【1719】 ○ 長谷川 公一 『脱原子力社会へ―電力をグリーン化する』 (2011/09 岩波新書) ★★★★

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やはり代替エネルギーも一応は考える必要があるが、「節電」=「発電」にはナルホドと。

脱原子力社会へ.jpg 『脱原子力社会へ――電力をグリーン化する (岩波新書)

 社会学者が、電力の「グリーン化」をキーワードに、海外の事例を引きながら、政府・企業・NGO・消費者の協働に基づく、未来志向的な「脱原子力大国」への政策転換を提言した本。

 冒頭第1章で、今回の福島第一原発の事故を振り返りつつ、なぜ原子力は止まらないのかを考察しています。その中で、原発の非常用発電機がタービン建屋内の「地下」にあったために津波で浸水し機能しなくなったことが指摘されていますが、これは広河隆一氏の『福島 原発の人びと』('11年8月/岩波新書)の中にもありましたが、竜巻やハリケーンを想定した「米国式設計」をそのまま採用し、東電は「フル・ターン・キ―契約」という始動気キーをひねるだけの契約で、全てはGEに丸投げだったということだったのだなあと。

 第1章で、地震列島に54基もの原発が立地することの「環境リスク管理」の技術的・経済的・社会的困難さがフクシマの事故で明らかになったとし、続く第2章で、エネルギーの効率利用と、脱原子力に基づく電力のグリーン化への転換を説いていいて、ここが本書の肝であると思われます。

 海外の事例の中ではアメリカの事例が冒頭にあり、アメリカは原発推進国とされてきたように感じていましたが、70年代後半には原子力ブームはもう終わっていたのだなあと。地域的な事例ですが、電力設備は増やさずに稼働率を高めるなどして脱原発を果たしたり、住民と電力会社が協働で太陽光発電の導入を推進したりといった事例が紹介されていて、それぞれに、「省電力は発電である」というコンセプトが根底にあるという点が興味深かったです。

 「グリーン・エネルギー」というと風力や太陽光発電が思い浮かびますが、節電することも、効果的には発電していることと同じになるわけか。「クリーン・エネルギー」という言葉は実際海外で使われているようですが、「クリーン電力」と言わず「グリーン電力」という言葉を著者が推すのは、「クリーンな電力」というのが原発の宣伝の常套句であったということもあるためのとのこと。

 グリーン化のために消費者ができることを、例えば、希望者が自発的に再生可能エネルギーの発電事業者に寄付する「寄付方式」など5通り挙げていて、その他「出資金方式」「「電力証書方式」「電力力金転嫁方式」などが紹介されてますが、主に海外の事例を参照しつつも、一部、国内でも限定的に試行されたりしているものもあり、この点は個人的には新たな知見でした。

 第3章では、日本の各地域からも脱原発の声が上がっていることを、住民投票などの事例で紹介していますが、まだ「脱原発」を訴えるだけで「代替エネルギー」等の提案までいってないのが大方の状況ながらも、前章の事例のほか、再生エネルギーによる地域おこし、市民風車や市民共同発電といったプロジェクトなどが紹介されています。

 「脱原発」を訴えるのはいいが、やはり次の代替エネルギーを考えないとね。そうした意味では、「脱原子力社会」へ向けての具体的な提案の書。
 但し、風力発電などは、効率面での失敗例もあるし、電磁波障害など新たな"公害"問題を引き起こしているケースもあったはず。そうしたネガティブ情報については、意識的に触れられていないように思えるのが、ややどうかなあという気も。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年4月 1日 20:35.

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