【1320】 ○ マイケル・ファラデー (矢島祐利:訳) 『ロウソクの科学 (1933/12 岩波文庫) ★★★☆

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実験しながら話す、元祖「でんじろう先生」? 解り易く格調高い。

ロウソクの科学』.jpgロウソクの科学旧版.jpg ロウソクの科学改訂版.jpg ロウソクの科学(角川文庫).jpg 
[旧版](矢島祐利:訳)/『ロウソクの科学 改訳 (岩波文庫)』(竹内敬人:訳)/『ロウソクの科学 (角川文庫)』(三石巌:訳)

マイケル・ファラデー.bmp 1860年(エジソンが電球を発明する19年前)の暮れに、「ファラデーの法則」で有名なマイケル・ファラデー(1791‐1867)が、少年少女のために行なったクリスマス講義6講を纏めたもので、この時ファラデーは70歳だったとのことですが、子供たちに科学へ関心抱いて欲しいという思いが伝わってくる生き生きとした話しぶりには、自らを「青年」と呼ぶに相応しいみずみずしさが感じられます。

 第1講で牛脂や鯨油、蜜蝋、パラフィンなどから作られた様々なロウソクを見せながらその製法を説明し(当時、ロウソクは今よりずっと生活に密着したものだっただろう)、ロウソクはなぜ燃えるのかという話に入っていき、毛管引力(表面張力)、毛管現象を解説、以下、全講を通じて、ロウソクを通して様々な科学(主に化学)現象を解説していきます。

 第2講では炎の明るさと空気(酸素)の関係を実験的に示し、燃焼によって水が生じることを、第3講ではロウソクが燃えた後に残るものは何かを、第4講では燃焼によって生じた水の成分、水素と酸素を電極装置で分離採取し、その特性を明らかにしています。第5講では空気中の酸素の性質とロウソクから生ずる二酸化炭素の性質を説き、第6講では石炭の燃焼で炭素が空気中に溶け込むことを実験解説すると共に、ロウソクの燃焼は人間の呼吸と似たような現象であるとしています。

ファラデーのクリスマス講演.jpg 少年少女達の目の前で自ら(時に助手を使いながら)実験し、それに基づいて解説しているので、当時のファラデーの話を聴いた子供達は、かなり引き込まれたのではないでしょうか。自分達だってこんなやり方での授業は殆ど受けたことがなく、テレビで見る「米村でんじろう先生」とか「平成教育委員会」の実験に思わず魅入ってしまうのと同じ要素が、この講義録にはあるかと思われます(「平成」でやっていたのと全く同じ実験があった)。プレゼンテーターとしても卓越していますが、単に解り易いだけでなく、格調が高い!

ファラデーのクリスマス講演

 この講演をした場所は「王立研究所」ですが、角川文庫版の訳者・三石巌の解説によると、彼自身は貧しい鍛冶屋の次男に生まれ、製本屋の小僧をしていたのが、何事にも探求心の強い彼を見て、製本屋の主人が、彼が屋根裏部屋で化学実験をすることを励ました―そして、たまたま製本屋を訪れた客に、王立研究所で化学の講義があることを教えてもらい、その講演を聴いて科学に一生を捧げることを誓い、後に数多くの化学や物理の法則・原理を発見したというから、スゴイ人です。

 貧困は環境の1つの要素に過ぎず、本人の情熱や周囲の人の思いやり、思わぬ人との出会いが、その人の人生を大きく変えるということでしょうか。
 
 【1933年文庫化・1956年改版[岩波文庫(矢島祐利:訳)]/1962年再文庫化[角川文庫(三石巌:訳)]/1972年再文庫化[講談社文庫(吉田光邦:訳)]/1974年再文庫化[旺文社文庫(日下実男:訳)]/2010年再文庫化[岩波文庫(竹内敬人:訳)]】

《読書MEMO》
●2019年ノーベル化学賞受賞・吉野彰さん(「ロウソクの科学」で目覚めて...)2019.10.10
ノーベル賞  吉野彰さん ロウソクの科学1.png

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