【3296】 ○ 婁燁(ロウ・イエ) (原作:虹影/横光利一) 「サタデー・フィクション」 (19年/中国) (2023/11 アップリンク) ★★★★

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刹那を懸命に生きた男女のドラマ。スタイリッシュなスパイ&アクション映画。

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「サタデー・フィクション」鞏俐(コン・リー)/趙又廷(マーク・チャオ)/オダギリジョー/中島歩
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「サタデー・フィクション」01.jpg 日中欧の諜報員が暗躍する魔都・上海。真珠湾攻撃7日前の1941年12月1日、人気女優ユー・ジン(鞏俐(コン・リー))は新作舞台「サタデー・フィクション」に主演するため上海を訪れる。かつてフランスの諜報員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われた過去を持つ彼女は、女優であると同時に諜報員という裏の顔をもっていた。ユー・ジンの到着から2日後、日本の暗号通信の専門家である海軍少佐・古谷三郎(オダギリジョー)が、暗号更新のため上海にやって来る。古谷の亡き妻によく似たユー・ジンは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためフランス諜報員が仕掛けた「マジックミラー計画」に身を投じていく―。

「サタデー・フィクション」02リー.jpg 中国の婁燁(ロウ・イエ)監督が、太平洋戦争直前の上海で繰り広げられる愛と謀略の行方をモノクロ映像で描いたスパイ映画。主人公ユー・ジンを鞏俐(コン・リー)、日本海軍少佐・古谷をオダギリジョーが演じ、中島歩、台湾の俳優・趙又廷(マーク・チャオ)、ドイツの俳優トム・ブラシア、フランスの俳優パスカル・グレゴリーらが共演。2019年の中国映画ですが、中国本国では2021年10月に、日本では2023年11月にそれぞれ公開されています。

白黒で、手持ちカメラを主とする映像が躍動感がありましたが、スペクタクルな遠景より、登場人物一人一人をしっかり撮っている印象で、ただし、背景説明が無いだけに、最初の方は人物相関がよく判りませんでした。途中でこれは雰囲気を感じる映画かなと開き直ると、次第に人物と人物の関係が分かってきたという感じでしょうか。

「サタデー・フィクション」002.jpg 婁燁(ロウ・イエ)監督が前半で見せようとしていたのは、手に汗握るスパイ戦ではなく、鞏俐(コン・リー)演じるスパイとしての使命を負ったユー・ジンが(そのことさえ最初観ているうちは判らないのだが)、かつての恋人だった舞台演出家やフランス諜報員、日本の海軍少佐らと接触することで、ユー・ジンとそれら登場人物との間に生まれる情感を描くことに重きが置かれているように思いました。

「サタデー・フィクション」03リー2.jpg コン・リーは、たまたま陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/中国)を観直したところでしたが、この「サタデー・フィクション」で最近の彼女をたっぷり観ることができて良かったです。コン・リーは何年経ってもやっぱりコン・リーという感じでしょうか(モノクロであるのも素であるのもかえって良かったかも)。

 映画は終盤になって一気に銃撃戦へとなだれ込み、そのコン・リーが派手なアクションをするのにはちょっとびっくりさせられました。ターミネーター並みに大勢を相手に撃ちまくり、中島歩が演じる射撃の名手・梶原をも一対一対決で撃ち斃し、まるでアンジェリーナ・ジョリー演じる「トゥームレイダー」シリーズのヒロイン・ララ・クロフトみたい。コン・リー(1965年生まれ)はアンジェリーナ・ジョリー(1975年生まれ)より10歳年上ですが、ジェニファー・ロペス(1969年生まれ)並みに鍛えているということなのかも。

「サタデー・フィクション」05.jpg この映画の良かった点は、この時代を描いた中国映画では珍しく、日本の軍人が悪や残虐性の権化として描かれていないということです。中島歩(「偶然と必然」('21年))が演じる梶原の暴力性は純粋にアクションとして描かれています。オダギリジョー(「FOUJITA」('15年))「サタデー・フィクション」04.jpg演じる海軍少佐・「サタデー・フィクション」中島歩.jpg古谷にも寄り添っているし(オダギリジョーは凖主演だが、役柄のせいかやや線が細い感じで、脇の中島歩の方が目立っていた)、一方で、中国人の舞台演出家は同胞に裏切られたりもし(中国人の中にも卑怯な人間がいたということ)、対等な視点で描かれているように思いました(観劇マナーも、中国人の方が日本兵以上に酷いものとして描かれている)。

 やや疑問に思った点は、負傷して自分たちの側の病院に運び込まれた古谷にユー・ジンが囁きかけて暗号を聞き出す(これが「マジックミラー作戦」の肝(きも))場面で、ユー・ジンは諜殺された(?)古谷の亡き妻と似ているということで、古谷が意識朦朧とする中、妻から話しかけられたと錯覚するのですが、ユー・ジンの日本語が中国語訛りなので、これを自分の妻と間違えるかなあと。

 この時、ハワイを意味する山桜という言葉を古谷は言ってしまいますが、暗号に個人的思いを込めるものなのか。その部分が録音されなかったのは、ユー・ジンがわざとそうしたのであって、二人の遣り取りは睦言のメタファーだったのか(だからマイクを切った?)―といろいろ考えてしまいます。

 ラストは哀愁と虚無が漂いますが、'41年12月初旬の上海(婁燁(ロウ・イエ)監督作品のいつもの舞台)、蘭心大劇院(今も観劇可能な劇場で、この映画の原題にもなっている)を時間的・地理的軸に、その刹那を懸命に生きた男女を描いた人間ドラマであり、スタイリッシュなスパイ&アクション映画でもありました。

「サタデー・フィクション」00.jpg「サタデー・フィクション」010.jpg「サタデー・フィクション」●原題:蘭心大劇院(英:SATURDAY FICTION)●制作年:2019年●制作国:中国●監督:婁燁(ロウ・イエ)●脚本:馬英力(マー・インリー)●製作:マー・インリー/チャン・ジーホン/ロウ・イエ/ドン・ペイウェン/ウー・イー●撮影:曾剑(ツォン・ジエン)●原作:虹影『上海の死』/横光利一『上海』●時間:126分●出演:鞏俐(コン・リー)/趙又廷(マーク・チャオ)/オダギリジョー/中島歩/パスカル・グレゴリー/トム・ブラシア/黄湘麗(ホァン・シャンリー)/王傳君(ワン・チュアンジュン)/張頌文(チャン・ソンウェン)●日本公開:2023/11●配給:アップリンク●最初に観た場所:シネ・リーブル池袋(スクリーン2)(20-11-14)(評価:★★★★)●同日上映:「私がやりました」(フランソワ・オゾン)

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