【3190】 ○ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 「ローラ」 (81年/西独) (2012/12 マーメイドフィルム) ★★★☆

「●ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●ダニエル・シュミット監督作品」【1428】 ダニエル・シュミット 「ヘカテ
「○外国映画 【制作年順】」のインデックッスへ

娼婦が巻き起こす結婚騒動。強烈な社会風刺で、ある種、艶笑コメディ的要素も。

「ローラ」1981.jpg ローラ ファスビンダー 00.jpg ローラ ファスビンダー 01.jpg
ローラ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督 Blu-ray」バルバラ・スコヴァ

「ローラ」1.jpg 1950年代の西ドイツ、バイエルン州の小さな町。ここでは地元の土建屋シュッケルト(マリオ・アドルフ)が幅をきかせ、不正な利権を享受している。娼婦ローラ(バルバラ・スコヴァ)は、夜な夜な娼館に入り浸る彼に愛人とし「ローラ」12.jpgて囲われながら、奔放な生活をしている。この町にある日、清廉潔白な建築省の役人フォン・ボーム(アーミン・ミューラー=スタール)が赴任してくることになり、彼はシュッケルトらとともに町の再開発に着手する。フォン・ボームはその傍ら、淑女のふりをしたローラと恋「ローラ」13.jpgに落ち、結婚を申し込むようになる。しかしある夜彼は、ローラがシュッケルトの情婦であることを知ってしまう。そこでフォン・ボームは、シュッケルトの不正を新聞に告発し彼を破滅させようとするが、町の誰も不正の告発など望んでいないことに気づく―。

「ローラ」14.jpg ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1945-1982)監督の'81年公開の映画で、日本ではファスビンダー監督の没後30年となる2012年、特集「ファスビンダーと美しきヒロインたち」で上映されました。70年代後半から80年代前半にかけてファスビンダーが撮った「マリア・ブラウンの結婚」('79年)、「ベロニカ・フォスのあこがれ」('82年)と並ぶ「西ドイツ三部作」の一作で、バイエルン州のとある田舎町が舞台となっています。

 映画では、急速な経済的成長を遂げ、外的(見た目)は豊かになっていきながら、過去やその責任について充分な反省せず、内面(本性)は不道徳に陥っていた50年代西ドイツの在り方を、ある娼婦が巻き起こす結婚騒動を通して皮肉を込めて描いています。テンポや映像構成もよく、けばけばしいライトや服飾が動き回る娼館でのシーンは、それ自体なかなか見応えがあり、ある種、艶笑コメディ的要素もあって面白かったです。

「ローラ」5.jpg ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の「嘆きの天使」('30年/独)のモチーフを引き継ぎつつ、それを戦後の西ドイツを舞台に翻案していて、古めかしい道徳観をもつ真面目な中年男性がローラに入れあげ結婚を申し込むという筋立ては、マレーネ・ディートリヒ演じる放浪のキャバレー歌手ローラ・ローラに権威的な堅物教授が恋焦がれて破滅していくという「嘆きの天使」に似ており、そう言えば見た目も、バルバラ・スコヴァ演じるローラは、ディートリヒ演じるローラ・ローラに似ています(敢えてそういう撮り方をしているのだろう)。

「ローラ」6.jpg ローラは町の最大の権力者である土建屋シュッケルトの情婦という立場に飽き足らず、町にやって来た真面目な建築省の役人フォン・ボームにも自ら接近、娼婦としての姿を隠し、教養ある清楚な淑女を装って、ただただ現実の利害の追求のもとに生きていきます。

「ローラ」7.jpg その結果、「嘆きの天使」のキャバレー歌手がアウトサイダーとして体制の外側から魅惑し続けるのに対し、この映画のローラは、インサイダ―に"成り上がり"ます。そうなれる土壌として、社会秩序を担う権力者たちが娼館に入り浸り、ヒューマニズムを標榜する共産主義者も同じていたらくで、〈退廃〉が〈社会〉秩序を侵食すると言うより、むしろ〈退廃〉が〈社会〉と親和関係を構築してしまっているという状況があります。

「ローラ」11.jpg ローラ自身は、教会での彼女の祈りの表情から、本心では道徳的な誠実さや自らの浄化を希求しているのかなとも思わせますが、結局、フォン・ボームに娼婦であることがバレたら、自棄になったように開放的に歌い踊り狂い、そこには、彼女の中に誠実と退廃が対を成して同居しているかのようにも見えます。

 でも、彼女は精神分裂に陥ったりすることなく、まんまと勝ち組となり、上流階級の一員となります。ただ、その辺りが微妙で、彼女を「汚れた」場所から救い出そうと尽力するフォン・ボームの試みも無為に終わっているようだし、最後はローラを妻にしたいがためだけに画策し、何とか結婚したけれど、ローラの方は結婚式で新妻でありながら前の情婦シュッケルトといちゃついているという、これで本当にまともな夫婦としてやっていけるのかといった感じです。

 ローラ自身も、上流階級には入り込めたけれども、「汚れた」場所から来たというレッテルは剥がれないだろうなあ。そんな目で見られながら上流階級にいて楽しいのかなとも思うけれど、現代社会にだって日本にだってこういうタイプの"偽セレブ"はいるかもしれないなあと思ったりしました。社会風刺映画なのですが、週刊誌記者風の視線になってしまいました(笑)。

ローラ ファスビンダー 1981.jpg「ローラ」cb.jpg「ローラ」●原題:LOLA●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●製作:ホルスト・ベントラント●脚本:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ペア・フレーリッヒ/ペーター・メルテシャイマー●撮影:ザビエ・シュワルツェンベルガー●音楽:ペール・ラーベン/フレディ・クイン●時間:115分●出演:バルバラ・スコヴァ/アーミン・ミューラー=スタール/マリオ・アドルフ●日本公開:2012/12●配給:マーメイドフィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-07-09)(評価:★★★☆)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1