです。

 法的要請を超えた人事管理にとっての同一労働同一賃金とは何なのか、同一労働同一賃金の考え方を活かす人事施策とは何なのかを、ひとりひとりの人事パーソンが考えていかなければならない時代が今なのかもしれないと思わされました。

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