【3188】 ○ 伊坂 幸太郎 『マリアビートル (2010/09 角川書店) ★★★☆

「●い 伊坂 幸太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3227】 伊坂 幸太郎 『AX(アックス)

舞台は「走行中の新幹線」。まずまず面白かったが、シリーズ前作を超えるには至らす。

『マリアビートル』単行本.jpg『マリアビートル』文庫.jpg 「ブレッドトレイン」0.jpg
マリアビートル』『マリアビートル (角川文庫)』映画「ブレッドトレイン」(2022)ブラッド・ピット主演

『マリアビートル』文庫帯.jpg 2014(平成26)年・第7回「大学読書人大賞」受賞作。

 元殺し屋の木村雄一は、幼い息子を遊び半分でアパートの屋上から突き落とし、意識不明の重体にした中学生・王子慧に復讐するため、東京駅にて彼が乗った盛岡行き東北新幹線「はやて」に乗る。ところが王子は木村が自分を殺そうとしていることはおろか、元殺し屋という過去も知っており、木村をスタンガンで気絶させる。自信家の王子は大人を翻弄することが好きで、今回も遊び半分で木村を誘い出したとし、自分の知り合いが密かに木村の息子の命を狙っていると教え、彼をコントロール下に置く。殺し屋コンビの蜜柑と檸檬は、裏社会の大物・峰岸良夫の依頼を受けて誘拐された彼の息子を救出し、支払われた身代金の回収を行った。それらを盛岡に運ぶため新幹線に乗るが、身代金の入ったトランクを紛失してしまう。さらに2人が目を離した隙に峰岸の息子も殺されていた。途中の各駅には任務確認のために峰岸の部下も配置されており、このままでは峰岸に粛清されるため、2人は慌てる。ツキのない殺し屋である七尾は、仲介屋で仕事のパートナーである真莉亜より、「簡単な仕事」として東京駅から新幹線に乗り、トランクを奪って上野駅で降りる仕事を受ける。いざ上野で降りようとすると、偶然にも因縁ある殺し屋・狼と鉢合わせしてしまう。狼が邪魔をして上野で降りられず、その彼とは車内で揉み合いとなって殺してしまう。狼の死体を隠し、次の大宮で降りようとするが再び不運が訪れ、降車に失敗する。それぞれ3組の殺し屋たちは自分たちの危機を脱するため、王子は大人たちを翻弄するため、身動きの取れない新幹線内で行動を起こす―。

 『グラスホッパー』('04年)に続く作者の「殺し屋シリーズ」の第2作で、『グラスホッパー』の続編として描かれ、前作の登場人物(木村、鈴木、槿(あさがお))も登場しますが、前作とストーリーはシンクロしておらず、まったく別の話として読めるものでした。

 「疾走する東北新幹線の車内」という限られた時空間が舞台で、その中で、息子の復讐に燃える酒好きの元殺し屋「木村」、サイコパスの中学生「王子」、腕利きの殺し屋二人組「蜜柑」「檸檬」(果物)、何かと運の悪い殺し屋「七尾」(天道虫)と、前作より多くの登場人物が入り乱れ、普通だったら前作より面白くなるはずでしたが、個人的には、まずまず面白かったけれど前作『グラスホッパー』を超えるまでには至らなかったという印象です。

 前作『グラスホッパー』と同様に書き下ろし作品ですが、前作が文庫で345ページなのに対し、こちらは592ページと部厚く、ただ、『グラスホッパー』を読んでからこちらを読むと、"引き伸ばし感"があって、『グラスホッパー』ほどテンポは良くなかったように思いました。

 最後に木村の両親が出向いてくるのはおかしかったです(クリスティのおしどり諜報員"トミーとタペンス"みたいだなあ)。そこからコメディになったけれど、愉しめました。むしろ、サイコパスの中学生「王子」のキャラの方が、ここだけ漫画的キャラで、自分の中では浮いていたように思います。

 今年['22年]、デヴィッド・リーチ監督、主演で映画化され、原作の七尾に相当する役をブラッド・ピット、木村の父親に相当する役を真田広之が演じ、「王子」に相当する役はジョーイ・キングという22歳の女優が演じたようですが、原作とどれくらい違ったものになっているかなあ。126分に収めることで、テンポは良くなっているのかもしれません。

「ブレット・トレイン」 (22年/米) (2022/09 ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント) ★★★☆
「ブレット・トレイン」00.jpg

【2013年文庫化[角川文庫]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2022年8月30日 00:11.

【3187】 ○ 伊坂 幸太郎 『グラスホッパー』 (2004/07 角川書店) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【3189】 ○ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 「マルタ」 (74年/西独) (2012/12 マーメイドフィルム) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1