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小説に対する真摯な姿勢を感じたが、パッチワーク的印象も。
『一億三千万人のための小説教室』 岩波新書 〔'02年〕
評判はいいし、実際に読んでみると面白い、でも読んだ後それほど残らない本というのがたまにあり、本書は自分にとってそうした部類に入るかも知れません。
内容は、小説作法ではなく、「小説とは何か」というある種の文学論だと思えるし、ユーモアのある筆致の紙背にも、小説というものに対する著者の"生一本"とでも言っていいような真摯な姿勢が窺えました。
しかし一方で、良い小説を書く前にまず良い読み手でなければならない、という自説に沿って小説の「楽しみ方」を示すことが、同時に「書き方」を示すことに踏み込んでいるような気もして、その辺の混在感がインパクトの弱さに繋がっているのではないだろうかとも。
この本もともとは、NHKの各界著名人が母校の小学校で授業をするという番組企画からスタートしているようですが、著者は本稿執筆中に斎藤美奈子氏の『文章読本さん江』('02年2月 筑摩書房刊/小林秀雄賞受賞)を読み、
「この『文章読本さん江』の誕生によって、我が国におけるすべての「文章読本」はその息の根を止められたのである」
とこれを絶賛していて、併せて本稿を全面的に書き直す必要を感じたようで、その辺りがこうしたパッチワーク的印象になっている原因かなという気もしました。
「模倣」することの意義については、それなりに納得性がありましたが、今までにもこうした考え方はいろいろな人によって示されていたような気がします。
事例の採りあげ方などから、ブンガクの現況をより広い視野で読者に知らしめようという著者の意図を感じましたが、随所に見られる過剰なサービス精神が個人的にはやや気になりました。
頭のいい著者のことですから、こうしたこともすべて計算のうえでやっているのかも知れませんが...。