【3267】 ○ О・ヘンリー (小川高義:訳) 『最後のひと葉― О・ヘンリー傑作選Ⅱ』 (2015/10 新潮文庫) ★★★★ (◎ 「心と手」 ★★★★☆)

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短いけれど印象に残る「心と手」が、キレ味という意味でベストか。

O・ヘンリー 最後のひと葉.jpg最後のひと葉: O・ヘンリー傑作選II (新潮文庫)

 1905年10月15日日発表の「最後のひと葉」ほか14編を収録(書影は和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』(理論社))。

オーヘンリー  最後のひと葉.jpg「最後のひと葉」 The Last Leaf
「人生模様」30.jpg スーとジョンジーは芸術家達が集まるアパートの住人で、画家になることを夢見ていた。しかしジョンジーは肺炎にかかり「窓から見える隣の家のつたの葉が落ちる時に、自分も一緒に死んでしまう」と思い込んでいた。スーは同じアパートに住むベ老画家アマンに相談に行く―。あまりに有名な作品であり、オムニバス映画「人生模様(O. Henry's Full House)」('52年)の一話としてアン・バクスター主演で映画化されるなど、何度か映像化されている。作りようで、老画家の自己犠牲にも見えるし、芸術家としてのプライドにも見えてくるのでは。著者45歳の時(1907)に刊行された第3短編集『The Trimmed Lamp(手入れのよいランプ)』に収録された。

「懐かしのアリゾナ」.jpg「懐かしのアリゾナ」D.jpg「騎士の道」 The Caballero's Way
 無法者シスコ・キッドを追うサンドリッジ中尉は、探索の中、キッドの愛人トーニャ・ペレスと親密になる。キッドはある日、その2人の様をサボテンの陰から目撃する。トーニャからサンドリッジに、危険を感じたキッドが彼女の服を着て敵の眼をごまかし、彼女にはキッドの服を着せて標的にしようとしているとの手紙が届く―。1907 年発表作。このストーリーをそのまま使った「懐しのアリゾナ(In Old Arizona)」('28年)という西部劇は、アカデミー賞作品賞を含む5部門にノミネートされ、続編「シスコ・キッド」('31年)が作られたほか、シスコ・キッドというキャラクターは西部の快男児として数々の映画やテレビ・シリ-ズの主人公として登場することになった。

「金銭の神、恋の天使」 God of Money, Angel of Love
 大金持ちのアンソニー・ロックウォールの息子リチャードが一人の女性に恋をした。彼女とはまだほんの少しの顔見知り程度。彼女は数日後に遠くへ行き2年は帰らない。リチャード諦めかけた。父親は、こんなに金があるのに断る女性はいないと言い放つ。息子は彼女と話す機会がないと嘆き、お金では解決出来ないと言う。彼女とは旅立ちの前にほんの2、3分くらいしか話せないのだと。息子の叔母がその時、小さな指輪を恋愛成就のお守りに息子に与え、叔母はお金よりも大切なのは愛だと伝えた。息子はほんの少しでもと彼女に逢いに行き、彼女と逢う。その時、町中で交通渋滞が発生し2時間は動けなくなった。息子は2時間かけて彼女に想いを伝え―。ハッピーエンドの裏に大金が動いていたということ。でも、指輪を落として取りに戻ったら渋滞に遭ったのfで、指輪も一役買っていた(やはり金がすべてではない)というというのがいい。

「ブラックジャックの契約人」 A Blackjack Bargainer
 落ちぶれた元名家のゴーリーは客の来ない法律事務所で飲んだくれる日々。土地から雲母が発見され、その土地を売って金持ちになった田舎の猟師のガーヴィが、ゴーリーの全てを買いに来て、昔からの敵のコルトレーン大佐との〈敵対関係〉も売る。墓の名前を書き換えていいか?と言われてゴーリーは激怒し、ガーヴィを叩き出す。コルトレーンがゴーリーの事務所に来て、そろそろ仲直りしてうちの事業を手伝ってくれと持ちかけ、ゴリーは了承する。2人が馬に乗り、昔のゴリー家の屋敷の前を通ると、ガーヴィが狙っているのに気づき、自分の格好みずぼらしいから大佐のコートと帽子を貸してくれるよう頼む。ゴーリーはコルトレーンの服と帽子を身に着けて1人ガーヴィの銃の前に―。最期に見せた男気。身代わりになった。でも、リス撃ちは唯々人間を撃ちたかったのか? 狂ってる。

