【3191】 ○ ゲオルギー・ダネリヤ 「不思議惑星キン・ザ・ザ」 (86年/ソ連) (1991/01 マウントライト) ★★★☆

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ディストピア設定でソビエト社会を揶揄。「脱力的人情SFコメディ」とも。

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不思議惑星キン・ザ・ザ [DVD]」「不思議惑星キン・ザ・ザ≪デジタル・リマスター版≫ [DVD]

「不思議惑星キン・ザ・ザ」1.jpg ある日、建築技師のマシコフ(スタニスラフ・リュブシン)は、「あそこに自分は異星人だという男たちがいる」と困った様子の学生ゲデバン(レヴァン・ガブリアゼ)に助けを求められる。異星人など信じられないマシコフが、その男たちが持っていた空間移動装置のボタンを押すと、次の瞬間、マシコフとゲデバンは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ星雲のプリュク星へとワープしていた。星の「不思議惑星キン・ザ・ザ」2.gif住民は地球人と同じ姿をしており、見かけによらぬハイテクとな野蛮な文化を併せ持っていた。彼らはテレパシーを使うことができ、話し言葉は「キュー」と「クー」のみで、前者は罵倒語、後者がそれ以外を表す。しかし、高い知能を持つ彼らはすぐにロシア語を理解し話すことができた。この星の社会はチャトル人とパッツ人という二つの人種に分かれており、支配者であるチャトル人に対して被支配者であるパッツ人は儀礼に従「不思議惑星キン・ザ・ザ」3.jpgわなければならない。両者の違いは肉眼では判別できず、識別器を使って区別する。この星を支配しているのは、「エツィロップ」と呼ばれる警官たちである。プリュクの名目上の為政者は「PJ様」と呼ばれ、人々は彼を熱烈に崇拝している。プリュクにおける燃料は水から作られたルツというもので、自然の水は取り尽くされ、飲み水は貴重品となっており、ルツから戻すことでしか手に入らない。プリュクでは地球のマッチ棒(の化学物質)が非常に高価なものであり、カツェと呼ばれて事実上の通貨となっており、所有者は特典が受けられる。マシコフとゲデバンの二人は、マッチの価値を利用してなんとか地球へ帰ろうとするのだが―。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」4.jpg 1886年公開のソ連のゲオルギー・ダネリヤ監督(グルジア共和国出身)によるコメディーSF映画()。ディストピアな設定はソビエト社会の寓意的描写ではないかと言われるそうで、「言われている」と言うのは、検閲を通り抜けるためにほとんどすべて比喩的な表現になっているためで、ウィキペディアにも「作中では解説が若干省かれているので解りにくく、理解するには前後の伏線を注意深く頭に留めておく必要がある」とあるぐらいです。

 だから、何も考えないで観て、「変わった映画」で終わってしまう可能性もありますが(誰かが「気が抜けた良い映画」と言っていた。ダラダラ観るのも悪くないと)、一方で、予備知識無しでも、体制に対する風刺だなあというのは何となく感じられます。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」5.jpg 実際、ソ連全土で1570万人という驚異的な観客を動員したそうで(ソ連の人は、どの部分が何の風刺か凡そ解ったんだろなあ)、その後も世界中でカルト的人気を博し、日本でも1991年に公開され('89年の池袋文芸坐の「ソビエトSFファンタジー映画祭」で上映されたとの話もある)、2001年にはニュープリントで再公開、2016年にはデジタル・リマスター版が公開されました。また、監督自身の手になるアニメ版「クー!キン・ザ・ザ」が、2013年に公開されていますが、こちらは、舞台が21世紀はじめに移すなど、多少内容を変えているようです。

 冒頭、主人公のウラジミール氏は奥さんから買い物を頼まれ街に出るところから始まり、街でヴァイオリン弾きの青年ゲデバンを介して、拾いものの外套を羽織る小汚い裸足の男に出会い、男がウラジミール氏に「この星のクロス番号を教えてくれ。スパイラル番号でもいい。番号設定が乱れて帰れんのだ。見てくれ。私の星はベータ星雲のUZM247だ。そしてこれが空間移動装置」と尋ねるところから一気にSFモードとなります。

 こうしてウラジミール氏と青年ゲデバンひょんなことから「空間移動」し、辺りは一面の砂漠となりますが、その時ののリアクションは秀逸。さらに釣り鐘みたいな形の宇宙船が現れ、、中から2人の男が現れ、男たちは「クー!、クー!」と叫ぶばかり。このシュールな展開についていくのは結構しんどいかも(笑)。

 でも、どんな困難にも屈せず、地球への帰還を模索するウラジミール氏は、結構ヒロイックでした。青年を励まし、最後は、自分たちを苦境に陥れた宇宙人の男たちさえも救ってやるという、一本筋の通った意志の力とリーダーシップ、寛容さが、この奇妙な映画の中でやけに真っ当に思えました(民衆の希望を体現しているということか)。

 無事、地球に戻ってきた二人が、全部記憶が消されているはずなのに、街角で偶然出会って、しばらく見つめ合って、ウラジミール氏から「よう」とばかり手を挙げると青年もそれに応えるというラストが心地よかったです。ぶっ飛んだ印象もあるSFですが、意外とヒューマンなところはヒューマンに作っていました(誰かが「脱力的人情SFコメディ」と言っていた)。

「不思議惑星キン・ザ・ザ」16.jpg この作品は根強いファンがいゲオルギー・ニコラーエヴィチ・ダネリヤ.jpgるのか、或いは毎年新たにファンになる人がいるのか、'18年にデジタル・リマスター版が発売されて以降、今年['22年]まで毎年DVD&Blu-rayがリリーズされています。また、ゲオルギー・ダネリヤ監督自身による「クー! キン・ザ・ザ」(Ku! Kin-dza-dza)('13年)というアニメ化作品も作られています(ゲオルギー・ダネリヤ監督は本2019年に88歳で逝去し、これが遺作となった)。

ゲオルギー・ダネリヤ(1930-2019)

「不思議惑星キン・ザ・ザ」●原題:KIN-DZA-DZA-KUU●制作年:1986年●制作国:ソ連●監督:ゲオルギー・ダネリヤ●脚本:ゲオルギー・ダネリヤ/レヴァズ・ガ不思議惑星キン・ザ・ザ ブルースタジオ.jpgブリアゼ●撮影:パーヴェル・レベシェフ●音楽:ギヤ・カンチェリ●時間:135分●出演:スタニスラフ・リュブシン/レヴァン・ガブリアゼ/ エヴゲーニー・レオノフ/ ユーリー・ヤコヴレフ●日本公開:1991/01●配給:マウントライト●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(21-11-23)(評価:★★★☆)

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