【780】 ○ 山村 浩二 『カラー版 アニメーションの世界へようこそ』(2006/06 岩波ジュニア新書) ★★★★ (○ 山村 浩二 「頭山」 (02年/日本) ★★★★/○ レフ・アタマノフ 「雪の女王」 (57年/ソ連) ★★★★/○ カレル・ゼマン 「水玉の幻想」 (48年/チェコ)★★★★)

「●まんが・アニメ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1253】 鳴海 丈 『「萌え」の起源
「●岩波ジュニア新書」の インデックッスへ 「●や‐わ行の日本映画の監督」のインデックッスへ 「●日本のアニメーション映画」のインデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●あ行の外国映画の監督」のインデックッスへ 「●さ行の外国映画の監督②」のインデックッスへ 「●外国のアニメーション映画」のインデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」のインデックッスへ

著者の手づくりへのこだわり。手づくりアニメは純粋芸術化していくのか?
アニメーションの世界へようこそ.jpg Atama Yama (Mt. Head).jpg 頭山」山村浩二作品集 1.jpg  雪の女王 dvd.jpg  水玉の幻想 INSPIRACE.jpg
アニメーションの世界へようこそ (岩波ジュニア新書)』「「頭山」山村浩二作品集 [DVD]」「雪の女王 [DVD]」「カレル・ゼーマン作品集 [DVD]
アニメ「頭山」.jpg ケチな男が拾ったサクランボを種ごと食べてしまったため、種が男の頭から芽を出して大きな桜の木になる。近所の人たちは大喜びで男の頭に上って、その頭を「頭山」と名づけて花見で大騒ぎ、男は頭の上がうるさくて苛立ちのあまり桜の木を引き抜き、頭に大穴が開く。この穴に雨水がたまって大きな池になり、近所の人たちが船で魚釣りを始め出し、釣り針をまぶたや鼻の穴に引っ掛けられた男は怒り心頭に発し、自分で自分の頭の穴に身を投げて死んでしまう―。
 
ほら吹き男爵の冒険 サクランボ.jpg落語 頭山.jpg 江戸落語「頭山」(上方落語では「さくらんぼ」)を基にした短編アニメ「頭山」('02年)、シュールな展開が面白かったです。このタイプのナンセンスは個人的好みでもありました。徒然草の「堀池の僧正」が元ネタであるという説があるそうですが、西洋でも、ビュルガー原作の小説「ほら吹き男爵の冒険」の中に、男爵が大鹿めがけて撃ったサクランボの種が鹿の額に命中し、後日、男爵はあたま山 アニメ.jpg頭からサクランボの木を生やしたその鹿と遭遇してこれを射止め、シカ肉とサクランボソースの両方を堪能する―という話があり、サクランボという点で符合しているのが興味深いです。ユーリー・ノルシュテインなどの影響も感じられ、一方で語りは浪曲師の国本武春が弁士を務めているジャパネスク風というこのアニメ作品、世界4大アニメーション映画祭(アヌシー・ザグレブ・オタワ・広島)のうちアヌシー、ザグレブ、広島でグランプリを獲得し、第75回アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされ、内外23の映画祭で受賞・入賞を果たしたそうです。

 本書は、その「頭山」の作者であるアニメーション作家・山村浩二氏が、ジュニア向けに書き下ろしたアニメーション入門書(山村氏は今年['07年]、「カフカ 田舎医者」('07年)で、オタワ国際アニメーション映画祭で日本人初のグランプリを獲得し、これで4大アニメーション映画祭のすべてにグランプリを獲得したことになる)。

アルタミラ洞窟画.jpg アニメーションの誕生から現代に至るまでの歴史を辿り、「頭山」のメーキングから、アニメーションの作り方までを、編集・録音、発表・公開まで含めて(この辺りは職業ガイド的)紹介しています。

