【269】 ◎ 双葉 十三郎 『外国映画ぼくの500本 (2003/04 文春新書) ★★★★☆ (◎ チャールズ・チャップリン 「チャップリンの黄金狂時代(黄金狂時代)/The Gold Rush」 (25年/米) (1925/12 ユナイテッド・アーティスツ) ★★★★☆)

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通し読みすると著者の映画観や評価スタンスがわかり、巻末の「ぼくの映画史」も味わい深い。

外国映画ぼくの500本.jpg ぼくの採点表 2 1960年代.jpg 黄金狂時代 1925.jpg黄金狂時代 コレクターズ・エディション [DVD]
外国映画ぼくの500本』 文春新書〔'03年〕 『ぼくの採点表 2 1960年代―西洋シネマ大系 (2)』 (全5巻)
映画雑誌『スクリーン』1957年1月号
映画雑誌『スクリーン』1957年1月号.jpg双葉十三郎.jpg 映画雑誌「スクリーン」に長年にわたって映画評論を書き続けてきた著者による、20世紀に公開された外国映画500選の評論です。何しろ1910年生まれの著者は、見た洋画が1万数千本、邦画も含めると約2万本、1920年代中盤以降公開の作品はほとんどリアルタイムで見ているというからスゴイ!

 本書のベースとなっているのは「スクリーン」の連載をまとめた『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』という全5巻シリーズで、この中にある約8,900本の洋画の中からさらに500本を厳選し、1本当たりの文字数を揃えて五十音順に並べたのが本書であるとのことです(著者は『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』全5巻完結の年に第49回「菊池寛賞」を受賞している)。

 名作と呼ばれる映画の多くを網羅していて、強いて言えば心温まる映画が比較的好みであるようですが、古い映画の中にはDVDなどが廃盤になっているものも多いのが残念です。

 映画評論の大家でありながら、B級映画、娯楽映画にも暖かい視線を注いでいて、一般観客の目線に近いところで見ているという感じがし、自分たちが青春時代に見た映画も著者自身は老境に入って見ているはずなのに、感想には若者のようなみずみずしさがあって、ああこの人は万年青年なのだなあと。

 1本ごとの見どころを短文の中にうまく盛り込んでいて、リファレンスとしても使え"外れ"も少ないと思いますが、一通り読んでみることをお薦めしたいです。著者の映画観や映画を評価するということについてのスタンスがわかります。すべての作品に白い星20点、黒い星5点での採点がされていますが、「映画とは点数が高ければいいというものではない」という著者の言葉には含蓄があります。

 因みに、90点以上は「黄金狂時代(チャールズ・チャップリン)」「西部戦線異状なし(リュウイス・マイルストン)」「大いなる幻影(ジャン・ルノワール)」「駅馬車(ジョン・フォード)」「疑惑の影(アルフレッド・ヒッチコック)」「天井桟敷の人々(マルセル・カルネ)」「サンセット大通り(ビリー・ワイルダー)」「河(ジャン・ルノワール)」「恐怖の報酬(アンリ・ジョルジュ・クルーゾー)」「禁じられた遊び(ルネ・クレマン)」「水鳥の生態(ドキュメンタリー)」「野いちご(イングマール・ベルイマン)」「突然炎のごとく(フランソワ・トリュフォー)」「スティング(ジョージ・ロイ・ヒル)」「ザッツ・エンタテイメント(ジャック・ヘイリー・ジュニア)」の15本となっています。

 先の「点数が高ければいいというものではない」という著者の言葉もあってこれを著者のベスト15ととっていいのかどうかは分かりませんが、故・淀川長治2.jpg淀川長治(1909-1998)が「キネマ旬報」1980年12月下旬号に寄せた自らのベスト5が「黄金狂時代(チャールズ・チャップリン)」「戦艦ポチョムキン(セルゲイ・エイゼンシュテイン)」「グリード(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)」「大いなる幻影(ジャン・ルノワール)」「ベニスに死す(ルキノ・ヴィスコンティ)」となっており、「黄金狂時代」と「大いなる幻影」が重なっています。年齢が近かったこともありますが(双葉氏が1歳年下)、意外と重なるなあという印象でしょうか。巻末の「ぼくの映画史」も、著者の人生と映画の変遷が重なり、その中で著者が、映画の過去・現在・将来にどういった思いを抱いているかが窺える味わい深いものでした。

 「野いちご」('57年/スウェーデン)などベルイマンの作品を高く評価しているのが印象に残ったのと、チャップリン作品で淀川長治と同じく「黄金狂時代」('25年/米)をベ黄金狂時代 01.jpgストに挙げているのが興味を引きました(淀川長治は別のところでは、"生涯の一本"に「黄金狂時代」を挙げている)。「黄金狂時代」はチャップリン初の長編劇映画であり、ゴールドラッシュに沸くアラスカで一攫千金を夢見る男たちを描いたもので黄金狂時代 03.jpgすが、チャップリンの長編の中では最もスラップスティック感覚に溢れていて楽しめ(金鉱探しのチャーリーたちの寒さと飢えがピークに達して靴を食べるシーンも秀逸だが、その前の腹が減った仲間の目からはチャーリーがニワトリに見えてしまうシーンも可笑しかった)、個人的にもチャップリン作品のベストだと思います(後期の作品に見られるべとべとした感じが無い)。

黄金狂時代es.jpg黄金狂時代_15.jpg黄金狂時代14.jpg「チャップリンの黄金狂時代(黄金狂時代)」●原題:THE GOLD RUSH●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:チャールズ・チャップリン●撮影:ローランド・トザロー●時間:82~96分(サウンド版73分)●出演:チャールズ・チャップリン/ビッグ・ジム・マッケイ/マック・スウェイン/トム・マレイ/ヘンリー・バーグマン/マルコム・ウエイト/スタンリー・J・サンフォード/アルバート・オースチン/アラン・ガルシア/トム・ウッド/チャールズ・コンクリン/ジョン・ランドなど●日本公開:1925/12●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「モダン・タイムス」(チャールズ・チャップリン)

