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参考書的には面白かったが、肝心の主張部分の具体性に欠ける。
『市場主義の終焉―日本経済をどうするのか (岩波新書)』 〔'00年〕 佐和 隆光 氏
著者は本書で、市場主義を否定しているのではなく、「市場主義改革はあくまでも『必要な通過点』である」としながらも、市場の暴走による社会的な格差・不平等の拡大を避けるためには、「市場主義にも反市場主義にもくみしない、いってみれば、両者を止揚する革新的な体制」(140p)としての「第三の道」をとるべきだとしています。
「第三の道」とは社会学者ギデンズが提唱した「旧式の社会民主主義と新自由主義という二つの道を超克する道」(142p)であり、著者によれば「リベラリズム」がそれにあたり、最もそれを体現しているのが英国のブレア首相(労働党)であるということのようです(サッチャリズムの保守主義、市場主義政策が破綻してリベラルなブレア政権が誕生したと...)。
効率重視の"保守"と公正重視の"リベラル"という対立軸で経済を読み解くのが著者の特徴で、「自由な市場競争を大義名分とする市場主義と、伝統と秩序を『保守』することを大義名分とする保守主義は両立不可能」(41p)という政治経済学的な分析は面白いし、その他にも政治・経済・社会に対する多角的な分析があり、経済の参考書として門外漢の自分にも興味深く読め、本書が「2000年ベスト・オブ・経済書」(週刊ダイヤモンド) に選ばれたのも"むべなるかな"といったところ。
ただし、肝心の主張部分「第三の道」についてもう少し具体的に説明してもらわないと、一般に言う「福祉国家」とどう違うのかなどがよくわからず、学者的ユートピアの話、議論のための議論のようにも聞こえます。
確かに「大学改革」については、市場主義、経済的利益のみで学問の価値が測れないことを示しています(それはそれでわかる)が、何だかこの問題だけ特別に具体的で、浮いているような気がしましたけど。