【467】 ◎ フョードル・ドストエフスキー(原 卓也:訳) 『カラマーゾフの兄弟 (上・中・下)』 (1978/07 新潮文庫) ★★★★★(◎ イワン・プィリエフ 「カラマーゾフの兄弟」 (68年/ソ連) (1969/07 東和) ★★★★☆/○ レフ・クリジャーノフ 「罪と罰」 (70年/ソ連) ★★★★)

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罪と罰 1970 ちらし.jpgミステリとしても味わえ、現代に繋がるテーマもふんだんに。

パンフレット.jpgカラマーゾフの兄弟.jpg カラマーゾフの兄弟 中巻.jpg カラマーゾフの兄弟 下巻.jpg
カラマーゾフの兄弟 上 新潮文庫 ト 1-9』『カラマーゾフの兄弟〈中〉 (新潮文庫)』『カラマーゾフの兄弟 下  新潮文庫 ト 1-11』「罪と罰(1970) [DVD]」 ('70年/ソ連)チラシ

映画「カラマーゾフの兄弟 [DVD]」('68年/ソ連)パンフレット['07年]                                    

Братья Карамазовы.jpg  1880年、ドストエフスキーが59歳の時に完結したこの小説は、ドストエフスキー作品自体が最近の若者に読まれなくなったとよく言われる中、かつて作家の村上春樹 09.jpg村上春樹氏が自らのサイトフォーラムで「全日本『カラマーゾフの兄弟』読了クラブ」(後にバー「スメルジャコフ」と改称)なるものを立ち上げ、読了者に〈会員番号〉を発行しますと宣言すると若い人のレスポンスが結構たくさんあって、そういうのを見ると結構読まれているのかなあという気もします(寄せられた感想が『海辺のカフカ』などの感想文と同じトーンなのがちょっと面白かった)。[右:ロシア語版ペーパーバックス]

 しかし、村上氏自身は結構真面目なのかも。 と言うのは、読者からの、オウム真理教に入るような人達も『カラマーゾフの兄弟』を一度読んでいたらオウムに入らなかったかもという感想に対し、「『カラマーゾフ』を読み通せる人の数は極めて限られている。一度でも読めば確かにオウムに入ろうとする人たちの大部分を阻止することはできるだろうけれど、とにかく『カラマーゾフ』は難しすぎるし長すぎる。自分がいつか成し遂げたいと思っていることは、もっとやさしくて読みやすい現代の『カラマーゾフ』を書くことだ。それは途方もなく難しいのだが」と答えていたから。

電子書籍版(グーテンベルグ21)
karamazov1.jpg 個人的には、ミステリの要素があり、しかも最後は泣ける(?)ので、精神的に構えて読む必要は全然ないのではとも思うのですが、時間的・体力的には準備が必要かもしれません。

 この大長編小説の前半3分の2ぐらいまでが僅か数日の間に起きた出来事であり、それは従来の歴年的文学長編と異なる特徴の1つだと思うのですが、加えて、挿話やカットバックが多く、それらが1つ1つの物語になっています(ほとんど"爆発的"に脇道へ逸れていく)。
 神の不在を問うた「大審問官」もその1つと見ることができますが、同時に主テーマの1つでもあり、また、その中に幼児虐待の問題が出てくるなど、常に現代と繋がる何かがあります。
 '06年からは亀山郁夫氏による新訳の刊行も始まり、まだまだ読まれ続けられるであろう作品だと思います。

 この作品は、作者であるドストエフスキーが時間(締め切り)に追われつつ書いた雑誌連載小説であり、確か、妻アンナ・ドストエフスカヤの回想記に書いてあったのではないかと思いますが、原稿を出版社に渡した後でストーリーが破綻していることに気づいて、慌てて印刷のストップをかけるなどし(間に合わないこともあった)、ドストエフスキーは自らを何度も罵倒したりしていたそうです。

