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その書き方をしたときの作家の意識のありようを追うという方法論。
『小説の読み書き (岩波新書)』 ['06年] 坪内 祐三 『考える人』['06年]
作家である著者が、岩波書店の月刊誌「図書」に'04年1月号から'05年12月号まで24回にわたって連載した「書く読書」というエッセイを新書に纏めたもの。
編集者の方から持ち込まれた企画で、著者自身は、原則、自分が若い頃に好きで読んだ小説を、いま中年の目で読み返して何か書く、という大雑把なスタンスで臨んだらしいですが、とり上げている作品が、「雪国」「暗夜行路」「雁」「つゆのあとさき」「こころ」「銀の匙」...と続くので、何だか岩波文庫のロングセラー作品を追っているような感じも...(実際、「読者が選ぶ〈私の好きな岩波文庫〉」というアンケートを、途中、参照したりしている)。
そこで、文庫本の後ろにある解説みたいなのが続くのかなと思って読んだら、確かに作品の読み解きではあるけれども、その方法論に一本筋が通っていて、なかなか面白かったです。
作品の中の特徴的な文体にこだわり、作中の文章一節、短いものでは1行だけ抜き出して、そうした書き方をしたときの作家の意識のありようのようなものを執拗に追っていて、その時、書き手が大家であるということはとりあえず脇に置いといて、著者自身が作家として小説を書く作業に臨むときの意識と照らし合わせながら、どうしてその時代、その時々にそうした文章表現を作家たちが用いたのかを探っています。
実際、新書の表紙見返しの概説でも、「近代日本文学の大家たちの作品を丹念に読み解きながら、『小説家の書き方』を小説家の視点から考える。読むことが書くことに近づき、小説の魅力が倍増するユニークな文章読本」とあったことに、後から気づいたのですが、確かに、こうした方法論が、別の視点からの小説の楽しみ方を教えてくれることに繋がっているかも。
前後して、坪内祐三氏の作家・評論家論集『考える人』('06年/新潮社)を読みましたが、坪内氏が1958年生まれ、著者(佐藤正午氏)は'55年生まれと、比較的年齢が近く(とり上げている作家では、吉行淳之介、幸田文がダブっていた)、この2著の共通するところは、考えの赴くままに書いているという点でしょうか。
とりわけ、この著者は、知ったかぶりせず、読書感想文に近いタッチで書いていて、むしろ、"知らなかったぶり"をしているのではないかと勘ぐりたくなるぐらいですが、実際、知識不足から誤読したものを読者に訂正されていて(本当に知らなかったということか)、それを明かしながらもそのまま新書に載せている、こうした姿勢は共感を持てました。
《読書MEMO》
●目次
川端康成 『雪国』
志賀直哉 『暗夜行路』
森鴎外 『雁』
永井荷風 『つゆのあとさき』
夏目漱石 『こころ』
中勘助 『銀の匙』
樋口一葉 『たけくらべ』
三島由紀夫 『豊饒の海』
山本周五郎 『青ベか物語』
林芙美子 『放浪記』
井伏鱒二 『山椒魚』
太宰治 『人間失格』
横光利一 『機械』
織田作之助 『夫婦善哉』
芥川龍之介 『鼻』
菊池寛 『形』
谷崎潤一郎 『痴人の愛』
松本清張 『潜在光景』
武者小路実篤 『友情』
田山花袋 『蒲団』
幸田文 『流れる』
結城昌治 『夜の終る時』
開高健 『夏の闇』
吉行淳之介 『技巧的生活』
佐藤正午 『取り扱い注意』
あとがき