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19世紀後半のフランス炭坑労働者の悲惨な実態を、一筋縄でなく描く。
ルネ・クレマン映画「居酒屋 HDマスター DVD」(マリア・シェル)/『ジェルミナール 上 (岩波文庫 赤 544-7)』 岩波文庫 (全3冊)〔旧版/改版版〕/ 映画 「ジェルミナルGerminal」/アンジェイ・ワイダ映画「地下水道 [DVD]」
1885年の原著発表のフランスの作家エミール・ゾラ(Emile Zola、1840‐1902)による作品で、彼の膨大な小説群「ルーゴン・マッカール双書」の中では『居酒屋』(1877年発表)、『ナナ』(1879年発表)と並ぶ代表作。
ルーゴン・マッカール双書 folio版
『世界の文学〈第23〉ゾラ (1964年)ジェルミナール』
舞台は1860年代の北フランスの炭鉱町で、主人公のエチエンヌは、元は機械工だったが職を失ってここに移り住み、そこで坑夫の娘で自身も炭坑で働くカトリーヌに恋をし、自分も坑夫として働くようになる。過酷な炭坑の労働、採鉱会社と労働者の対立、資本家の搾取、ロシアから亡命してきたアナーキストの影響などを通して彼は社会主義思想に目覚めるが、長期ストライキの末の反乱は軍隊によって制圧され、アナーキストの破壊工作で地下水脈が破裂して、エチエンヌはカトリーヌとともに坑内に閉じ込められてしまう―。
ゾラと言えば、『居酒屋』で知られる自然主義の作家ですが(ルネ・クレマン監督(1913-1996)の映画もいい)、『ジェルミナール』の主人公エチエンヌはジェルヴェーズの三男です(と言うことは『居酒屋』に出てくるジェルヴェーズの娘で将来の女優「ナナ」の弟にあたるということか)。
「居酒屋」でマリア・シェルが演じた洗濯女ジェルヴェーズは、一度は夫に逃げられた女性ですが、今度は真面目な屋根職人と結婚します。しかし、その亭主である男はある日屋根から落ちて大ケガをし、彼はやがて酒びたりになる―、それでも彼女はダメ亭主にもめげず懸命に働き、なんとか自分の店を持つものの、更に重なる不運があって、やがて自身が酒に溺れ破滅するという、きつい話(マリア・シェルはkの作品の演技により1956年・第17回ヴェネツィア国際映画祭「女優賞」を受賞)。
美人でも男運の悪い女はいるもんだと、マリア・シェルに感情移入して同情し、またリアリズムに徹した佳作だと思いましたが、原作の背後には、ゾラの「運命決定論」のようなものがあったみたいです。
『ジェルミナール』は出世作の『居酒屋』よりも社会派的色彩が強く、労働者リーダーとして成長していくエチエンヌを描いていますが、一方で、酒を飲むと人を殺したくなるという遺伝的(?)性格の持ち主としても描いているところが一筋縄でないところ、つまりは社会的・生物学的環境で人生は決定づけられているというのがゾラの考え方のようです。
労働者のストライキや反乱などのクライマックスもさることながら、物語の半分は炭坑の中での描写なので(炭坑の中で殺人も起きれば愛の成就もある)、自分も坑内にいるような気分になり、重苦しい緊張感があります(閉所恐怖症の人は最後まで読めないかも)。
映画において、英国ウェールズの、やはり炭坑労働者のストライキを描いたジョン・フォード監督(1894-1973)の「わが谷は緑なりき」('41年/米)という1941 年にアカデミー作品賞を受賞している作品がありましたが、そこには影の部分もあれば(悲惨な炭鉱事故の場面)、また光の部分もあり(家族愛がテーマだとも言える)、ノスタルジーにより美化された部分もありました(全体が当時少年だった語り手の想い出として設定されている。モーリーン・オハラって、昔のアメリカ映画にみる典型的な美人だなあ)。
しかしゾラのこの小説は、労働運動の萌芽を象徴する「芽生えの月(ジェルミナール)」という題ながらも、炭坑労働者の悲惨な実態を描いた"影"の部分の重苦しさが全体を圧倒していて、エチエンヌとカトリーヌが坑内に閉じ込められて絶望となるところは、背景は異なりますが、アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーランド)において、ナチスドイツに対して勝ち目のない戦いを挑むポーランドの地下組織の男女が地下水道に追い込まれ、やっと見つけた出口が鉄格子で閉ざされていた―という、これもまた絶望的な場面を想起したりもしました(どちらも「閉所恐怖症」の人にはお薦めできない)。「ジェルミナール」も'93年にクロード・ベリ監督、 ジェラール・ドパルデュー、ミウ・ミウ主演で映画化もされているようなので、そちらも機会があれば観たいと思います。
