【3182】 ○ ダニエル・シュミット (出演:坂東玉三郎) 「書かれた顔」 (95年/日・スイス) (1996/03 ユーロスペース) ★★★★

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坂東玉三郎に独自のアプローチで迫ったドキュメンタリー。彼の語る演劇論が興味深い。

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坂東玉三郎「書かれた顔」 [VHS]

「書かれた顔」p1.jpg 熊本・八千代座。坂東玉三郎が「鷺娘」を舞う。続いて「大蛇」を踊るため舞台に向かう玉三郎。その姿を背広姿の玉三郎がみつめている。舞台が終わり、化粧を落とす玉三郎。四国・内子座。まず御祓いが粛々と行われ、続いて玉三郎は楽屋で化粧をし、《女》へと変身してゆく。大阪のホテルで女形が女を演ずることについて語る玉三郎。そして八千代座で坂東彌十郎の大伴黒主を相手に「積恋雪関扉」の黒染を演じる。カメラは玉三郎の早変わりや、鉞(まさかり)の陰で関守から黒主に変身する彌十郎、それに二人の演技を後見する黒衣の動きを丹念に捉えていく。玉三郎は希有の天才女優として杉村春子や武原はんの名を挙げる。杉村「書かれた顔」p2.jpgと武原がそれぞれインタビューに答え、《女》を演ずること、舞うことの精神を語る。大野一雄が東京湾の水の上を軽やかに舞う。蔦清小松朝じが三味線を手に常磐津の一節を聞かせる。女と黄昏について語る玉三郎。劇「黄昏芸者情話」。夜の東京湾を走る屋形船で年増の芸者(玉三郎)と若い男二人(宍戸開、永澤俊矢)が花札に興じている。やがて眼鏡をかけた青年(宍戸)と芸者は甲板に出て、接吻を交わす。その様子を見たもう一人の男(永澤)が青年に掴みかかり、芸者が慌てて間に割って入る。黄昏どきの芸者の家に電話がかかり、男からの電話に芸者は艶っぽく身悶えする。夜、明治風のたたずまいの街を芸者が歩き、青年が彼女の姿を求めて走る。再び「鷺娘」。そして大阪の街を行くリムジンに乗った玉三郎の姿が挿入される。「鷺娘」はクライマックスを迎え、玉三郎が大きく後ろにのけぞる―。

「書かれた顔」p3.jpg 「ヘカテ」('82年/仏・スイス)などで知られるスイスの映画作家ダニエル・シュミット(1941-2006)が、人気女形・坂東玉三郎に独自のアプローチで迫っ「書かれた顔」p6.jpgた、1995年製作(日本公開は1996年3月)のドキュメンタリーで、玉三郎の舞台のほか、彼が年増の芸者に扮した「黄昏芸者情話」というフィクションパート(劇部分)が組み込まれていますが、ダニエル・シュミットはこの映画全体がドキュメンタリーではなくフィクシィンであると言っていたそうです(因みにノー・ナレーションである)。

 玉三郎が女形を演じるのを、「今宵かぎりは...」('72年)以来シュミットの全作品のカメラを手掛けるレナート・ベルタが美しく撮っています。玉三郎は当時46歳くらいかと思われますが、素の姿もすごく若く見えます。その玉三郎が語る演劇論も興味深く、玉三郎は女性の気持ちになって女形を演じるのではなく、男性から見た女性の美しさを集約して演じているのだというようなことを述べています。

「書かれた顔」p4s.jpg 自らの演劇論を語る際に尊敬する杉村春子(1906-1997/91歳没)の名を挙げていますが、その杉村春子のインタビューも挿入されていて、自分のハンディを踏まえて演じているという点で、玉三郎が語る内容と重なるのが興味深かったです(杉村春子のハンディは、当初舞台から映画界に行った女優は美人ばかりだったのに自分はそうではなかったこと、玉三郎のハンディは女形にしては身長がありすぎること)。

