【247】 △ 大野 晋 『日本語練習帳 (1999/01 岩波新書) ★★★

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面白い指摘もあったが、そんなに売れるほどの内容かなと...。

日本語練習帳.jpg 日本語練習帳.gif 『日本語練習帳』岩波新書 〔'99年〕 大野晋.jpg 大野 晋 氏(学習院大学名誉教授/略歴下記)

 それまで岩波新書で一番売れた『大往生』(永六輔/'94年)の記録230万部に迫る、180万部を売り上げたベストセラー。「練習帳」というスタイルは編集者のアイデアではなく、著者自身が以前から考えていたもので、編集者を実験台(生徒)にして問題の練り込みをしたそうです。

日本人の英語.jpg 面白いが指摘がありました。助詞「は」は、主語+「は」の部分で問題提示し、文末にその「答え」が来る構造になって、一方、「が」は、直前の名詞と次にくる名詞とをくっつけて、ひとかたまりの名詞相当句を作る「接着剤」のような役割があるというものです。そして、「は」はすでに話題になっているものを、「が」は単に現象をあらわすというのです。
 この指摘を読み、『日本人の英語』(マーク・ピーターセン著/'88年/岩波新書)の中にあった、「名詞」にaをつけるという表現は無意味であり、先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞ではなく、aの有無であるという指摘を連想しました。
バカの壁.jpg つまり「は」は、aという冠詞と同じ働きをし、「が」はtheという定冠詞と同じ働きをするのだと。
 そうすると、後に出た『バカの壁』(養老孟司著/'03年/新潮新書)でまったく同じ指摘がされていました。

声に出して読みたい日本語.jpg このように部分的には面白い点がいくつかありましたが、果たしてベストセラーになるほどの内容かという疑問も感じました。
 "ボケ防止"で売れるのではという声もあり、なるほど『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝/2001)などで本格化する日本語ブームのハシリかなとも思えなくもないが、『声に出して読みたい日本語』の方こそ"ボケ防止"っぽい気もする。
 むしろ著者の、日本語の敬語や丁寧語が、社会の上下関係からではなく、身内と外部の関係でつくられてきたといった指摘が日本文化論になっていて、そうした点が「日本人論」好きの国民性にマッチしたのでは。
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大野 晋 (オオノ・ススム)
1919(大正8)年、東京深川生れ。東京大学文学部国文学科卒。学習院大学名誉教授。「日本とは何か」という問題意識から古代日本語の研究を始め、上代特殊仮名遣・万葉集・古事記・日本書紀などを研究し「日本語はどこから来たか」を追究。著書に『岩波古語辞典』(共編)『日本語の起源 新版』『係り結びの研究』『日本語練習帳』『日本語と私』など。研究の到達点は『日本語の形成』に詳述されている。

《読書MEMO》
●「私が読んだこの本は、多くの批判もあるが面白かった」...「は」は文末にかかり、「が」は直下にかかって名詞と名詞を"接着"する
●「花は咲いていた」と「花が咲いていた」...「は」すでに話題になっているもの(the)、「が」は単に現象をあらわす(気がついてみたら...)(a)
●「日本語を英語にしろ」と言った志賀直哉は、小説の神様でなく、写実の職人

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大野晋(おおの・すすむ)2008年8月14日、心不全のため都内の病院で死去(88歳)。

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This page contains a single entry by wada published on 2006年8月23日 02:20.

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【248】 ○ 山口 仲美 『犬は「びよ」と鳴いていた―日本語は擬音語・擬態語が面白い』 (2002/08 光文社新書) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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