「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1336】 吉田 修一 『悪人』
「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ
相手に立ち入り過ぎない"やさしさ"? "何も起こらない小説"なりの物足りない読後感。
『パーク・ライフ (文春文庫)』 〔'04年〕
2002(平成14)年上半期・第127回「芥川賞」受賞作。
主人公の「ぼく」は日比谷線の中で、間違って話しかけた見知らぬ女性と知り合うが、2人が会うのは平日に共に立ち寄ることが多い日比谷公園においてだった。「ぼく」とその名も知らない年上の女性は、特別に親密になることも遠ざかることもなく、言葉のみを交わす―。
TVドラマの恋愛の始まりみたいなシチュエーションですが、結局、出来事らしい出来事は起きず、これって所謂"何も起こらない小説"ってやつかなと。
文章に飾り気が無く、淡々と日常ふと見たり感じたり、思ったり考えたりしたことを描写していて、人間って生きている時間の大部分はこうして流れていくのかなというようなリアリティがあります。
ただし「ぼく」と女性の会話は(村上春樹の初期作品っぽい感じ)、そこだけ少し世離れした感じを受けました。
相手に対してこうした一定の距離を置く関係性というのは、他者に立ち入り過ぎないことが"やさしさ"であるみたいなものが横溢する時代のムードを反映しているのかもしれないとも思い、そうした人間の微妙な面白さを描こうとしているのかもしれませんが、小説というよりエッセイを読んでいるようでした。(★★★)
表題作に比べると、同録の「flowers」の方がより小説的で、かなり変わった人物、つまり今度は、人と距離を保つタイプの逆で、人との距離感がよく分からないような人物が登場し、事件もいろいろ起きる分面白いけれども、これだと事件が起きた上でそこそこに面白いのであって、まあフツーの小説という感じ。(★★★)
一方の"何も起こらない"小説である表題作に、三浦哲郎の評したような「隅々にまで小説のうまみが詰まっている」という印象は、残念ながら持てませんでした。
【2004年文庫化[文春文庫]】