【3270】 ○ オー・ヘンリー (千葉茂樹:訳/和田 誠:絵) 『20年後―オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』 (2023/01 静山社ペガサス文庫) 《20年後―オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション1』 (2007/04 理論社)》★★★★

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和田誠のイラストが楽しいシリーズの新書化。単行本では第1弾だった密度濃いラインアップ。

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20年後 (静山社ペガサス文庫 ヘ 3-3)』['23年]『20年後 (オー・ヘンリーショートストーリーセレクション 1)』['07年]
 和田誠のイラストが楽しい『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(全8巻)。小学校高学年から読めるような優しい翻訳ですが、"簡訳"ではないようです。単行本の第1弾は、「20年後」など9編を所収。一方、この静山社ペガサス文庫の新書版は、『最後のひと葉』『賢者の贈り物』といった表題作がよく知られているものの次に刊行されています。単行本刊行から約15年を経ての新書化は、2019(令和元)年に和田誠氏が亡くなったことも関係しているのでしょうか。

「20年後」After Twenty Years
 取り上げ済み。街を巡回中の警官が男に声をかける。男は20年ぶりに友人に会うと話す。警官が立ち去ると友人らしき男がやって来るが―。1906年4月刊行の第2短編小説集『四百万』の1編として発表されたもので、それまでもO・ヘンリーは意外な結末を多用していましたが、短編として世界的名声を得た作品はこの「20年後」だそうです。久しぶりに会った旧友同士が、片方は警官に、片方は犯罪者になっていたという"暗い"オチですが、和田誠のイラストが入ると、警官の思いやりがより浮き彫りになって、いい話に思えてきます。

「改心」A Retrieved Reformation
 取り上げ済み。金庫破りのジミーは刑務所を出所するや、早速何件かの金庫破りし、敏腕刑事ベンが捜査に乗り出す。1年後ジミーはある街で銀行頭取の娘と知り合い、真面目に生きていくことを決意する。ジミーは娘の父親と銀行で会うが、その時誤って子供が金庫に閉じ込められてしまう。ジミーは昔の腕を披露し子供たちを助ける。そこにはベンが偶然居合わせていた―。新潮文庫の旧訳(大久保康雄:訳)では「よみがえった改心」でしたが、新訳(小川高義:訳)では「更生の再生」だったので、タイトルだけだと同じ作品と分からないかも。好きなタイプの作品で、ラストのモチーフは「20年後」にも似ているように思いました(こっちの刑事は逮捕しないけれど)。

「心と手」Hearts and Hands
取り上げ済み。客車の美しい女性が座っている席の前に、犯人とそれを護送する保安官が乗り合わせる。女性は、向かいの席の男が昔の知り合いなので声を掛けるが、2人が手錠で繋がれているのを見て驚く。しかし、手錠で繋がれた男が自らの罪を話し、知り合いが犯人護送中の保安官と知って安心する―。警官、刑事、保安官と3つ続けて、捕まえる側の"深情け"話が続いたことになりますが、「20年後」が最も有名だけれど、個人的に好きな順番は、1番「心と手」、2番「改心」、3番「20年後」です。

「高度な実利主義」 The Higher Pragmatism
 私が公園のベンチで声掛けした浮浪者風の男は元ボクサーで、彼の話だと、路上で見知らぬ男を殴り倒したらそれがボクシング・チャンピオンで、一方、リングに上がると、相手の名前に負けて勝てなかったという。あんたも同じようなアマチュア級だろ、勝ち目はないと言われて、私はすぐに電話ボックスに入り、身分の違いから愛を告白できないでいた女性に電話する―。う~ん。こんなのでホントにいいのかなあという気はします。

「三番目の材料」The Third Ingredient
取り上げ済み。ヘティがシチューを作ろうとするが、牛肉しかない。じゃがいもは? たまねぎは?どうやったら手に入る?― 貧しくて食べるのにも苦労する三人の男女が偶然出会い、シチューは完成し、ヘティは図らずも愛のキューピッドとなったという楽しい話で、個人的にはかなり好きな作品の1つです。

「ラッパの響き」The Clarion Call
取り上げ済み。刑事は、今は強盗殺人犯でかつて幼馴染みだった男に千ドルの借りがあり、その引け目で、証拠をつかんだのに逮捕できない。彼はどうしたか―という話。かつての幼馴染み同士が善・悪に道を隔てるという設定は「20年後」と同じえだることに、改めて気づかされます(そう言えば、映画「汚れた顔の天使」('38年)などもそんな感じの設定だった)。新潮文庫の新訳(小川高義:訳)では「高らかな響き」、オムニバス映画「人生模様」('52年)ではそのまま「「クラリオン・コール新聞」。

「カーリー神のダイヤモンド」The Diamond of Kali
 インド探検でヒンズー教の女神カーリー神の額の目のダイヤモンドを手に入れた将軍は、それを奪還しようとする東インド人に狙われているが、牛が傍らにいると、牛は彼らにとって「神聖にして侵さざるべき」存在だから安全だという。そこへ突然"賊"が襲ってくる―。本人たちは、傍らの消火栓を彼らが牛だと思ってくれたお陰で助かったと思っているけれど、実は―という種明かしが楽しいです。ギャングには縄張りというものがあるわけだ。

「バラの暗号」Roses,Ruses and Romance
 詩人のラぺネルは、自分の部屋の庭越しの屋敷の窓に見える美少女に一目惚れで恋い焦がれるが、彼女が窓辺に置く4本のバラの花に、雑誌に掲載された自分の詩との符牒を読み取り、彼女は自分の愛に応えようとしていると―。もう一人の登場人物、詩人の部屋になぜかよくやって来る、詩人から見れば俗物の男サミー、彼がカギで、バラの花は彼にとっての"符牒"だったわけだあ。

「オデュッセウスと犬男」Ulysses and the Dogman
 女房の尻に敷かれ、毎日犬の散歩を日課にしている「犬男」が、ある夜旧友と再会して酒場で飲んでいる内に、辛抱強く耐え抜いて来た不満を大爆発させ―。犬の散歩を義務付けられた男たちを皮肉った話でした。愛犬家の人が読んだらどう思うのだろうか。

 既読だった「心と手」「三番目の材料」がやはり◎で、同じく再読の「改心」「20年後」もよく、かなり密度の濃いラインアップでした(シリーズの単行本刊行時"第1弾"だったのも分かる)。ただ、初読の作品群はややパンチが弱かったかも。小学校高学年でも読んで理解できるという前提のもとに作品を選んでいるようで、ある程度仕方がないかもしれませんが、未読の作品に出合えるというメリットはありました(活字が大きいので年寄りに優しい(笑))。

【2023年新書化[静山社ペガサス文庫]】

新潮文庫(小川訳)『О・ヘンリー傑作選(全3巻)』/理論社『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』(全8巻) 各収録作品
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