【3181】 ○ 坂野 義光 「ゴジラ対ヘドラ (1971/07 東宝) ★★★☆

「●は行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1127】東 陽一 「サード
「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

シリーズでも最も異色作。ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"(?)監督。

「ゴジラ対ヘドラ」1971p.jpg「ゴジラ対ヘドラ」dvd.jpg 「ゴジラ対ヘドラ」t.jpg
ゴジラ対ヘドラ [60周年記念版] [DVD]

「ゴジラ対ヘドラ」1971f」.jpg 海洋汚染が進む駿河湾。海洋学者・矢野(山内明)の元へ持ち込まれたヘドロの海で採れたオタマジャクシ状の生物は、鉱物で出来ている脅威の生命体だった。その頃、海では船舶事故が相次ぎ、TVカメラには奇怪な海坊主のような怪物の姿が捉えられていたが、矢野の研究によって未知の生物は合体・増殖を繰り返す事が確認され、海の怪物も同種のものと断定された。ヘドラと名付けられた怪物は遂に港から上陸して、工場地帯でスモッグを吸収していった―。

「ゴジラ対ヘドラ」ヘドラ1.jpg 1971(昭和46)年公開の「ゴジラシリーズ」第11作で、企画・監督の坂野義光(1931-2017/86歳没)にとっては監督昇進後の第1回作品。美術は特技監督・円谷英二(1901-1970/68歳没)の黄金期時代の作品の全てのミニチュアセットに関わった特撮美術監督・井上泰幸(1922-2012/90歳没)で(この作品は今月['22年8月]神保町シアターの「生誕百年祭」で観直した)、だだし、円谷英二はこの作品の前年に亡くなっており、円谷の没後に初めて作られたゴジラ映画です。そのため、シリーズの新たなスタートとなった作品とされる一方、独特の作風によりシリーズでも最も異色の作品ともされています。

「ゴジラ対ヘドラ」飛ぶ.jpg ヘドラに立ち向かうのが我らがヒーロー・ゴジラですが(ただしゴジラ側から見れば人間も"害悪"の類か。この作品のゴジラは多分にシリーズ第1作の「ゴジラ」('54年)に原点回帰している)、そのゴジラが空を飛行するシーンは賛否両論となりました。坂野義光監督が田中友幸プロデューサーに許可を得る段階で田中友幸は撮影途中に体調不良で入院しており、当時、東宝の専務・馬場和夫に全権委任され、馬場の判断によってアイデアの採用が決まったとのことです。しかし、完成作品を見た田中は「性格を変えてもらっちゃ困るんだよな」と難色を示し、次回作も板野が監督する予定だったのが、「もう彼には二度と特撮映画は撮らせない」と言って白紙となったそうです。

「ゴジラ対ヘドラ」へどら.jpg 個人的には、ヘドラが水棲期・上陸期・飛行期と3態ほど変態することから、「ゴジラシリーズ」第29作の「シン・ゴジラ」('16年)におけるゴジラが1個体で同じく水棲期・上陸期...といったように4段階もの変態をする(細かく分けると第8形態まであるらしい)のを思い出しましたが、「シン・ゴジラ」の方はゴジラそのものを変態させてしまっているので、田中友幸は草葉の陰で「シン・ゴジラ」に対して「変えてもらっちゃ困るんだよな」とさらに強い口調で言っているのではないでしょうか。

「ゴジラ対ヘドラ」芝1.jpg「ゴジラ対ヘドラ」柴.jpg 主演の矢野博士役を務めた劇団民藝所属の山内明ら以外は出演料の少ない新人を中心に起用するなどし(柴本俊夫、後の柴俊夫などもその一人)、低予算ながらいろいろ工夫し頑張って作っているという感じがするこの作品ですが、公開当時は酷評されました。それが、時代経過と共に風刺アニメやマルチスクリーンを駆使した映像表現などが注目され、反公害を訴えた社会風刺映画として評価が高まってきたようです。また、美術面においても、本作品のファンである映画評論家町山智浩氏も指摘するように、ルイス・ブニュエルやジャン=リュック・ゴダールなどヨーロッパの映画作家たちのアバンギャルド作品の影響がみられ、カルト的な人気のある作品となっています。

