【836】 ◎ 川崎 二三彦 『児童虐待―現場からの提言』 (2006/08 岩波新書) ★★★★☆

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問題の根は深く、児童相談所を責めるだけでは解決にはならないと知った。

児童虐待の相談件数.gif児童虐待 現場からの提言.gif 『児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)』 〔'06年〕

 児童虐待事件が報じられる度に批判に晒されるのが児童相談所であり、自分自身も憤りを感じていたのですが、児童相談所に長く勤務し、児童福祉士(ソーシャルワーカー)として現場に携わっている著者による本書を読んで、問題の根は深く、児童相談所を責めるだけでは何ら問題の解決にはならないことを思い知りました。

 そもそも、何が「児童虐待」に該当するのか定義づけが難しく(アンケートでは、家庭での躾の一環としての体罰はやむ得ない場合があるとする親が半数を占めている)、「子どもの安全確保」のためにと言っても、体罰を含む「親の懲戒権」を全部認めないわけにもいかない―。ネグレクトにしても、『はじめてのおるすばん』('72年/岩崎書店)という3歳の子が1人で留守番をする話の絵本がありますが、カナダではこれはネグレクトに該当するので出版できないとか。日本ではそこまで言えないでしょう。

 最も難しい問題は、「子どもの安全確保」のための一時保護などに対し、「児童相談所が福祉警察になりつつある」という批判があることで、子どもを保護しても保護しなくてもそれぞれに批判されるならば、相談員は動きがとれないだろうなあと。'00年に成立した児童虐待防止法は、その後も「岸和田事件」など悲惨な事件が相次いだために、児童相談所の立ち入り権限を強化する方向で改正されていますが、司法(家裁)や警察は、それを認めたり援助したりするだけで、自ら率先しては動かず一歩引いたところにいるという感じ。

 虐待をしている母親自身が被害者であることも多く、児童相談所の仕事は家族カウンセリングの要素を多く含むが、カウンセリングしているところが立ち入り調査や子どもの強制的な一時保護をするとしたら、カウンセリングに必要な信頼関係を築くのは難しいという著者の指摘は尤も。

 本書では、相談員の質・量にわたる不足も指摘していますが、自治体職員として勤務している人は、ローテーション人事で児童相談所や自治体の窓口に居るだけで、まったくの素人みたいな人が多いのも事実。著者は、この問題にあたる人材の育成の必要性を力説していますが、大いに共感させられるとともに、国レベルでの対応の必要(相談所は都道府県の所管)を感じました。

《読書MEMO》
●その後の児童虐待相談件数の推移(平成29年度まで)
平成29年度の児童虐待.jpg

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