【3271】 ○ オー・ヘンリー (千葉茂樹:訳/和田 誠:絵) 『人生は回転木馬―オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』 (2023/07 静山社ペガサス文庫) 《人生は回転木馬―オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション2』 (2007/04 理論社)》★★★★

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どれもコンスタントに面白かった。アイロニカルな作品も一定割合を占める。

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人生は回転木馬 (静山社ペガサス文庫 ヘ 3-6) 』『人生は回転木馬 (オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション (2))

 O・ヘンリー(1862-1910/47歳没)短編集、和田誠イラスト/千葉茂樹訳の『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(全8巻)の単行本版で言うと第2弾で、表題作「人生は回転木馬」など8編を所収。

The Whirligig of Life.gif「人生は回転木馬」The Whirligig of Life
 取り上げ済み。一組の夫婦が治安判事のもとに離婚の申し立てにやってきた。手続き費用は5ドル。それを払うとあとは慰謝料すら払えない―。5ドルが行ったり来たりして夫婦が丸く収まる話なので、挿画のどこかに5ドル札を描いて欲しかった気がします。作者没後3か月後の1910年9月刊行の第10短編集『Whirligigs(回転木馬)』の表題作

「愛の使者」By Courier
 取り上げ済み。別れることになった二人の間を行き来する少年―。この千葉茂樹訳では、少年が二人のことを指して言うとき、「あのあんちゃん」「あの姉(ねい)ちゃん」になっていて、これが自然なのかもと思いました(新潮文庫の大久保康雄の旧訳などは、「あの紳士」「あのご婦人」になっていた)。原題の「Courier(クーリエ)」は配達業者などを指し、新潮文庫の新訳(小川高義:訳)などはそのまま「使い走り」 、旧訳(大久保康雄:訳)の方が本書と同じく「愛の使者」でした。翻訳によって雰囲気変わるなあ。

「にせ医師物語」Jeff Peters as a Personal Magnet
 取り上げ済み。にせ医者ジェフ・ピーターズは、ひょんなことから市長の治療をすることになるが、それは市長が仕掛けた罠だった―。これ、芝居にもなっています。新潮文庫の新訳(小川高義:訳)は「にせ医者ジェフ・ピーターズ」、旧訳(大久保康雄:訳)はこちらも本書と同じ「にせ医師物語」。ジェフ・ピーターズの名前があった方がいいでしょうか。そのジェフの方が市長より一枚上手でした。

「ジミー・ヘイズとミュリエル」Jimmy Hayes and Muriel
 テキサスの国境警備騎兵隊に加わった新兵ジミー・ヘイズは、二十歳そこそこのやせた男で、ツノトカゲのミュリエルと片時も離れない。彼の素朴さや剽軽さは皆から愛されたが、戦闘経験はなく、その勇敢さには疑問符がついた。部隊がメキシコ人悪党一味と戦闘をする中、悪党を追ううちに彼は姿を消す。彼はやはり臆病者だったのか。悪党が現れなくなって1年が経ったころ、悪党と思しき三体の骸骨が見つかり、さらにもう一体遺体が―。ツノトカゲが飼い主の勇敢さを証明することになった、というのがいいです。

「待ちびと」To Him Who Wait
慕われながらも結ばれなかった恋の後、ずっと山で世捨て人のような暮らしをする「ハドソン川の世捨て人」ハンプ・エリソン。10年目のある日、彼の元へ金持ちの令嬢が訪れ、恋心を打ち明ける―。二人の女性に慕われながら、すれ違いで二人とも逃してしまった男。こういう人っているかもしれないなあ。

「犠牲打」A Sacrifice Hit
 中編小説「愛こそすべて」書き上げた実績のない作家アレンは、ハースストーン社の編集長が、原稿をさまざまな人に振り分けて読ませ、その感想を聴いて掲載を決めるシステムをとっていることを知っていた。そこで、自分の作品が確実に受けそうな女性スレイトン夫人に自分の小説原稿が回るよう、雑用係の少年に手配するが―。多分、アレンが書いた小説は、ハーレクイン・ロマンスみたいなものだったのでしょう。恋愛至上主義批判と言うより、通俗小説批判か。

「一枚うわて」The Man Higher Up
 毎冬ニューヨークにやって来る詐欺師ジェフが語る、かつての冒険譚。彼は若い押し込み強盗のビル・バセットと、老いた金融詐欺師のアルフレッド・E・リックスと偶然一緒になったが、三人は一文無し。そこでビル・バセットは早速に強盗を敢行し、成果を収め勝ち誇るが、ジェフには強盗というやり口が気に入らなかった。自分はトランプカード詐欺で5千ドルを手にする。そして、鉱山株を買うが、その株はやがて大化けするという―。3人で「悪」を競い合って、結局、自分が一番「下」だったという、可笑しくてちょっと哀しい話。

「フールキラー」The Fool-Killer
 とてつもなくバカなことをしたヤツを殺して歩くという「フールキラー」こと空想上の人物ジェシー・ホームズ。私は、絵描きのカーナーが、百万長者である父親と縁を切っても工場勤めの彼女と結婚すると聞いて、一緒にアブサン・ドリップを飲むうちに「お前はバカだ。ジェシー・ホームズにきてもらったほうがいい」と説教するように。すると、そこに本当にジェシー・ホームズが現れる―。主人公には、自分にしかジェシー・ホームズが見えないと思っていたけれど、実はそうではなかったということ。自分だけが彼がカーナーを殺しに来たと思ってしまって大慌てし、カーナーが主人公の悪酔いを疑ったのは、見えないものが見えているような振舞いについてでなく("私"はそう思っている)、その勘違いの部分についてだったということでしょう。

 どれもコンスタントに面白かったです。「人生は回転木馬」は、これで夫婦の縒りが戻るならばハッピーエンド、「愛の使者」は完全な勿論ハッピーエンドで、「にせ医師物語」は、詐欺師側からみれば成功譚。「ジミー・ヘイズとミュリエル」は切ないけれど、名誉回復という意味では良かった話。「待ちびと」「犠牲打」「一枚うわて」とアンハッピーエンドが続きましたが、「フールキラー」は自分だけが大慌てしたけれど、親子の関係は戻ったからハッピーエンドと言えます。

 8作中3作がアンハッピーエンドですが、アンハッピーエンド作品については、アイロニカルといった方がいいかも。この手の作品も一定割合であるなあと改めて認識しました。

【2023年新書化[静山社ペガサス文庫]】

新潮文庫(小川訳)『О・ヘンリー傑作選(全3巻)』/理論社『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』(全8巻) 各収録作品
 『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』 .jpg

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