「芝居は人生だ」 The Thing's the Play
 18歳の美女ヘレン。美男子フランクとジョンは共にヘレンを好きになるが、紳士協定の末、フランクがヘレンと結婚することに。ジョンは祝福したが、納得してはおらず、式終了後、ヘレンにどこかで一緒に暮らそう、ダメならアフリカへ行くと言う。そこへフランクが乗り込んできて修羅場を迎え、その後2人が殴り合った末に、共にどうなったのかは分からず、時は過ぎる。38歳になったヘレンは、いつ夫が帰ってきてもいいように準備していた。祖母の遺産を相続するも、生活に困ったため空き部屋を貸し出す。そこに部屋を借りたヴァイオリニストのラモンティは、彼女に愛を告白する。彼は昔頭部にけがをして記憶を失い、自分の本当の名も知らないと。さらに、もう一人やって来た別の男は、「覚えていないかな、ヘレン」と言う。実は男はジョンで、フランクは自分が殺してしまったと―。フランクの親友ジョンと浮気してたかのように勘違いされたことが原因か、フランクはいなくなってしまい、20年の歳月の後に、その2人共と再会したという話。ジョンはフランクを殺したと思い込み、そのフランクはケガのためにずっと記憶を喪ったままであったという、結構凝った話。

「心と手」 Hearts and Hands
 東部行きの列車で、愛らしい美人の前に、男前の紳士とむさくるしく陰のある男という、見た目が逆の2人の男が手錠で繋がれた座った。美人と紳士は昔の知り合いのようだった。二人が話し中のところ、様子を窺っていたもう一人の男は、紙幣贋造の7年の罪で刑務所に収監されるところだと自分から言う。紳士は保安官で、犯罪者を移送中らしい。美人は保安官と会話し、その仕事を称え、近いうちに会えないかと言うが、それは出来ないと彼は言う―。面白かった。様子を見ていた客に、自分の利き手に手錠を掛ける保安官がいるかと種明かしをさせるところがいい。僅か5頁。ショートショートの見本のような見事な作品、

「高らかな響き」 The Clarion Call
「人生模様」20.jpg バーニー・ウッズ刑事は、かつて幼馴染みで今は強盗殺人犯のジョニー・カーナンに千ドルの借りがあり、その引け目があるので、証拠をつかんだのに逮捕できない。犯人はいい気になって新聞社を挑発する。新聞社は情報提供者に千ドルの賞金を出すと発表。朝刊でそれを知たった刑事がしたことは―。途中で気づいてもよさそうだが、最後まで読んでナルホド、この手かと。本人の目の前でやるラストがスマート。別訳タイトルは「ラッパの響き」で、ラッパは正確にはクラリオンという高音の金管楽器である。カーナンの完全犯罪の終わりを告げるその音は、勝利のファンファーレでもあるだろう。旧訳(大久保康雄:訳)タイトルは「ラッパのひびき」で、オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されており、そちらの訳は「クラリオン・コール新聞」。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されていて、リチャード・ウィドマークのヤクザ者の役が出ている。

「ピミエンタのパンケーキ」The Pimienta Pancakes

「探偵探知機」 The Detective Detector
 私とセントラル・パークを歩いているエイヴリー・ナイトは、泥棒、辻強盗、殺人者で、ブロードウェイでも殺人はできると豪語、私の目の前で、拳銃で裕福そうな市民を殺害して、その持ち物を奪ってみせた。そして、駆けつけて来た警官に「いま人を殺しました」と言っても、警官は相手にしない。目撃者がいて人相が分かっているし、名刺入れを落としてきたのでナイトの名前と住所も分かっているはず。なのに、待っていても警察を出たはずの探偵はやってこない。その名探偵のはずのシャムロック・ジョーンズ(シャーロック・ホームズのもじり?)は、裏をかくつもりか、手掛かりと正反対の人間(アンドルー・カーネギー)を犯人ではないかと疑って探っている―。警察のダメさ加減を皮肉った話か。トーンが星新一みたいで、和田誠のイラストが似合いそう。

「ユーモリストの告白」Humorist Confessions
 ユーモアセンスが認められ、地元でも有名になり、遂に勤めを辞めてユーモア作家になった私だが、やがてスランプに陥り、ネタ探しをする余り人々にも嫌われ、ある葬儀屋の店内の奥の部屋の静謐さの中でのみ安息を得るようになる―。結局どうなったかというと、今ではこの町で好感を持たれ、軽口をたたいているというハッピーエンド。ユーモアって、根詰めて追求し過ぎると、ゆーもではなくなってしまうどころか、その人間そのものも危うくする?