カラマーゾフの兄弟 ロシア版ポスター.jpg 映画や芝居でも観ましたが、イワン・プィリエフ(Ivan Pyryev)監督の「カラマーゾフの兄弟」('68年)は堂々たる本場モノで、4時間近い上映時間の長さを感じさせないものでした。
 リチャード・ブルックス監督のアメリカ版「カラマーゾフの兄弟」('57年)もあり、テレビで一部だけ観ましたが、ユル・ブリンナーがドミートリイ、マリア・シェルがグルーシェニカという異色の取り合わせで、何だか国籍不明映画みたいな感じでした。

 但し、本場物であればいいというものではなく、トルストイの小説の映画化作品である「復活」('61年・ミハイル・シヴァイツェル監督)「アンア・カレーニナ」('67年・アレクサンドル・ザルヒ監督)は、何となくメロドラマみたいになってしまっています(「アンア・カレーニナ」のタチアナ・サモイロワはいい女優なのだが...)。
映画「カラマーゾフの兄弟」輸入版ポスター

THE BRATYA KARAMAZOVY 1968 1.jpg プィリエフの「カラマーゾフ」にもそのキライが無いわけではないですが、「復活」や「アンナ...」と比べると骨太であると思いました。ストーリー的には原作を読んでいないとキツイかもしれませんが、ミステリとしても成立していて、キャスティングも原作のイメージにほぼ沿ったものでした(この映画の撮影中にプィリエフ監督は急死し、ドミトリ役のミハエル・ウリャーノフらが監督の遺志を引き継いで映画を完成させた)。

THE BRATYA KARAMAZOVY 1968 2.jpgカラマーゾフの兄弟  dvd.jpg ただ1つ難を言えば、ドミートリーなどを演じている俳優が若干老けて見えることで、ロシア人が髭などのせいで大体そう見えてしまうのか、それとも、この物語で主役級を演じようとすると、相当に役者としての年季を踏まなければならないということだったのかなどと、色々憶測していますが、それも許容範囲内か。
Directed by: Ivan Pyr'ev, Mikhail Ulyanov, Kirill Lavrov Cast: Mikhail Ulyanov, Kirill Lavrov, Andrei Myagkov Mark Prudkin, Olga Kobeleva, Viktor Kolpakov
カラマーゾフの兄弟 [DVD]」 ['07年]

罪と罰 1970 dvd.jpg 因みに、ドストエフスキー作品を映画化したもの中で原作の雰囲気をよく伝えているものと言えば、個人的にはレフ・クリジャーノフ 脚本・監督のソビエト映画「罪と罰」('70年)ではないかと思います。こちらも3時間40分もの長尺ですが、その分本格的です。倒叙型ミステリとも言え(ドストエフスキーの長編は全て現代に繋がるテーマを孕むとともに、ミステリの形態を模しているとも言われる)、ゲPRESTUPLENIE I NAKAZANIE 1.jpgオルギー・タラトルキン(当時新人)のラスコーリニコもタチアナ・ベドーワのソーニャも良かったように思います(ソーニャはマルメラードフ老人の前妻の子で、家計を助けるために躰を売っているのだが、どう見ても娼婦には見えない。それだけに痛々しさはある)。
罪と罰(1970) [DVD]

 ラスコーリニコフと、老婆殺人事件担当の予審判事ポルフィーリ(インノケンティ・スモクトノフスキー)との神の存在めぐる論戦は、舌鋒鋭い禿頭ポルフィーリが優勢でしょうか。漠然とした神学論争ではなく、ちゃんと事件に被せた議論になっています。ラスコーリニコフの妹PRESTUPLENIE I NAKAZANIE 2.jpgドゥーニャ(ヴィクトリア・フョードロワ)に執拗に迫るスビドリガイロフ(エフィム・コベリヤン)のぎらついた感じも生々しく、最後にドゥーニャが涙を流しながらスビドリガイロフに拳銃を向ける場面はややメロドラマ調ですが(この2人の話のウェイトが2部構成の第2部のかなりを占め、原作より比重が重い)、これもまあヴィクトリア・フョードロワの美しさで許してしまおうかという感じ。
 公開されて暫くのうちに観て、その後ずっと記憶の上ではかなり古い映画だと勘違いしていたのですが、その割にはスローモーションとか使って映像が洗練されていたなあと思ったら、意外と新しい作品でした。この作品の場合、敢えてモノクロで撮っているのが成功しているように思えます。

