【1287】 ○ 久保田 千太郎(作)/久松 文雄(画) 『李陵―史記の誕生 (上・中・下) (コミック人物中国史)』 (1990/03 文藝春秋) ★★★★

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「史記」誕生の背景がわかり易く描かれ、勇将たちの男気がストレートに伝わってくる。

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李陵―史記の誕生〈上〉 (コミック人物中国史)』『李陵―史記の誕生〈中〉 (コミック人物中国史)』『李陵―史記の誕生〈下〉 (コミック人物中国史)』['90年] 久松文雄氏(2009)

李陵 ド.jpg 漢の武帝の時代、匈奴との戦いで敵軍の捕虜となった友人の武将・李陵を弁護して武帝の怒りに触れ、宮刑に処せられた太史令・司馬遷は、歴史の真実を書き残すために「史記」を書き始める。一方、最初は匈奴の王・且鞮候(しょていこう)単于からの仕官の誘いを拒んでいた李陵は、誤報により祖国で裏切り者扱いにされて家族を殺され、やがて単于の娘を娶り左賢王となるが、一方、北海(バイカル湖)のほとりには、同じく匈奴に囚われながらも祖国への忠節を貫いた武人・蘇武がいた―。

 「史記」の誕生に纏わる司馬遷、李陵、蘇武などの人物像を描いた、久保田千太郎・作、久松文雄・画の歴史コミックで、オリジナル単行本は'83年10月の講談社刊(全4巻)。

李陵 2.jpg李陵・山月記.jpg この「李陵」の話自体は、中島敦の小説『李陵』でもそのまま取り上げられていて、よく知られているところです。波乱万丈のストーリーですが、大筋において「史記」や「漢書」に書かれて書かれている通りではないでしょうか。

小説十八史略 3.jpg 且鞮候単于の軍事参謀をしていた漢人は李陵ではなく、早々に匈奴側に寝返った李緒で、それが誤って李陵が匈奴軍を指導していると漢の側伝えられ、武帝が李陵が裏切ったと思ったのは「史記」にある通りですが、陳舜臣氏の『小説・十八史略』でも、李緒は漢では無名の軍人で、李将軍と聞けば、漢では李陵のことと思い込むのは当然であろうとしています。

 李陵も李緒に対して好感はもっていなかったようですが、家族を誅殺された憎悪の捌け口が李緒に向けられたのは自然の成り行きかも。但し、『小説・十八史略』では、李緒に直接手を下したのは本書のように李陵ではなく、李陵に同情する誰かであり、以前から李陵の助太刀を申し出る者は何人かいて、その内の誰が李緒を殺ったかということについて李陵は見当がついていたが、単于に問われても、その者を守るためにその名を口にしなかったとあります。

 この事件のために暫く李陵が北方へ引き下がっていたのは、殺された李緒の支持者の中に、彼が取り入った且鞮候単于の母大后がいたためで、その高齢の母親が亡くなり、胡地に戻った李陵は、且鞮候単于の跡をついで単于となった息子の左賢王を補佐するため右校王となる―李陵が捕虜になったのがB.C.99年、一族を殺されたのがB.C.97年、この間に司馬遷の宮刑があり、且鞮候単于の死と左賢王の即位、李陵の右校王就任がB.C.96年、この年、司馬遷が釈放されるなど、短い間にいろいろあったのだなあと。

 戻太子の乱(B.C.91年)というのは親子関係の悲劇だと思いますが、ちょうどそれが起きた頃、李陵は北海で蘇武と再会していたわけで、その蘇武が祖国に帰還したのが、本書では武帝の死(B.C.87年)の直ぐ後になっていて、蘇武の抑留期間は13年とありますが、通説では19年でないでしょうか(李陵が捕虜になる前年のB.C.100年に捕虜となり、漢へ帰還したのはBC81年)。

 司馬遷が、後代に歴史書の手本とされる「史記」を著すことになった背景がわかり易く描かれているとともに、且鞮候単于父子と李陵の男気の通い合い、蘇武とは異なる道を選ばざるを得なかった李陵の苦悩などがストレートに伝わってくるコミックに仕上がっているかと思います。

スーパージェッターモノクロ2.jpgスーパージェッター モノクロ.jpg 久松文雄氏(1943年生まれ)は、手塚治虫のアシスタントとして出発し、アニメ「スーパージェッター」「少年忍者風のフジ丸」「冒険ガボテン島」などの作画で知られる漫画家で、"原作付き"のものを専門にしており、「スーパージェッター」は前番組の「エイトマン」同様、まだ売れっ子になる前のSF作家らが脚本を書き、久松文雄氏が作画したもので(後に久松氏に原作権が認められた)、TV放映と同スーパージェッター2.jpg時期に「週刊少年サンデー」に連載された『スーパージェッター』はアニメのコミカライズであり、また「風のフジ丸」は白土三平の作品がベースとなっていますが、こうした空想科学SFの作画者である一方で歴史物の作画を得意とし、現在は「古事記」の全巻漫画化に取り組んでいます。

「スーパージェッター」●プロデューサー:三輪俊道●構成・監修:河島治之●音楽:山下毅雄(主題歌)作詞・加納一朗/作曲・山下毅雄/歌・上高田少年合唱団●原作:久松文雄●出演(声):市川治/松島みのり/熊倉一雄/田口計/樋口功/中村正/西桂太/中曽根雅夫●放映:1965/01~1966/01(全52回)●放送局:TBS


 【1983年単行本[講談社(『史記5〜8―李陵(中国歴史コミック)(全4巻)』)]/1989年文庫化[講談社(『李陵―史記(スーパー文庫)』)]/1990年単行本[文藝春秋(『李陵―史記の誕生(コミック人物中国史)(上・中・下)』)]/1995年再文庫化[講談社漫画文庫(『史記7〜9―李陵(上・中・下)』)]】

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久松文雄(ひさまつ・ふみお)漫画家。20121年4月16日、歯肉がんのため死去。77歳。
30世紀の未来から20世紀にやってきた主人公の活躍を描いた「スーパージェッター」や「冒険ガボテン島」は1960年代にテレビアニメが放送され、人気を博した。後年、日本史や中国史を題材にした作品を数多く手がけ、全7巻の「まんがで読む古事記」では古事記の全編を漫画化した。

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