「書かれた顔」 9ト.gif.jpg 杉村春子と同じく玉三郎が尊敬する人物として2人目に登場するのは、88歳の舞踏家・大野一雄(1906-2010/103歳没)で、夜の晴海埠頭での舞踏を見せます(そう言えば晴海埠頭は今年['22年]2月に閉鎖になったばかりだなあ)。3人目は、芸者か「書かれた顔」 8ト.gif.jpgら日本舞踊の舞踏家に転じた武原はん(1903-1998/95歳没)で、92歳にして日舞を踊ってみせます。さらに4人目には、当時で現役最高齢102歳になる芸者・蔦清小松朝じ(1894-1996/102歳没)が三味線の芸を披露します。いずれも貴重な映像であるとともに、この映画の流れや雰囲気に沿った挿入だったように思います。

「書かれた顔」p5g.jpg むしろ、映画全体がフィクションであるならば劇中劇とも言える、玉三郎と宍戸開、永澤俊矢による「黄昏芸者情話」のパートの方が、全体を通して緊張感がある中で、ここだけ少し浮いていた印象もありました(宍戸開は、玉三郎の監督・主演作品「天守物語」('95年)で共演したばかりだった)。これは、宍戸開らの若さのせいもあるのでしょうか?(玉三郎はいつも年齢不詳だが)

 ただ、ドキュメンタリー部分がノー・ナレーションであるのと同様、劇部分もセリフなしで進行し(玉三郎が電話を受けるシーンだけ、「あっ」と一言発するぐらい)、ちょっと「今宵かぎりは...」を想起する部分もありました。でもこちらの方が分かりやすいです。「今宵かぎりは...」は最初観た時よく分からなかったので...(後で、主人と召使の"入れ替えパーティ"だと知った)。

坂東彌十郎 鎌倉殿の13人1.jpg坂東彌十郎 鎌倉殿の13人2.jpg その他に、「積恋雪関扉」で坂東彌十郎と共演している映像があり、坂東彌十郎と言えば今年['22年]のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条時政を演じているなあと。当時で40歳くらいでしょうか。背が高いので、女形にしては高身長の玉三郎と、見た目ですが、相性がいいように思います。

坂東彌十郎 in「鎌倉殿の13人」(2022)with 小栗旬(北条時政・義時)

坂東やじゅうろう.jpg 坂東彌十郎は玉三郎の「夕鶴」('97年)の演出も手掛け、その後、同世代の十八世中村勘三郎(1955-2012/57歳没)による「麒麟がくる」玉三郎.jpg「平成中村座」に参加。'03には中村座ニューヨーク公演、'14年には長男と自主公演「やごの会」を立ち上げ、'16年にはフランス、スイス、スペインの3カ国をめぐる欧州公演も行っています。大河ドラマでは、武骨で、自分の一族のことしか考えていない"田舎の侍"って感じの北条義政(これ、本人が最初に脚本を読んだ時に受けた印象だそうだ)を演じていますが、実は英語、フランス語を話すインテリです。海外公演に行ったのは、若くしてニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に招聘された玉三郎の影響もあるのでは(そう言えば、玉三郎は坂東彌十郎の2年前、'20年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」に正親町天皇役で出演していた)。

坂東玉三郎 in「麒麟がくる」(2020)(正親町天皇)
  
「書かれた顔」 vhsト.gif.jpg「書かれた顔」●原題:THE WRITTEN FACE●制作年:1995年●制作国:日本・スイス●監督:ダニエル・シュミット●製作:堀越謙三/マルセル・ホーン●撮影:レナート・ベルタ●時間:89分●出演:坂東玉三郎(5代目)/杉村春子/大野一雄/武原はん/蔦清小松朝じ/坂東彌十郎/宍戸開/永澤俊矢●日本公開:1996/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-08-23)(評価:★★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2022年8月23日 21:18.

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