【1340】 ○ 山崎 豊子 『沈まぬ太陽 (1)(2)―アフリカ篇 (上・下)』 (1999/06 新潮社) ★★★★

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「不当労働行為」をリアルに描く。連載開始からベストセラーになるまでの間にもドラマが。

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 『沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)』『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下)』  『沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)』『沈まぬ太陽〈2〉アフリカ篇(下) (新潮文庫)

 国民航空の労働組合委員長だった恩地元は、従業員の処遇や労働環境の改善を求めて経営陣と対立した結果、カラチ、テヘランと海外支店へ廻されて、今は自社便の乗り入れすら無いナイロビに勤務しているが、「流刑」とも言える左遷人事の間に、母と死別し、家族とも別れて暮らすことになる。一方、大学の同輩で組合の副委員長だった行天四朗は、恩地と袂を別ち、出世街道を歩むこととなる―。

   映画 「沈まぬ太陽」('09年)
沈まぬ太陽1.jpg '95年から週刊新潮で連載が始まり'99年に完結、単行本化されるや200万部を超えるベストセラーになり、'09年に若松節朗監督、渡辺謙主演で映画化された作品ですが(渡辺謙は、恩地役をぜひ自分にやらせて欲しいと山崎豊子に直接懇願して主役の座を射止めたという。このパターンは田宮二郎や唐沢寿明と同じ)、連載当初の3部構成の第1部から第3部が、単行本化されるあたって、それぞれ「アフリカ篇」「御巣鷹山篇」「会長室篇」と名付けられています。

 この「アフリカ篇」は、'71年にナイロビで恩地が野生動物のハンティングしている場面から始まりますが、回想シーンとして、'61年に主人公の恩地元が労組委員長になり、従業員の待遇改善を求めて'62年に会社初のストライキを実施するに至るまでの緊迫した労使交渉の様や、その後の会社側の御用組合の設立による組合分断攻勢、特定組合員を差別待遇する「不当労働行為」の様がリアル描かれていて、作者の筆致にぐいぐい引き込まれました。

小倉寛太郎(1930‐2002/享年71)
小倉寛太郎氏.jpg 主人公がケニア勤務だからと言ってハンティングをしているというのはいかにも小説的だと思われるかも知れませんが、恩地の原型とされる小倉寛太郎(おぐらひろたろう、通称おぐらかんたろう)元日本航空労組委員長は、日航を定年退職後は、アフリカ研究家・自然写真家として活躍し、『フィールドガイド・アフリカ野生動物―サファリを楽しむために』('94年/講談社ブルーバックス)という著者もあり、「アフリカの地まで飛ばされた主人公が、なお屈しなかったのは、穢れなきサバンナ、壮大な太陽の輝きに、自身を律することが出来たからだった」(新潮文庫帯「原作者・山崎豊子・映画化の寄せて」より)という言葉も、説得力を帯びているように思えます。

 小倉氏の著書(講演録)『自然に生きて』('02年/新日本出版社)によると、作者の小倉氏への取材は、8年間に渡り千数百時間にも及んだとのこと、その小倉氏が、日航在職時に社内人事で小説と同じような目に遭ったことは、吉原公一郎『墜落』('82年/大和書房)などでも確認できますが、この小説では小倉氏個人の不当人事に限らず、従業員の所属組合の違いによる差別待遇の問題なども描かれています。

沈まぬ太陽52.JPG 作者はこの小説の構想を多くの出版社に持ち込みましたが、テーマがテーマだけに、日航の報復を恐れた出版社に相手にされずにいたところ、以前に作者の担当をしていた新潮社の山田彦彌(1932‐1999)週刊新潮・編集長が、その事を知ってすぐに原稿を依頼し、「週刊新潮」への連載が開始されたとのこと。
 これに対し、日航は新潮社の全出版物への広告出稿載を打ち切り、連載中は「週刊新潮」の機内への搭載もしないという対抗措置を取りましたが、連載の反響が大きく、「週刊新潮」の売上部数が増えたため、広告収入の欠損を埋め合わせることができたそうです。

 この作品が単行本となりベストセラーとなった頃に、山田氏は血を吐き入院しましたが、「150万部売れたら報告に来い。それまで来るな」と部下の見舞いを断っていて、部下が150万部売れた報告に行ったその数日後に亡くなっており、作者は告別式で弔辞で「私の戦友だった山田さん」と呼びかけたとのことです。

 【2001年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

《読書MEMO》
WOWOW開局25周年記念・連続ドラマW「沈まぬ太陽」第1部(全8話)2016.05-06

沈まぬ太陽 第1部.jpg沈まぬ太陽 第1部 01.jpg

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