i「カラマーゾフの兄弟」.jpgTHE BRATYA KARAMAZOVY 1968 iwan.jpg『カラマーゾフの兄弟・完全版』.jpg「カラマーゾフの兄弟」●原題:THE BRATYA KARAMAZOVY●制作年:1968年●制作国:ソ連●監督:イワン・プィリエフ●撮影:セルゲイ・ウルセフスキー●原作:: フェードル・M・ドストエフスキー●時間:227分●出演:ミハエル・ウリャーノフ/リオネラ・プイリエフ/マルク・プルードキン/ワレンチン・ニクーリン/スベトラーナ・コルコーシコ ●日本公開:1969/07●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-11-21) (評価★★★★☆)

復活 トルストイ dvd.jpgVoskresenie(復活).jpg「復活」●原題:VOSKRESENIE(Resurrection)●制作年:1961年●制作国:ソ連●監督:ミハイル・シヴァイツェル●撮影:エラ・サベリエフ/セルゲイ・ポルヤノフ●音楽:G・スビリドフ●原作:レフ・トルストイ●時間:208分●出演:タマーラ・ショーミナ/エフゲニー・マトベェフ/パウエル・マッサリスキー/ヴィ・クラコフ●日本公開:1965/03●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸坐(86-04-20) (評価★★★)●併映:「アンア・カレーニナ」(アレクサンドル・ザルヒ)復活 [DVD]」 ['03年]

アンナ・カレーニナ dvd.jpgアンナ・カレーニナ スチール.jpg「アンナ・カレーニナ」●原題:ANNA KARENINA●制作年:1967年●制作国:ソ連●監督・脚本:アレクサンドル・ザルヒ●撮影:レオニード・カラーシニコフ●音楽:ロジオン・シチェドリン/モスクワ室内オーケストラ●原作:レフ・トルストイ●時間:144分●出演:タチアナ・サモイロワ/ワシリー・ラノボイ/ニコライ・グリツェンコ/アナスタシア・ヴェルチンスカヤ/イヤ・サーヴィナ●日本公開:1968/05●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(86-04-20) (評価★★★)●併映:「復活」(ミハイル・シヴァイツェル)アンナ・カレーニナ [DVD]」 ['04年]

「罪と罰」●原題:ПРЕСТУПЛЕНИЕ и НАКАЗАНИЕ(PRESTUPLENIE I NAKAZANIE)●制作年:1970年●制作国:ソ連●監督:レフ・クリジャーノフ●脚本:レフ・クリジャーノフ/ニコライ・フィグロフスキ罪と罰 tirasi.jpgー●撮影:ヴァチェスラフ・シュムスキー●音楽:ミハイル・ジフ ●原作:フョードル・ドストエフスキー●時間:219分●出演:ゲオル罪と罰 [DVD] 2.jpgギー・タラトルキン/タチアナ・ベドーワ/インノケンティ・スモクトゥノフスキー/ヴィクトリア・フョードロワ/アレクサンドル・パブロフ/エフィム・コベリヤン/エフゲニー・レベチェフ/ウラジミール・バソフ●日本公開:1971/03●配給:東和●最初に観た場所(再見):池袋文芸坐(79-11-11) (評価★★★★)●併映:「貴族の巣」(アンドレ・ミハルコフ=コンチャロフスキー)

罪と罰 [DVD]」 ['98年]

 【1927年文庫化・1957年改版版[岩波文庫(全4巻)(米川正夫:訳)]/1961年再文庫化[新潮文庫(『カラマアゾフの兄弟』(全5冊))(原久一郎:訳)]/1972年再文庫化[講談社文庫(全3冊))(北垣信行:訳)]/1978年再文庫化[新潮文庫(全3冊))(原卓也:訳)]/1978年再文庫化[中公文庫(『カラマゾフの兄弟』(全5冊))(池田健太郎:訳)]/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(全4分冊)(亀山郁夫:訳)]】 

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