【1335】 △ 吉田 修一 『パレード (2002/01 幻冬舎) ★★★

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巧みに予想を裏切ってくれたが、本当の「恐ろしさ」はどこにあったのかが曖昧な部分も。

パレード 吉田修一.jpg 『パレード』 ['02年] パレード 吉田修一 文庫.jpg 『パレード (幻冬舎文庫)』 ['04年]

2010年映画化(監督:行定勲)
パレード 映画.jpg 2002(平成14)年・第15回「山本周五郎賞」受賞作。

 都内の2LDKのマンションで共同生活を送る4人の男女(21歳の長崎出身の大学生の良介、23歳の無職の琴美、24歳のイラストレーター兼雑貨屋店長の未来、28歳の独立系映画配給会社勤務で夜のマラソンが日課の直輝)のもとに、18歳の職業不詳の少年サトルが転がり込んでくることで、彼らの生活は徐々に変調をきたす―。

 良介、琴美、未来、サトル、直輝の順にそれぞれの独白体で話が語り継がれ、なぜ彼らが共同生活を営むようになったかが明らかにされるとともに、最後に「恐ろしい」事件&事実が明らかになるというミステリ的要素もある作品ですが、この「恐ろしさ」はホラー・ミステリの「恐ろしさ」ではないでしょう。ホラー・ミステリだとすると、それまでの描写に伏線と言えるものは殆ど無いし...。

 今風の若者達の生態が軽い巧みなタッチで描かれていて、その中に恋人紹介シーンなどがあったりし、高橋留美子の『めぞん一刻』(ちょっと旧いが)を思い出したりさえしたぐらい。殆ど事件らしい事件もなく事が進んでいくのはこの作者の特徴なのかなと思いましたが、そうした中、何かコトを起こすとすれば、実は男娼だったというサトルかなと思ったら、最後に「見事に」と言うか「巧みに」予想を裏切ってくれて、道理で語り手の順番が登場順になっていなかったと。

 現代社会の「恐ろしさ」を描いたと言うよりは、若者の風俗・気質の描写と意表を突くラストとの組み合わせで、全体としてエンタテインメントになっているという感じがしますが、それぞれを切り離してみると、途中までは共同生活を営む若者達の互いの距離の持ち方を描いたテレビドラマの脚本を読んでいるようでもあるし、一方、最後の事件などもそれ自体は映画などで使い古されたパターンであり、共にやや浅薄な印象を受けなくもありませんでした。

 やや深読みしてこの作品に本当の「恐ろしさ」を見出すとすれば、少なくともサトルという少年は直輝に関する事実を知っていたということで、それでいながらこのマンションから離れて暮らそうと思わなかったという点かも。

 サトルの独白ではそのことに触れられておらず、そうした意味での"伏線"が無いと言うか、彼は話すべきことを話していないと言うか(直輝に対する印象としては全く逆のことが書かれている)、"独白"で隠し事するかなあと。

 それではどの時点で何を契機にサトルはその事実に気づいたのか、更には、あとの3人はどうだったのだろうかという疑問も残り、この点はサトルの「未来さんも、良介くんも、琴ちゃんも知ってんじゃないの。よく分んないのよ」という言葉でボカされ、「お互いにそのことについて、ちゃんと話したわけじゃないから」で片付けられているのが、ある意味、そうしたことへの無頓着が恐いといえば恐いのかも知れませんが、物足りないと言えば物足りないような。

 多くの評者がこうした点をさほど論じないでこの作品を褒めそやすのは、この作品が純文学なのかエンタテインメントなのか、ミステリなのか単なるホラーなのか焦点を定めにくいということもあるためではないかという気がしました(作者はこのあとの作品『パーク・ライフ』で芥川賞受賞)。

 【2004年文庫化[幻冬舎文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年2月28日 00:08.

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【1336】 ◎ 吉田 修一 『悪人』 (2007/04 朝日新聞社) ★★★★★ (○ 李 相日(リ・サンイル) 「悪人」 (2010/09 東宝) ★★★☆) is the next entry in this blog.

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