 アニメーションの発想が、アルタミラの洞窟画の牛の絵などにも見られるというのが面白く(疾走感を表すために前脚が3本描かれているものがある)、法隆寺の玉虫厨子(日本橋高島屋に立派なレプリカがありましたが、今どうなったか?)の「捨身飼虎図」(しゃしんしこのず)なども、ナルホド、アニメーションの発想なのだなあ。  
 
雪の女王.jpg アニメの歴史は映画の歴史とほぼ同時に始まっていて、東欧圏とかに結構いい作品があるのを知りました。

 ロシアン・アニメはレフ・アタマノフ監督の「雪の女王」('57年/ソ連)(アンデルセン原作)など、何本か観たことがありましたが、ディズニーのものとはまた違った趣きがあって良かったです(「三鷹の森ジブリ美術館」の館主・宮崎駿監督が監修した新訳版が来月('07年12月)公開予定)。

水玉の幻想1.jpg 本書はカラー版なので写真が美しく、カレル・ゼマン(或いはカレル・ゼーマン)(KAREL ZEMAN 1910-1989/チェコ)「水玉の幻想」(Inspiration 1948年)などは、動いているところをまた見たくなります(これも手づくり作品の極致)。物語は、ガラス細工職人が、創作にちょっと行き詰ったある日、窓の外の雨の中に見た幻想という形をとっており、木の葉を伝う雨の一雫の中に幻想の世界が広がり、踊り子とピエロの儚い愛の物語が展開するガラス人形アニメーションで、人や動物、草や木、湖や海まで全てガラスで作られており、それらをコマ撮りしてここまでの高度な芸術世界を創り上げているのは、ボヘミアンガラスのお膝元とは言え、驚嘆させられるものがあります。長さ10分強の短編ですが、ゼマンにはこの他に、ジュール・ヴェルヌの小説などを映像化した長編作品もあります(代表作は「盗まれた飛行船(Ukradená vzducholoď)」(原作『十五少年漂流記』 88分、1966年))。 

 本書の全編を通じて、著者の手づくりへのこだわりが感じられます。「頭山」も長さ10分ほどの作品ですが、原画は1万6千枚だそうで、構想から完成までの期間は6年! アニメの作り方も「霧の中のハリネズミ」('75年/ソ連)のユーリー・ノルシュテインなどに似ています。作者(著者)は、自分が今生きているとはどういううことなのか、という哲学を、この作品で描きたいと思ったそうです。

 '06年にディズニーがCGアニメのピクサー社の買収を発表しましたが(ピクサーCEOスティーブ・ジョブズはディズニーの筆頭株主に)、今後ますます世界の商業アニメのCG化は進むだろうと思われ、こうした手づくりアニメは純粋芸術化していくような気もしました。

頭山es.jpg 「頭山」●英題:MT. HEAD●制作年:2002年●監督・演出・アニメーション・編集・製作:山村浩二●脚本:米村正二 ●原作:落語「頭山」●時間:10分●声の出演:国本武春/ブルーノ・メッカー●公開:2003/04●配給:スローラーナー=ヤマムラアニメーション(評価:★★★★)

雪の女王es.jpg雪の女王ド.jpg 「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

カレル・ゼマン 水玉の幻想 dvd.jpgカレル・ゼマン 水玉の幻想 .jpg mizutama.jpg 「水玉の幻想」●原題:INSPIRACE●制作年:1948年●制作国:チェコスロバキア●監督:カレル・ゼマン(ゼーマン)●時間:12分●公開:1955/06●配給:独立映画(評価:★★★★)
  
 
幻想の魔術師 カレル・ゼマン コレクターズBOX [DVD]」所収作品:「クラバート」「彗星に乗って」「鳥の島の財宝」「前世紀探検」「シンドバッドの冒険」「狂気のクロニクル」「ホンジークとマジェンカ」「クリスマスの夢」「プロコウク氏 映画製作の巻」「プロコウク氏 家作りの巻」「プロコウク氏 靴屋はいやだの巻」「プロコウク氏 発明の巻」「王様の耳はロバの耳」「ハムスター」「幸運の蹉跌」

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1