【3266】 ○ О・ヘンリー (小川高義:訳) 『賢者の贈りもの―О・ヘンリー傑作選I』 (2014/11 新潮文庫) ★★★★ (◎ 「車を待たせて」 ★★★★☆)

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個人的ベストは、最後の「車を待たせて」か。「緑のドア」も面白かった。

O・ヘンリー 賢者の贈りもの.jpg賢者の贈りもの: O・ヘンリー傑作選I (新潮文庫)

 1905年12月10日発表の「賢者の贈りもの」ほか16編を収録(書影は和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション』)。

オーヘンリー セレクション 賢者の贈りもの.gif「賢者の贈りもの」 The Gift of the Magi
 明日はクリスマスというのにデラの手元に「人生模様」51.jpgあるのは僅か1ドル87セント。これでは愛する夫ジムに何の贈りものもできない。デラは苦肉の策を思いつき実行するが、ジムもまた、妻のために一大決心をしていた―。この作品、クリスマス前発表されている。あまりに有名な作品であり、オムニバス映画「人生模様(O. Henry's Full House)」('52年)の一話としてなど、TV-Mも含め何度も映像化され、オペラにもなり、「ミッキーのクリスマスの贈りもの」('99年)としてディズニーアニメにもなっている。

「春はアラカルト」 Spring à la Carte
 古い下宿に住むサラ。やっとのことで、隣のレストランのメニューの清書タイピストの仕事を得た彼女には、前年の夏、田舎である農夫の若者と恋に落ち「春になったら結婚しよう」と言い合った過去があった―。タイプの打ち間違えが二人を再び引き合わせたという偶然、と言うより「奇跡」に近いか。それでも感動物語に仕上げるところが、この作者の強み。

「ハーグレーヴズの一人二役」 The Duplicity of Hargraves
 娘とワシントンのアパートに暮らす老軍人は元少佐で、回顧録を書いており、近々それを出版して生計費にと考えている。やがて、同じアパートに、役者の卵の感じよい青年が入居する。少佐と娘が気晴らしに劇場に行くと、偶然にもその青年が出演していたが、彼は少佐の振る舞いを完全に模倣した演技で観客の喝采を浴び、少佐は頭にくる。回顧録の進捗が無く、少佐家族は困窮に陥る。例の役者の青年が用立てを申し入れるが、気を悪くしたままの少佐は断る。少佐家族がいよいよ困窮した際に、思いもよらないところから助け舟が―。リアリティに問題がありそうだが、面白かった。

オーヘンリー セレクション 20年後.jpg「二十年後」 After Twenty Years
 ボブとジミー・ウェルズはある場所で20年後に再会する約束をした。ボブが待っていると夜中に巡回中の警察官がやってきて、ボブは西部での成功体験を語る。警察官が去った後、 ジミーと思しき背の高い男が現れ、2人は共に歩き始めるが、明るい場所に出たところでボブは背の高い男がジミーではないことに気づく―。分からないものかなあ。でも、年月は人を変える。法を犯してまでアメリカン・ドリームを追い求めるような人間はよろしくない、ということ。「二十年後」('89年/米)という短編映画になっている。

「理想郷の短期滞在客」 Transients in Arcadia
 避暑地の豪華ホテルに、貴婦人の客がチェックインした。数日後に青年実業家が訪れ、2人は言葉を交わすようになる。自分たちが属しているゴージャスな環境や生活、高い社会的地位や名声について語り合ううちに、2人の間には親近感が芽生え始める。しかし、1週間目のディナーの後で、貴婦人は青年に打ち明ける―。たまに贅沢してみるのもいいかも。"プチ贅沢"ではなく本格的なのを。

「巡査と讃美歌」 The Cop and the Anthem
「人生模様」11モンロー.jpg 冬が近づき、ホームレスのソーピーは冬を快適に過ごすために、刑務所に入ることを計画した。毎年のことである。盗み、無銭飲食、警官への暴行、店のショーウィンドーの破壊。いろいろ試みたが、なぜか警察は逮捕してくれない。疲れて教会に入った。讃美歌が聞こえてきた。その神聖な雰囲気に触発されてか、ソーピーは自分の態度を反省し、真面目に仕事を探すことにした。そして教会を出たところ―。1904年発表。法の無慈悲。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話としてチャールズ・ロートン主演で映像化されていて、マリリン・モンローが出ている。

「水車のある教会」 The Church with an Overshot-Wheel
 4歳になった時に忽然と姿を消してしまった愛娘アグレイア。父親のエイブラム・ストロングは娘を探し続け、母親は心労で亡くなってしまった。エイブラムは、娘がいた頃、水車小屋で小麦粉を挽く仕事を生業とし、作業中はいつも粉挽き歌を歌い、いつも娘と一緒だった。その後、エイブラムは財を築き、古い水車小屋はアグレイアを偲ぶために、そして彼女が住んでいた村人たちが神の恵みを授かるよう教会に改築され、彼は神父となった。また、自分の製品である小麦粉を、災害などで貧窮した人々に無料で配布することにした。何年か後、村のホテルに二十歳のローズ・チェスターという女性が休暇で宿泊していた―。再開物語だとオチは見えていても、パイプオルガンの音が水車の粉を挽く音に重なったというあたりは旨い!と思わせる。

