【450】 ◎ 谷崎 潤一郎 『痴人の愛 (1947/11 新潮文庫) 《(1925/07 改造社)》 ★★★★☆

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谷崎自身の願望の虚構化? 平易な文体だが、完成度、高いと言えるのでは。

痴れ人の愛 1925(大正14)年改造社.jpg痴人の愛.jpg 痴人の愛2.jpg   痴人の愛 谷崎潤一郎.jpg 痴人の愛 (中公文庫) _.jpg
痴人の愛 (新潮文庫)』〔新版/旧版〕『痴人の愛 (中公文庫)』(復刻版 1998)『痴人の愛 (中公文庫)』(2006)

痴人の愛』(改造社 1925年7月)

痴人の愛 田中良.jpg 1925(大正14)年刊行の谷崎潤一郎(1886‐1965)の長編耽美小説で(初出:「大阪朝日新聞」1924年3月20日~6月14日)、「一人の少女を友達にして、朝夕彼女の発育のさまを眺めながら(中略)、云わば遊びのような気分で、一軒の家に住む」という主人公の意図は、今で言う「育成ゲーム」を地でいく感じ。しかし、当時15歳のこの少女ナオミが実はとんでもないタマで、彼女を「立派な婦人に仕立ててやろう」という気でいた主人公は、成熟とともに増す彼女の妖婦ぶりに引き摺られ、ずるずると破滅への道を辿る―。

「大阪朝日新聞」連載時挿画(田中 良)

痴人の愛 田中良3.jpg 前半部分は前年に大阪朝日新聞連載されていますが(中公文庫版は新聞連載時の田中良による挿画を一部掲載)、検閲当局からに再三の注意が新聞社にあって、新聞社がこれに従ったため6月14日付の第87回をもって掲載中止となり、続きは4ヵ月後に雑誌「女性」で連載されました。今ならさしずめ渡辺淳一を日経で読むみたいなものでしょうが、当時としてはやはり風紀紊乱の恐れあり、ということにされてしまったのでしょう。また、後の文芸評論家たちは、通俗小説風でありながらも、このナオミに対する主人公の崇拝ぶりには、当時の日本人の西洋文化に対する崇拝が重なられているとも言っています(この作品もまた文明批評なのか?)。

痴人の愛 田中良2.jpg 最初に読んだときは、主人公の隷属ぶりがある種「悲喜劇」的であるように思えましたが、読み手に「こんな女性にかまけたら大変なことになる」という防衛機制的な思いを働かせるような要素があるかもしれません。だから、西洋文明云々言う前に、この小説の主人公を反面教師にし、実人生での教訓的なものを抽出する読者がいても不思議ではないのではないかと。でも、主人公がナオミに馬になってと言われて四つん這いになる場面で改めて思ったのですが、隷属することは同時に主人公の願望でもあったのでしょう。そうした願望は谷崎自身の内にもあって、それを第三者の告白体にすることで巧みに虚構化しているような感じもしました。平易な文体、単純な構成ですが、この作品の場合、かえってそのことで完成度は高いものとなっているように思います。

痴人の愛  .jpg 『現代漫画大観2 文芸名作漫画』(昭和3年発行)より「痴人の愛」

 因みに、この作品は、木村恵吾監督により2度映画化され、最初の「痴人の愛」('49年/大映)では京マチ子がナオミを演じ、2度目の「痴人の愛」('60年/大映)では叶順子がナオミを演じています。更に、増村保造監督によって映画化さ痴人の愛 京マチ子.jpg痴人の愛 叶順子.jpgれた「痴人の愛」('67年/大映)では安田道代(後の大楠道代)がナオミを演じました。この他にも、高林陽一監督の「谷崎潤一郎・原作「痴人の愛」より ナオミ」('80年/東映)のように現代版のピンク映画に翻案されたものが幾つかあります。
「痴人の愛」('49年)京マチ子、宇野重吉/「痴人の愛」('60年)叶順子、船越英二

木村恵吾監督「痴人の愛」('49年/大映)京マチ子(ナオミ)・宇野重吉(河合譲治)
木村恵吾監督「痴人の愛」('60年/大映)叶順子(ナオミ)・船越英二(河合譲治)
増村保造監督「痴人の愛」('67年/大映)安田道代(ナオミ)・小沢昭一(河合譲治)
痴人の愛...京マチ子e.jpg 痴人の愛 叶順子(ナオミ)・船越英二.jpg 痴人の愛 増村保造。安田道代.jpg
「痴人の愛」 (1949/10 大映) ★★★☆

【1947年文庫化・1985年・2003年改版[新潮文庫]/1952年再文庫化[角川文庫]/1985年再文庫化・2006年改版[中公文庫]/2016年再文庫化[宝島社文庫]/2016年再文庫化[角川文庫(アニメ「文豪ストレイドッグス」カバー版)]/2016年再文庫化[海王社文庫]】

《読書MEMO》
●「痴人の愛」...1924(大正13)年発表、1925(大正14)年完結

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 00:31.

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【451】 △ 谷崎 潤一郎 『蓼喰う虫』 (1948/12 岩波文庫) 《 『蓼喰ふ蟲』 (1929/11 改造社)》 ★★★ is the next entry in this blog.

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