 坂野義光はこの作品を最後に劇映画監督から手を引き(ゴジラを飛ばせたことで"飛ばされた"?)、得意の水中撮影を生かし(スキューバダイビングの免許保有者で、この作品での海洋学者・矢野の海中シーンは坂野の吹き替えである)、「すばらしい世界旅行」などのテレビのドキュメンタリー映像に関わり、さらに、プロデューサー業に転身するなどします。一方で、'17(平成29)年、福島第一原子力発電所事故をテーマとした映画「新ヘドラ」(仮称)のシナリオをまとめており、映画化をめざしていることを東京新聞の取材で明らかにしていましたが、同年5月7日、クモ膜下出血で死去し(86歳没)、残念ながら構想は実現することはありませんでした。

「ゴジラ対ヘドラ」m.jpg「ゴジラ対ヘドラ」7.jpg ヒロイン役で出演もしている麻里圭子(まり けいこ)の歌うテーマ曲「かえせ! 太陽を」(作詞:坂野義光/作曲:眞鍋理一郎)の「水銀 コバルト カドミウム 鉛 硫酸 オキシダン・・・」と化学物質の名称と「かえせ!かえせ!」を連呼するメッセージ性の強い歌詞で始まるテーマ曲に象徴されるように、作品そのものもメッセージ性の強い作品ですが、同時に70年代を感じる作品です。また、ヘドラに襲われた人たち「ゴジラ対ヘドラ」3.jpgが続々と白骨化する場面があるなど、被害者の屍を映している点でも「ゴジラシリーズ」の「ゴジラ対ヘドラ」jk.jpg中では特徴的と言うか異色であり、これにより暗いイメージが強い作品となっています。

個人的には、ヘドラが煙突の煙を吸って恍惚としているシーンが何だか妙に迫力があり印象的でしたが(この「煙突ヘドラ」はフィギアにもある)、着ぐるみの内部にホースを入れて掃除機でスモークを吸わせたため、着ぐるみの中が黒煙だらけになり、スーツアクターが窒息しかけたとかで、ウィキペディア「ヘドラ」の項を見ると、裏話に事欠かない作品のようです。

「ゴジラvsヘドラ」.jpg 公開50周年を記念した'21年11月3日開催の「ゴジラ・フェス 2021」にて新作特撮「ゴジラVSヘドラ」が公開され、YouTubeにおいても期間限定で公開されました(かつての"迷作"、今や"名作"扱い?)。

「ゴジラVSヘドラ」(2021)

「生誕百年祭」.jpg「ゴジラ対ヘドラ」●制作年:1971年●監督:坂野義光(水中撮影も兼任)●製作:田中友幸●脚本:馬淵薫/坂野義光●撮影:真野田陽一●音楽:眞鍋理一郎(主題歌:「かえせ! 太陽を」麻里圭子 with 「ゴジラ対ヘドラ」d.jpgハニー・ナイツ&ムーンドロップス)●特殊技術:中野昭慶●美術:井上泰幸(1922-2012)●時間:85分●出演:山内明/柴本俊夫(柴俊夫)/川瀬裕之/麻里圭子/木村俊恵/吉田義夫/中山剣吾(ヘドラ)/中島春雄/●公開:1971/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(22-08-18)(評価:★★★☆)
ゴジラ対ヘドラ [DVD]

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2022年8月18日 20:09.

【3180】 △ 樋口 真嗣 「シン・ウルトラマン」 (2022/05 東宝) ★★★ was the previous entry in this blog.

【3182】 ○ ダニエル・シュミット (出演:坂東玉三郎) 「書かれた顔」 (95年/日・スイス) (1996/03 ユーロスペース) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1