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現代人の「心の悩み」の代表的パターンとその治癒過程をケーススタディで知る。
『「心の悩み」の精神医学 (PHP新書)』 ['98年]
著者は、毎日たくさんの患者を診ている精神科医(現在、日本うつ病学会理事長)ですが、著者によれば、精神科医というのは、患者が病気であるかどうかには関心が薄く、患者の「心の悩み」をどう解決するかが最大関心事であるとのこと。そうした考えに基づき、現代人に多く見られる、或いは近年増えている症例パターンとその治療過程を、精神科外来を訪れた8人の患者のケースで紹介しています。
それぞれの章に著者が付けたタイトルは、
・ パニック・イン・中央線特別快速 (パニック障害、ノイローゼ)
・ うつ・ウツ・鬱 (うつ病)
・ 耐える母 (自律神経失調症、心身症、アダルト・チルドレン)
・ 災難の後遺症 (PTSD)
・ 過食の盛典 (過食症、摂食障害)
・ 偉大な父の息子 (気分変調症、エディプス・コンプレックス)
・ 境目にいる人達 (ボーダーライン)
・ 濡れ落ち葉を踏みしめて(仮性痴呆症、老年うつ病)
となっていて(カッコ内は、同じ章でノートやコラム的に解説されているもので、タイトルの指す症状とは必ずしも意味的にはイコールではない)、学術的な精神疾患の分類系統によらず、現代社会に顕著にみられる病理を横断的に取り上げていることがわかります。
200ページ足らずの新書でやや詰め込み過ぎかなという感じもあるものの、ケーススタディを中心に据え、「心の悩み」に起因する症状の発生から、それを認知し治癒に至るまでを具体的に書いているため、たいへん理解し易いものとなっています。
90年代に書かれたものであり、「PTSD」の解釈を広くとっていることなどには当時の傾向を感じますが、全体としては、10年前に書かれたものにしては、比較的現在までを見通した"ラインアップ"になっているように思え、著者の眼の確かさを窺わせます。
但し、それぞれについて典型例が紹介されているだけとも言え、関心がある分野については、分野ごとの入門書なり専門書を併読しないと、ふわっとした感じの理解だけで終わってしまうかも知れない本でもあります。