【866】 ◎ 吉田 裕 『昭和天皇の終戦史 (1992/12 岩波新書) ★★★★☆

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終戦工作の全容をわかり易くまとめつつ、「昭和天皇独白録」が天皇の戦争責任弁明書であることを検証。
昭和天皇の終戦史.jpg昭和天皇の終戦史 (岩波新書)』['92年] 「大元帥」 昭和天皇.jpg「大元帥」昭和天皇(昭和3年11月)

吉田 裕 『昭和天皇の終戦史』.jpg皇居.jpg 1990年に発見された「昭和天皇独白録」は、その率直な語り口を通し戦争時における天皇の苦悩や和平努力が窺え、国民を感動させましたが、歴史家の秦郁彦氏は、これは東京裁判で天皇を無罪にするために「作成」されたものであり、その英文版がどこかに在るはずだと言ったら、本当にその通りだった―。

 本書は、戦後処理、戦争責任を巡る政局において、天皇をとりまく宮中グループが、「国体保持」とういう旗印のもと、どのように終戦工作に走ったのかを追うとともに、15年戦争開戦に遡って、開戦に至る経緯や泥沼化の過程での国の指導者たちの果たした影響を洗い出し、「独白録」が作られた経緯とその内容を検証しています。
近衛文麿
近衛文麿.jpg 天皇の側近者である宮中グループは、軍部と積極的に同調し15年戦争を推進したのですが(天皇自身も大元帥として東條英機らに指示を下した)、中には近衛文麿のように、太平洋戦争開戦に反対し、戦争末期には天皇に早期終戦を上奏しつつ、一方で秘密裡に「天皇退位工作」に動いた分派的な人もいたとのことで、但し、自らもインドシナ侵攻などには賛成した経緯がありながら、東條英機ら軍部に全責任を押し付けるという点では本流グループと同じだったのが、自らに戦争責任が及び逮捕されるに至って自殺してしまう―。

昭和天皇独白録.jpg その後も内外に天皇の責任を追及する声はあったけれど、戦争末期から「天皇制維持工作」をしていた宮中グループ(この時間稼ぎの間にも原爆が投下されたりしているのだが)の意向は、詰まるところ、占領統治を円滑にするには「天皇制維持」が望ましいとする米国の考えに一致するものであり、あとは連合軍諸国を納得させ、且つ天皇に戦争責任が及ぶのを防ぐにはどうするかということで、宮中グループ、中でも米国とのパイプの強い寺崎英成らが、「天皇の無罪」の証拠を作る―それが「昭和天皇独白録」だったのだなと。
昭和天皇独白録

寺崎英成.jpg 寺崎英成(柳田邦男の『マリコ』では日米の架け橋的人物として描かれている)という人物の光と影、「独白録」にも記されていない満州事変や日中戦争の責任問題(加害者意識ゼロ)、東條英機に全責任を負わせるための本人への説得工作(担当した田中隆吉は天皇から「今回のことは結構であった」と"ジョニ赤"を東條英機に賜った)等々、改めて驚くような内容が書かれています。
寺崎英成

 著者が30代後半の時の著作ですが、膨大な資料調査を背景としつつ、終戦工作の全容をわかり易くまとめていて、更に、「独白録」が昭和天皇の戦争責任弁明書であることを検証しています(当然のことながら、こうした本を頭から否定する人もいるだろう)。
 「独白録」発見の2年後に刊行されたのは、当時、「独白録」の実態解明に向けて学者間に競争原理が働いたこともあったでしょうが、著者の力量を感じました。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年3月 4日 23:31.

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