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ルネッサンスから近代絵画まで、1作ずつ謎解きから入る読みやすい入門書。

『名画を見る眼』〔'69年〕『名画を見る眼 続 (2) (岩波新書 青版 785)』〔'71年〕『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで (岩波新書 新赤版 1976)』['23年]『カラー版 名画を見る眼Ⅱ 印象派からピカソまで (岩波新書 新赤版 1977)』['23年]
ルネッサンス期から印象派の始まり(マネ)までの代表的な画家の作品15点選び、その絵の解説から入って、画家の意図や作風、歴史的背景や画家がどのような人生を送ったのかをわかりやすく解説した手引書です。高踏的にならず読みやすい文章に加え、まず1枚の名画を見て普通の人がちょっと変だなあと感じるところに着目して解説しているので、謎解きの感じで楽しめます。
例えば、ファン・アイクの「アルノルフィニ夫妻の肖像」は、絵の真ん中の鏡の中に微細画として室内の全景が描かれていることで知られていますが、著者は、その上に書かれた「ファン・アイクここにありき」という画家の署名に注目し、なぜこんな変わった署名をしたのかを問うて、これが婚礼の図であり、画家は立会人の立場でこの作品を描いていると...といった具合。

「アルノルフィニ夫妻の肖像」 部分拡大

新書なので絵そのものの美しさは楽しめませんが、比較的有名な作品が多いので画集や教育用のサイトでも同じ作品を見つけることは可能だと思います。
ただし、例えばベラスケスの「宮廷の侍女たち」のような、離れて見ると柔らかい光沢を帯びた衣裳生地のように緻密に見えるのに、近づいてみるとラフな筆触で何が描かれているのか判らないという不思議さなどは、マドリッドのプラド美術館に行って実物を見ない限りは味わえないないわけですが...、これを200年後の印象主義の先駆けと見る著者の視点は面白いと思いました(というか、ベラスケス恐るべし!といったところでもある)。
2年後に刊行の『続』は、歴史的に前著に続く印象派(モネ)から、後期印象派、さらにはピカソなど近代抽象絵画まで14点をとりあげています。カンディンスキーが自分のアトリエに美しい絵があると思ったら、自作が横倒しになっていたのだったというエピソードは面白い。それで終わらないところが天才なのですが...。
ベラスケス 「宮廷の侍女たち(ラス・メニーナス)」 全体と部分拡大

(●2023年にカラー版が刊行された。変更点は、①15点の作品が大きくカラー化された、②参考図板63点が新たに収録された、③記述は旧版のままで、最新の研究成果は各章末の注で示した、など。カラー部分も従来どおりの岩波新書の紙質であるため、あくまでも解説重視だとは思うが、それでもカラーになっている分ありがたい。ただし、kindle版で観ると比較的奇麗に見えるようだ。加えて、部分拡大もできるので、見え方にこだわる人は紙の本よりもそちらの方がいいかも。)
《読書MEMO》
●とりあげている作品(正)
ファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」/ボッティチェルリ「春」/レオナルド「聖アンナと聖母子」/ラファエルロ「小椅子の聖母」/デューラー「メレンコリア・1」/ベラスケス「宮廷の侍女たち」/レンブラント「フローラ」/プーサン「サビニの女たちの掠奪」/フェルメール「画家のアトリエ」/ワトー「愛の島の巡礼」/ゴヤ「裸体のマハ」/ドラクロワ「アルジェの女たち」/ターナー「国会議事堂の火災」/クールベ「アトリエ」/マネ「オランピア」
高階 秀爾(美術評論家)
2024年10月17日、心不全のため死去。92歳。美術史家。東京大学文学部名誉教授。日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章受章者。西洋美術から現代美術まで幅広く論じ、美術の魅力を親しみやすく語った。