「地下水道 [VHS]」(カバーイラスト:安西水丸)
「居酒屋」●原題:GERVAISE●制作年:1956年●制作国:フランス●監督・:ルネ・クレマン●製作:アニー・ドルフマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロベール・ジュイヤール●音楽:ジョルジュ・オーリック●原作:エミール・ゾラ 「居酒屋」●時間:102分●出演:マリア・シェル/フランソワ・ペリエ/シュジ・ドレール/マチルド・カサドジュ/アルマン・メストラル●日本公開:1956/10●配給:東和●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-04-15)●2回目:高田馬場ACTミニシアター(83-09-15) (評価:★★★★)●併映(1回目):「嘆きのテレーズ」(マルセル・カルネ)●併映(2回目):「禁じられた遊び」(ルネ・クレマン)
「居酒屋 HDマスター DVD」
「わが谷は緑なりき」●原題:HOW GREEN WAS MY VALLEY●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・フォード●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:フィリップ・ダン●撮影:アーサー・ミラー●音楽:アルフレッド・ニューマン●原作:リチャード・レウェリン(How Green Was My Valley)●時間:118分●出演:ウォルター・ピジョン/モーリーン・オハラ/ドナルド・クリスプ/アンナ・リー/ロディ・マクドウォール●日本公開:1950/12●配給:セントラル●最初に観た場所:吉祥寺ジャヴ50 (84-06-30)●2回目:自由が丘劇場 (85-02-17) (評価:★★★★)●併映(2回目)「いとしのクレメンタイン 荒野の決闘」(ジョン・フォード)
吉祥寺バウスシアター2(旧ジャヴ50)
吉祥寺ジャヴ(JAⅤ)50 1951年~「ムサシノ映画劇場」、1984年3月~「吉祥寺バウスシアター」(現・シアター1/218席)と「ジャヴ50」(現・シアター2/50席)の2館体制でリニューアルオープン。2000年4月29日~シアター3を新設し3館体制に。 2014(平成26)年5月31日閉館。
自由が丘劇場 自由が丘駅北口徒歩1分・ヒューマックスパビリオン自由が丘(現在1・2Fはパチンコ「プレゴ」)1986(昭和61)年6月閉館 ①自由ヶ丘武蔵野推理劇場 ②自由が丘劇場 ③自由ヶ丘ヒカリ座(1970年代~80年代)
Chika suidou(1957)
「地下水道」●原題:KANAL●制作年:1956年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●撮影:イェジー・リップマン●音楽:ヤン・クレンズ●原作:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●時間:96分●出演:タデウシュ・ヤンツァー/テレサ・イジェフスカ/エミール・カレヴィッチ/ヴラデク・シェイバル/ヤン・エングレルト●日本公開:1958/01(1979/12(リバイバル))●配給:東映洋画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-04-10) (評価:★★★★☆) ●併映:「灰とダイヤモンド」(アンジェイ・ワイダ)「地下水道」の一場面/「Kanal [DVD] [Import] (2003)」米国版DVD
「灰とダイヤモンド」(1958)
【1954年文庫化・1994年改版[岩波文庫(上・中・下)]/1994年再文庫化[中公文庫(上・下)]】
アンジェイ・ワイダ(ポーランドの映画監督)2016年10月9日肺不全により死去。90歳。