「手入れのよいランプ」 The Trimmed Lamp
 同じ故郷から、都会に出てきた2人の女性。そのひとり、ルーは洗濯屋で地道にお金を稼ぎ背丈のあった男性ダンという恋人を持っている。もうひとりナンシーは、デパートのショップガールとして働き、デパートにやってくる金持ちの男性と玉の輿の結婚を日々狙っている―。幸せを掴んだのは、聖書の「手入れの良いランプ」の喩えにあるように、日頃からランプを手入れするように自分の感性を磨き上げていた女性の方だった。世間の考え、他人の価値観に翻弄され、知らぬうちに他人の価値観の上で行動していると、いつか後悔が残ってしまうだろうという教訓。

オーヘンリー セレクション 千ドルの使い道.jpg「千ドル」 One Thousand Dollars
 ジリアンは使途を報告する義務のある遺産千ドルを受け取る。一生遊んで暮らせる額ではない。面倒くさがり屋の彼は「使途の報告」すら重荷に感じ、叔父の庇護を受けていたミス・ヘイデンに千ドルをそっくりそのまま譲ることに。ところがそれを弁護士に報告に行くと、千ドルの使い方次第では追加の遺産五万ドルを継承できると告げられる。追加遺産の条件は、よいことに使えば自分に五万ドル、ろくでもないことに使っていれば何もなし(五万ドルはミス・ヘイデンに渡る)といもの。頼るものをなくし、特に資産もないとおぼしきミス・ヘイデンに千ドルを贈ることは善行の部類に入るだろう。ジリアンは報告書を読まれる前に「競馬で浪費した」と弁護士に告げて気楽な調子で去っていく―。ジリアンはミス・ヘイデンを心から愛しているのだなあ。自らが損しても、彼女が実質的に幸せになる方を選んだわけだ。しかも、自分の気持ちを伏せて(ある種の美意識?)。

「黒鷲の通過」 The Passing of Black-Eagle

「緑のドア」 The Green Door
 冒険好きな青年ルドルフが夕方通りを歩いていたら、ビラ配りの男がビラをくれる。しかしそのビラは「緑のドア」と書いてあるだけ。試しにもう一回ビラを貰ったらやはり「緑のドア」と。冒険好きなルドルフの血が騒ぎ、近くの建物の中に入ったらそこには緑のドアがあった。ルドルフはそのドアを叩くと 妙齢の女性がドアを開け、彼の姿を見てその場で倒れ込む―。ネタバレになりますが、「緑のドア」が表わしていたのは、ルドルフが入った建物のことではなく、通りの向こうの劇場の演目タイトルで、でも、ルドルフが勘違いして入った建物にも緑のドアあって(ただし、その建物の部屋のドアはすべて緑だった)、要するに、彼が冒険の始まりだと思ったものは彼の壮大な勘違いだったということ。しかしながら、彼の冒険心が一人の女性を救うとともに、新たな出会いを生んだのも事実。

「いそがしいブローカーのロマンス」 The Romance of a Busy Broker
 株式仲買人ハーヴェイ・マクスウェル。"仕事馬鹿"が進んでる彼は、速記者レズリーに気がある。ある日のこと。仕事が立て込んでおり、猛烈に忙しいハーヴェイだったが、ほのかに甘いライラックの香りに我に返り、行動に移る。ハーヴェイの告白は成功するのか―。ほとんど漫画チックな結末。リアリティより皮肉に比重を置いているが、主人公に対する作者の眼は暖かい。

オーヘンリー セレクション 赤い酋長の身に白金.jpg「赤い酋長の身代金」 The Ransom of Red Chief
 悪党のビルとサムは、いかさま土地周旋の元手を得るために、アラバマ州の田舎町の有力者ドーセット氏の息子を誘拐する。ところが、この少年は実はとんでもない腕白坊主で、自分をインディアンの「赤い酋長」と名乗り、ビルをまぬけな白人猟師の「オールド・ハンク」サムをスパイの「スネーク・アイ」と勝手に命名、家から離れた洞窟に連れて来られてもかえって喜ぶ始末。挙句の『赤い酋長の身代金』コミック.jpg「人生模様」41.jpg果てにビルの頭の皮をはごうとする。2人は身代金を期待するがドーセット氏は平然とした様子。二人は身代金の金額を下げて脅迫状を出すが、ドーセット氏からはあべこべに250ドル払えば息子を引き取ると申し出る手紙が届いただけだった。少年の腕白ぶりに恐れをなした悪党達は、ドーセット氏の申し出たとおりの金額を払い、何とか逃げ出すことが出来た―。悪党2人が身代金目的で誘拐した腕白坊主に振り回される愉快な作品。1907年7月6日発表。オムニバス映画「人生模様」('52年)の一話として映像化されているほか、永島慎二によって漫画になっている。

