「●き 北村 薫」の インデックッスへ Prev| NEXT ⇒ 【3095】 北村 薫/宮部 みゆき(編)『名短篇、ここにあり』
作品のトーンの不統一が気になった。 読み進むほどスラップスティック調になっていく...。
『盤上の敵』単行本['99年] 講談社ノベルズ 講談社文庫
我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされていることがわかった末永純一は、妻を救出すべく奔走するが、自宅が警察とワイドショーのカメラに包囲され「公然の密室」化していることから、彼は警察を出し抜いて犯人の石割と直接交渉することを図る―。
「人間の悪意」をテーマにした作者の新境地を拓いた作品とされているようですが、体裁はタイトルからも察せられる通りの本格推理で、確かに"息もつかせぬ"展開ではあるものの、結末がやや安易で、本格推理にありがちなリアリティの喪失が感じられました。
それと気になったのは、作品のトーンが安定していないように思われた点で、ずっとハードボイルドっぽくいくのかと思ったら部分的にブラック・コメディ調になったりし、加えて、伏線となるべき幾つかの話が結末に向けて必ずしも収斂せず、むしろバラけている面もあって、総体的にみて、読み進めば進むほどスラップスティック調になっていくような...(筒井康隆か?)。
でも、作者は重々しく物語を締め括っていて、従来の作者のファンにも大方の受けは良かったようで、週刊文春「ミステリーベスト10」の'99年度の7位、宝島社「このミステリーがすごい!」の'00年の8位にランクインしており、何だか自分だけ取り残されたような気がしました(波に乗れなかったということか)。
作者は、この時点で2度ほど直木賞候補になっていますが、個人的には、この人、直木賞は獲れないのではとも思ったりしたら、結局6回目のノミネート作『鷺と雪』('09年/文藝春秋)で受賞ということになりました。
【2001年新書版[講談社ノベルズ]/2002年文庫化[講談社文庫]】