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『北回帰線』についての着眼点などがいい。もっと作品数を絞ってもよかった。
『アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)』 ['00年] ヘンリー・ミラー 『北回帰線』
アメリカ文学作品の紹介や翻訳で定評のある著者が、「名前」「幽霊の正体」「建てる」といった鍵言葉を設定し、その言葉から思いつく作品をいくつか挙げて解説したもので、「強引に三題噺的結びつけて語った」と前口上にあるように、キーワードからランダムに作品を拾いながら、アメリカ文学の全体像が何となく浮かび上がれば、といった感じの試みでしょうか。
気楽に読めるけれども、それぞれの分析は鋭く新鮮で、著者自身は、1つ1つの作品について述べていることは研究者の間ではそれほど目新しいことではないと謙遜していますが、著者なりの作品評価も窺えて興味深かったです。
但し、対象となる「アメリカ文学」と言ってもその幅が広く、メルヴィル、ヘンリー・ジェイムズ、エドガー・ポーなどから現代作家まで幅広く抽出していて、日本文学で言えば、江戸近世文学から村上春樹まで扱っているようなもので、その部分での散漫さは否めないような気もし、「破滅」「組織」「勤労」といった抽象概念をキーワードに多く選んでいるのも、少しキツイ。
1つのキーワードについて、例えば、「食べる」であれば、ヘンリー・ミラーの『北回帰線』とカーヴァーの『ささやかだけれど、役にたつこと』に殆ど費やしていて、一方で、項によっては、並列的に幾つもの作品を取り上げている箇所もあり、この辺りも、方法論的にこれで良かったのか(著者自身は、型を気にせず楽しみながら書いている感じだが)。
結局、個人的には、「性の世界」を描いたと思われている『北回帰線』が、ミーラー自身を模した主人公の視点で眺めると、「食べること」に固執した作品と見なすことができるという論が、意外性もあり、また、よく検証されている分、最も印象に残り、同じ項のカーヴァーの作品で、子供を交通事故で亡くした両親にパン屋がパンを食べさせる話を通して、「食べること」が持つ救いを示していることを解説した部分も、紹介の仕方が旨く、印象に残りました。
大体、各項これぐらいに作品数を絞って、作品ごとにもっとじっくり解説した方が良かったのでは。