【906】 ○ 大貫 良夫 『アンデスの黄金―クントゥル・ワシの神殿発掘記』 (2000/05 中公新書) ★★★★

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中南米最古の黄金遺跡の「発掘物語」&博物館建設に向けた小村の「村興し物語」。

アンデスの黄金―クントゥル・ワシの神殿発掘記.jpgアンデスの黄金―クントゥル・ワシの神殿発掘記 (中公新書)』 ['00年] 大貫 良夫.jpg 大貫良夫 氏 (東大教授・文化人類学者)

クントゥル・ワシ.jpg 南米ペルーの北部高地にある前インカ文明の遺跡クントゥル・ワシを、東大古代アンデス文明調査団(代表:大貫良夫氏)が1988年から6回にわたり発掘調査した際の記録で、こうした発掘調査にはフィールドにおける地元の住民の協力が必要不可欠(労働力供給、宿泊・食事等)なのですが、とにかく、この遺跡のある村は貧しく、村人はみな遺跡のことは知っていてもいつの時代のものかも知らず、「約30年前」のものかと思っていたというのにはビックリ。この神殿遺跡の建設はイドロ期(紀元前1100-700)に始まるため、「30年」どころか「3000年」も前のものなのだから。

 発掘開始の翌年には、遺跡から黄金の冠などの多くの金製の副葬品を伴う墓が幾つも見つかり、そうなると今度は村人たちは、村が貧しいだけに、「金が出た」と色めきたつ一方で、出土品は国や大都市が召し上げ、当の村には何一つ残らないのではないかと疑心暗鬼になり(今までの国内での遺跡発掘が常にそうであった)、調査隊への協力を躊躇する―。
 そこで、大貫代表は村人たちの信頼を得るため、この村に「宝物」を展示するための博物館を建設しようと提案し、村人に募金を募りますが、集まったのはたったの4万円。
 そこで、更に大貫氏は、出土した黄金の冠などの「宝物」を日本へ持ち帰り、そこで展覧会をやって博物館建設のための資金にする、「宝物」は必ず地元に戻し、最終的には、これから建設する「クントゥル・ワシ博物館」に置くようにすることを提案します。

クントゥル・ワシ博物館.jpg こうした村民との粘り強い交渉の過程がリアルに描かれており(村人は何事も村の集会で決議する。それにしても度々集まるのには感心)、本書は、中南米最古の黄金文明遺跡の発掘記録であり、前インカ文明についての入門解説書であるとともに、博物館の開設に至るまでの"村興し運動"の記録でもある(こちらの方が内容的なウェイトが高い?)と言えます。
 調査団メンバーだった関雄二氏も、「住民の遺跡保護に対する関心を高まることで、地域社会の成員としてのアイデンティティも高まり、同時に遺跡保護も可能になるという、興味深い結果がもたらされた」と、述べています。
「クントゥル・ワシ博物館」-国立民族学博物館HPより

 NHKのディレクターの1人が大貫氏の大学時代の山岳仲間だった関係もあって、この「発掘&村興し物語」には途中からカメラが入り、「NHKスペシャル・アンデス黄金騒動記」として、'95年1月に放映されています。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年5月23日 23:05.

【905】 ○ 水木 しげる 『カラー版 妖怪画談』 (1992/07 岩波新書) ★★★☆ (○ 『カラー版 続 妖怪画談』 (1993/06 岩波新書) ★★★☆) was the previous entry in this blog.

【907】 ○ 高野 潤 『カラー版 インカを歩く』 (2001/05 岩波新書) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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