「感謝祭の二人の紳士」 Two Thanksgiving Day Gentlemen
 感謝祭の日、金のある者は、貧乏な者に食事を振る舞う。その伝統を確固たる者にしようと、毎年同じ場所に集まる二人の紳士がいた。一方は、貧乏暮らしをしている頑固者のスタッフィ・ピート。もう一方は、この9年間、感謝祭の日には必ずピートに好きなだけ食事をさせる老紳士。今年も感謝祭にいつものようにベンチで出会う二人。しかし、今年のピートの状況は少し違った。ベンチに来る前、慈善家の気まぐれで、吐き気のするほど大量の料理を食べさせられていた。そうとは知らぬ老紳士は例年のようにピートを食事に誘う。この「伝統」を絶えさせてはならぬ、とピートも精一杯空腹を装う―。ネタバレだが、結局二人とも病院に担ぎ込まれることになる。ピートは満腹が限界に達しため。老紳士は3日間何も食べてなかったところへ大食いしたため。律儀な2人の憎めない滑稽さ。アメリカ人の"伝統コンプレックス"を揶揄。

「ある都市のレポート」 A Municipal Report
 南部の街ナッシュヴィルの歴史や特徴をガイドブックさながらに紹介しつつ、一ドル紙幣の謎をも織り交ぜて、街のさまざまな人間模様をコミカルに描く―。南北戦争後のアメリカの姿を描いており、無意識ではあっても黒人への人種差別が根強く存在することが窺える。

「金のかかる恋人」A Lickpenny Lover
 デパートのショップガール、メイシーは、ある日来店した男にデートに誘われ、やがてプロポーズされる。自分と結婚すれば人生はずっと続く休暇となり、どこへでも行けると。しかし、コニーアイランドへ行こうと言われ、新婚旅行に遊園地かと呆れ彼の申し出を断る。ところが実は彼は―。思い込みや固定観念とかで縁を逃してしまう話。

「更生の再生」A Retrieved Reformation
 スペンサーの本名はジム・ヴァレンタイン。若くして凄腕の金庫破りだったが、名刑事ベンに捕まった。刑務所出所後も彼は大胆な金庫破りを続けるが、エルモアの地で銀行頭取の娘アナベルに出会い、一目惚れした彼はその地に定住し、靴屋を開業して成功を収める。その上で彼女と接触し、持ち前の社交性を発揮して僅か一年の間に婚約までこぎ着ける。ある日、頭取アダムズが新型金庫を説明している最中に、アナベルの姉の娘が遊んでいて閉じ込められる―。その後は想像がつくかと思われる。スペンサーはジム・ヴァレンタインに戻り、譲り渡すために持参していた自分の道具を並べ、新型金庫を事もなげに破り、女の子を救い出す。そこに、たまたま張っていた名刑事ベンがとった行動は...。「A Retrieved Reformation(よみがえった改心)」という原題で、作者46歳の時(1909.4)に刊行された第7短編集『Roads of Destiny(運命の道)』に収録され、「侠盗ヴァレンタイン(Alias Jimmy Valentine)」('28年)など何度か映像化されている。

 昔、新潮文庫の大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集』(全3巻)を読んで、今回は新訳での読み直しになります(ラインアップは多少異なる)。この巻は、個人的ベストを絞り切れません。良いと思ったのは「騎士の道」「芝居は人生だ」「心と手」「更生の再生」です。「騎士の道」は西部劇。「芝居は人生だ」凝ったストーリー。「心と手」と「更生の再生」は、保安官や刑事の人情がラストに浮かび上がる「二十年後」などと似たモチーフ。短いけれど印象に残る「心と手」が、キレ味という意味で個人的ベストでしょうか。。

新潮文庫:大久保訳・小川訳 各収録作品
oヘンリー短編集新旧.png

和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社)
『オー・ヘンリー』.jpg

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