【3187】 ○ 伊坂 幸太郎 『グラスホッパー (2004/07 角川書店) ★★★★

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話の展開がスピーディで、状況が目まぐるしく変化していくのが面白かった。

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グラスホッパー』『グラスホッパー (角川文庫) 』2015年映画化(鈴木―生田斗真、鯨―浅野忠信、蝉―山田涼介)

 2年前に妻を轢き逃げされた中学校教師の鈴木は、犯人が違法薬物を売る悪徳会社「フロイライン」の社長・寺原の長男だと知る。復讐のため「フロイライン」に入社して機会を窺うが、上司の比与子に、会社への忠誠を示すために捕まえた無関係の若いカップルを殺すように命じられる。その様子を確認するため寺原の長男もやって来るが、鈴木と比与子の目の前で道路を横断しようとした彼は車に轢かれる。それは「押し屋」と呼ばれる業界でも有名かつ正体不明な殺し屋の仕業だった。比与子に、押し屋の行方を追うよう命令された鈴木は、槿(あさがお)という男を見つけ、鈴木は槿が押し屋か正体を探るため、彼の息子の家庭教師として一家に近づく。
 催眠のような力で相手を自殺させる殺し屋・は、今まで自分が殺してきた者たちの幻覚に悩まされていた。元カウンセラーと名乗るホームレス仲間から、やり残したことを清算すれば悩みから解放されるとの助言を得、仕事を先取りされた押し屋を殺すことを決める。また、疑心暗鬼に陥った依頼人・梶が、自分の暗殺を何者かに依頼したことを知り、梶を自殺に見せかけて殺す。
 殺し屋を斡旋する岩西の部下で、ナイフ使いの殺し屋青年・に、鯨の暗殺依頼が届く。蝉は、梶に会いに行くが、彼は自殺していた。情報通の桃より、「フロイライン」の社員(鈴木)が押し屋を見つけたという話を聞く。そこで蝉は押し屋を殺すことで岩西から独立しようとする。
 鈴木は比与子に呼び出され、押し屋の進捗状況を尋ねられるが、警戒心から槿のことは黙っている。しかし、睡眠薬を盛られて拉致される。押し屋の正体を知るため、鈴木の行方を探していたは、鈴木が拉致されたことを知らされ、彼が運ばれた廃ビルに向かう。岩西の事務所にやってきたは、岩西を自殺させようとする。意識が朦朧となった岩西は、鯨に蝉と対決して欲しいと頼む。偶然、蝉から電話が掛かり、岩西は蝉に頑張れと声をかけて電話を切ると鯨に、蝉が押し屋の行方を知っている男(鈴木)の行方を追って寺原が所有する廃ビルに向かったことなどを教え、飛び降り自殺する。
 寺原の廃ビルに潜入したは、鈴木を拷問しようとしていた男たちを殺害し、彼を助け出す。蝉から押し屋を殺そうとしていることを伝えられた鈴木は、彼には家族がいるからと止めるよう説得しようとするが、蝉は一家ごと殺すのは慣れていると言う。鈴木は蝉の車に乗せられ拘束されるが、後部座席に潜んでいたが、蝉を後ろから羽交い締めにし、車外に引きずり出して雑木林の奥の方へと向かう。
 車内に取り残された鈴木は、それを槿に助け出され、彼の家に向かう。鈴木は槿が押し屋だと確信するが、槿ははぐらかす。鈴木は槿一家を助けるため、逃げるように言うが、これも槿は取り合わない。さらには槿の息子がこっそり鈴木の携帯電話を盗み、比与子に住所を送ってしまったことを知り焦る。
 と対峙したは、突然の幻覚で危機に陥るも、岩西から奪った拳銃で蝉を射殺して危機を脱する。ビルから出てきた比与子を見つけ、強引に彼女から押し屋と目される槿の自宅住所を聞き出す。彼女とその場所に向かったが、そこはただのシール工場だった。
 槿の自宅に着いた鈴木はそこで、槿が押し屋であること、槿一家が偽の家族で、彼の妻や息子らも「劇団」の一員だと教えられる。実は「劇団」は「フロイライン」と揉めており、そのために押し屋に寺原親子の殺害を依頼し、さらに押し屋に全面協力していた。寺原は強敵のため、今回は押し屋も手の込んだ計画を練り、そこに偶然鈴木が巻き込まれたという話だった。さらには別件で寺原が殺された情報が届く。鈴木は一家に別れを告げるが、亡き妻との思い出のある結婚指輪を亡くしたことに気づき、これを探すため槿に雑木林に送ってもらう。
 手掛かりを失っただったが、蝉の亡霊が、鈴木は指輪を探して林に戻ってくると囁く。実際に鯨は蝉の死体をそばで指輪を見つけ、さらには道路の向こうに鈴木と思わしき男がいることに気づく。一方の鈴木は指輪が見つからず、諦めて道路に出てきたところ道の向こう側に鯨の姿を確認し、途端に鈴木は死にたくなり道路に飛び出そうとするが、亡き妻の声が聞こえ踏みとどまる。その瞬間に道に飛び出した鯨が車に轢かれる光景を目にし(槿に押された?)、鈴木は睡魔に襲われて意識を失う―。

 『グラスホッパー』('04年)、『マリアビートル』('10年)、『AX(アックス)』('17年)から成る作者の「殺し屋シリーズ」の第1作書き下ろし作品で、2004年に角川書店から出版され、作者自身が「今まで書いた小説の中で一番達成感があった」と語っている作品です(第132回「直木賞」候補作)。

 自分で直接手は下さず、相手を自殺させるプロ「鯨」、ナイフを使うことを得意とした殺し屋の若者「蝉」、妻を殺した男に復讐しようとしている一般人「鈴木」―この3人を軸とする話の展開がスピーディで、状況が目まぐるしく版化していくのが面白かったです。

 そして、線路の上や車道に相手を「ぽんっ」と押して、殺害するのを仕事としている謎の人物「押し屋」。冒頭、鈴木が妻を殺した男に相まみえるかと思いきや、目の前で「押し屋」にその男を殺されてしまいますが、鈴木はその押し屋と思しき人物「槿」に迫るも、なかなか確証が得られないでいます。

 敢えて不満を言えば、鈴木は結局、あるトラブルに偶然巻き込まれただけだったというオチに、やや拍子抜けの印象も。さらに、細かいことで言えば、鯨は自殺させるのが専門の殺し屋とのことですが、本当にそのようなことが可能なのか(暗示効果はかける人の技術よりもかかる人の"資質"の方が大きく影響し、また、人間は深い暗示下にあっても防衛本能や生存欲求はあると言われている)、誰もかれもが自殺していくのがややご都合主義的に思えました。

 まあ、ケチばかりつけていると愉しめませんが、実際、読んでいる間は大いに愉しめました。これらに不満点や疑問点は、星5つ評価ではなく、星4つに止めた言い訳的な(笑)理由です。

 2015年に瀧本智行監督により映画化され、鈴木―生田斗真、鯨―浅野忠信、蝉―山田涼介、槿―吉岡秀隆という配役ですが、未見です(何となく、イメージと配役が合わない)。

【2007年文庫化[角川文庫]】

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