《読書MEMO》
●「双葉十三郎 ぼくの採点表」
☆☆☆☆★★(90点)
1925 黄金狂時代/チャールズ・チャップリン
1930 西部戦線異状なし/リュウイス・マイルストン
1937 大いなる幻影/ジャン・ルノワール
1939 駅馬車/ジョン・フォード
1942 疑惑の影/アルフレッド・ヒッチコック
1945 天井桟敷の人々/マルセル・カルネ
1950 サンセット大通り/ビリー・ワイルダー
1951 河/ジャン・ルノワール
1952 恐怖の報酬/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
1952 禁じられた遊び/ルネ・クレマン
1953 水鳥の生態/ドキュメンタリー
1957 野いちご/イングマール・ベルイマン
1961 突然炎のごとく/フランソワ・トリュフォー
1973 スティング/ジョージ・ロイ・ヒル
1974 ザッツ・エンタテイメント/ジャック・ヘイリー・ジュニア

☆☆☆☆★(85点)
■1920年代以前
 月世界旅行/ジョルジュ・メリエス
 イントレランス/D・W・グリフィス
 カリガリ博士/ロベルト・ウィーネ
■1920年代
 キッド/チャールズ・チャップリン
 ドクトル・マブゼ/フリッツ・ラング
 幌馬車/ジョン・フォード
 アイアン・ホース/ジョン・フォード
 結婚哲学/エルンスト・ルビッチ
 ジークフリート/フリッツ・ラング
 戦艦ポチョムキン/エイゼンシュテイン
 ビッグ・パレード/キング・ビダー
 巴里の屋根の下/ルネ・クレール
■1930年代
 会議は踊る/エリック・シャレル
 自由を我等に/ルネ・クレール
 暗黒街の顔役/ハワード・ホークス
 街の灯/チャールズ・チャップリン
 仮面の米国/マーヴィン・ルロイ
 グランド・ホテル/エドマンド・グールディング
 巴里祭/ルネ・クレール
 四十二番街/ロイド・ベーコン
 或る夜の出来事/フランク・キャプラ
 商船テナシチー/ジュリアン・デュヴィヴィエ
 たそがれの維納/ヴィリ・フォルスト
 オペラ・ハット/フランク・キャプラ
 孔雀夫人/ウィリアム・ワイラー
 望郷/ジュリアン・デュヴィヴィエ
 我等の仲間/デュヴィヴィエ
 舞踏会の手帖/デュヴィヴィエ
 風と共に去りぬ/ヴィクター・フレミング
 スミス都へ行く/フランク・キャプラ
■1940年代
 わが谷は緑なりき/ジョン・フォード
 ヘンリイ五世/ローレンス・オリヴィエ
 逢びき/デヴィッド・リーン
 ダイー・ケイの天国と地獄/ブルース・ハンバーストン
 荒野の決闘/ジョン・フォード
 黄金/ジョン・ヒューストン
 悪魔の美しさ/ルネ・クレール
 踊る大紐育/スタンリー・ドーネン
 黄色いリボン/ジョン・フォード
 情婦マノン/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
 第三の男/キャロル・リード
■1950年代
 アニーよ銃をとれ/ジョージ・シドニー
 イヴの総て/ジョゼフ・マンキウイッツ
 戦慄の七日間/ジョン・ブールティング
 巴里のアメリカ人/スタンリー・ドーネン
 グレンミラー物語/アンソニー・マン
 シェーン/ジョージ・スティーヴンス
 バンド・ワゴン/ヴィンセント・ミネリ
 ローマの休日/ウィリアム・ワイラー
 悪魔のような女/アンリ・ジョルジュ・クルーゾー
 波止場/エリア・カザン
 エデンの東/エリア・カザン
 赤い風船/アルベール・ラモリス
 第七の封印/イングマール・ベルイマン
 情婦/ビリー・ワイルダー
 魔術師/イングマール・ベルイマン
■1960年代
 甘い生活/フェデリコ・フェリーニ
 処女の泉/イングマール・ベルイマン
 太陽がいっぱい/ルネ・クレマン
 ウエストサイド物語/ロバート・ワイズ
 アラビアのロレンス/デヴィッド・リーン
 8 1/2/フェデリコ・フェリーニ
 シェルブールの雨傘/ジャック・ドゥミ
 戦争は終った/アラン・レネ
 アルジェの戦い/ジッロ・ポンテコルヴォ
 バージニア・ウルフなんかこわくない/マイク・ニコルズ
 ロシュフォールの恋人たち/ジャック・ドゥミ
 冒険者たち/ロベール・アンリコ
 素晴らしき戦争/リチャード・アッテンボロー
■1970年代
 ジョニーは戦場へ行った/ドルトン・トランボ
 叫びとささやき/イングマール・ベルイマン
 フェリーニのアマルコルド/フェデリコ・フェリーニ
 タワーリング・インフェルノ/ジョン・ギラーミン
■1980年代
 ファニーとアレクサンデル/イングマール・ベルイマン
 アマデウス/ミロス・フォアマン
■1990年代以降
 霧の中の風景/テオ・アンゲロプロス
 恋におちたシェークスピア/ジョン・マッデン

映画雑誌『スクリーン』1957年1月号 目次
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双葉十三郎(ふたば・じゅうざぶろう、本名小川一彦〈おがわ・かずひこ〉)2009年12月12日、心不全のため死去(99歳)。

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