「伯爵と婚礼の客」 The Count and the Wedding Guest
 アンディ・ドノバンは自分の下宿の新たな下宿人コンウェイ嬢を最初は気にかけてなかった。だがある日、喪服を着た彼女に心を奪われ、泣いている彼女を元気づけようとした。彼女は徐々に心を開き、反対する父からようやく許しをもらえた許嫁が死んだことを告げ、写真を見せる。1か月後。彼らは結婚することになった。だがアンディは不安な気持ちでいっぱいだった。そんな彼をみて彼女は自分に許嫁などいなかった、作り話だったと罪の告白をする。アンディは男は彼女の好きな人が自分の尊敬する人ではなかったことに気づき安堵した。写真は許嫁ではなく、彼の尊敬するサリヴァンだったのだ―。写真を見た段階でアンディは彼女のウソに気づいていたことになるが、それを言わないで、彼女が真実を打ち明けるのを待ったということか。優しいね。

「この世は相身互い」 Makes the Whole World Kin
 ある家に侵入した盗賊は、目を覚ました家主の男に「手を上げろ」と命令する。右手を高々と挙げた男に、盗賊は「左手もだ」と要求するが、男の返答は「こっちの手は上がらん。肩にリュウマチがある」。実は盗賊も...。まさに同病相合われるを絵に描いたような話。

「車を待たせて」 While the Auto Waits
 夕方の公園でいつも読書をする美しい女性と、その女性に好意を持ちつつもいつも遠くから眺めている青年パーケンスタッカー。ある日青年は彼女が落とした本を拾い上げ、声を掛けた。彼女は高貴な家柄の人だという。そして、金持ち達の形骸化した贅沢に嫌気がさし、庶民の娯楽を楽しんでいるそうだ。彼女はドイツのとある公国の大公とイギリスの公爵から求婚を受けていると話す。青年は自分の職業をレストランの出納係だと言う。すると彼女は腕時計を覗き、慌てて立ち上がった。青年は彼女の車まで送ろうと申し出たが、ナンバープレートを見られては困るからと断る。しかし、彼女は自分の車を気にも留めず、奥の青年が働いているというレストランに入り、その出納係の席に座った―。車を待たせてたのは誰だったのか、ラストがいい。「While the Auto Waits(自動車を待つ間)」という原題で、作者46歳の時(1908)に刊行された第5短編集『The Voice of the City(都会の声)』に収録されている。

 個人的ベストは、最後の「車を待たせて」でしょうか。タイトルが旨いです。「緑のドア」も面白かったですが、"奇跡的"ととるか、やや偶然が重なり過ぎととるか、微妙なところも。

●0・ヘンリー短編集一覧(刊行年順) ※刊行時年齢
◎生前に刊行された短編集
 第1短編集『キャベツと王様』(Cabbages and Kings, 1904年11月)※42歳
 第2短編集『四百万』(The Four Million, 1906年4月)※43歳
 第3短編集『手入れのよいランプ』(The Trimmed Lamp, 1907年)※45歳
 第4短編集『西部の心』(Heart of the West, 1907年10月)※45歳
 第5短編集『都会の声』(The Voice of the City, 1908年5月)※45歳
 第6短編集『やさしいつぎ木師』(The Gentle Grafter, 1908年11月)※46歳
 第7短編集『運命の道』(Roads of Destiny, 1909年4月)※46歳
 第8短編集『選択権』(Options, 1909年10月)※47歳
  第9短編集『きびしい商売』(Strictly Business, 1910年3月) ※47歳
◎没後に刊行された作品集
 第10短編集『回転木馬』(Whirligigs, 1910年9月)
 第11短編集『てんやわんや』(Sixes and Sevens, 1911年)
 第12短編集『転石』(Roalling Stones, 1912年)
 第13短編集『がらくた』(Waifs and Strays, 1917年)


『Oヘンリ短編集』.jpg 昔、同じ新潮文庫の大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集』(全3巻)を読んで、今回は新訳での読み直しになります。旧訳とは多少ラインアップは異なりますが、ほぼほぼ重なっている感じです。和田誠がイラストを描いている千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社)も読み易く楽しいです。

大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(1)』(1969/03 新潮文庫)
大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(2)』(1969/03 新潮文庫)
大久保康雄:訳『O・ヘンリ短編集(3)』(1969/04 新潮文庫)
大津栄一郎:訳『オー・ヘンリー傑作選』(1979/11 岩波文庫)
芹澤  恵:訳『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』(2007/10 光文社古典新訳文庫)
青山  南:訳『O・ヘンリー ニューヨーク小説集』(2015/05 ちくま文庫)
越前 敏弥:訳『オー・ヘンリー傑作集1 賢者の贈り物』(2020/11 角川文庫)
越前 敏弥:訳『オー・ヘンリー傑作集2 最後のひと葉』(2021/03 角川文庫)
『O・ヘンリー短編集』文庫.jpg

新潮文庫:大久保訳・小川訳 各収録作品
oヘンリー短編集新旧.png

和田誠:イラスト/千葉茂樹:訳 『オー・ヘンリーショートストーリーセレクション(1~8)』(2007/04~2008/03 理論社 )
『オー・ヘンリー』.jpg
 

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