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全員演技の素人。それでヴェネツィア国際映画祭グランプリだから、スゴイ演出力。
「あの子を探して [DVD]」「あの子を探して [DVD]」メイキング「「あの子を探して」ができるまで [DVD]」
河北省赤城県のチェンニンパオ村にある水泉(シュイチアン)小学校で1年から4年まで28人の生徒たちを教えているカオ先生(高恩満(カオ・エンマン))が、母親の看病のため、1ヵ月間小学校を離れることになった。放っておけば、多くの生徒が家庭の事情で学校をやめてしまう。代理としてチャン村長(田正達(チャン・ジェンダ))に連れてこられたのは、13歳の少女、ウェイ・ミンジ(魏敏芝(ウェイ・ミンジ))。中学校も出ていないミンジに、面接したカオ先生は心許なさを感じるが、子供たちに黒板を書き写させるだけの簡単なことならできるだろうと代理を任せる。報酬は50元。子供を一人も脱落させなければさらに10元。ミンジは、生徒に自習させて教室の外で座っているだけの「授業」を始めるが、うまくいくはずもなく、次々と騒ぎが起こる。特に生徒のホエクー(張慧科(チャン・ホエクー))は、隙を見て抜け出そうとしたり、女の子の日記を盗んで騒いだりといつもミンジを困らせていた。そんなある日、そのホエクーが突然学校に来なくなった。病気になった親の代わりに、町に出稼ぎに行ったという。脱落者を出すと報酬が減ってしまうと考えたミンジは、何とか連れ戻そうと策を巡らせるが、町を出るバス代がない。皆で話し合い、レンガを運んで金を稼ぐことになり、生徒たちも一生懸命働いてようやくミンジを送り出す。大きな町へ着くとホエクーは行方知れずだと聞く。彼女はなけなしの金をはたいて紙と筆と墨汁を買い、尋ね人のチラシを貼り出すが、ある男から「そんなものは無駄だ」と指摘される―。
1999年製作の張芸謀(チャン・イーモウ)監督作で、原作は施祥生(シー・シアンション)の「空に太陽がある」。後に日本で「幸せ三部作」と呼ばれるようになる3作の第1弾で(この後に第2弾「初恋のきた道」('99年)、第3弾「至福のとき」('00年)と続く)、1999年・第56回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を受賞し、同監督作では鞏俐(コン・リー)主演の「秋菊の物語」('92年)に次いで2度目の受賞でした。
最初のうちは、ミンジには真剣に授業に取り組む気持ちも無く、彼女が町にホエクーを探しにいくのも、子供を一人でも脱落させれば、報酬にプラスして貰えるはずの10元がフイになってしまうことが動機になっているわけですが、町に行くために幾らのカネが必要で、レンガを幾つ運べばどれだけのカネが集まるかを生徒に計算させているうちに、だんだん先生っぽくなっていき、レンガ運びで生徒たちとの間にも一体感が生まれてくるのが面白かったです。この辺りは、コメディ的手法が成功していると言っていいのではないでしょうか。
しかし、町に着いてからもミンジのホエクー探しは難航し、彼女はホエクーと最後に別れたという少女にカネを払ってまでして情報を得ようとしていて、観ていて、ああ、もう自分の報酬のためとかでなくなっているなあというのが伝わってきます。本人は別にそう思って意識が変わったわけではなく、いつの間にかそうした意識になっているわけであって、この辺りも上手いと思いました。そして、ラスト近くのテレビを通しての涙ながらの訴え―これは泣けます。
メイキング(張芸謀監修・出演「『あの子を探して』ができるまで」(2002年))によると、出演者は全員、演技の素人であるとのこと。ミンジを演じた13歳の少女ウェイ・ミンジは、全国で2千人以上もの候補者の中から選ばれた河北省の中学校の生徒。ホエクーを演じた10歳のチャン・ホエクーも河北省の小学生で、村長もカオ先生もテレビ番組のキャスターも、実際に同じ職業の人々だそうです。監督は出演者全員にその状況に彼らが置かれたらどうするかを問い、彼らが答えたようにカメラの前で演じさせたとのことです。
監督のインタビュー等によると、ミンジが、スタジオでキャスターからいろいろ問いかけられて何も答えられないでいた場面も、監督が予めミンジに「色々質問されるけれど、必ず答えなければいけない」と言って緊張させておいて、答えられない状況を作り出したということで、監督自身「テレビ局のある一面を風刺している場面になったと思います」と述べています。そのミンジが泣くシーンも、「どうしてもあそこで『ホエクー』って言って泣いてもらわなければならない。で、何をしたかと言いますと、耳元でこっそり囁きました。お父さんやお母さん、お姉さん、妹のことですね。彼女の家は非常に貧しいのです。ですから、そういうお家の状況を思い出して泣いてもらったのです」とのこと。スゴイ演出だなあ。
ややストレート過ぎてベタな印象もありますが、ラストの美談も含め、都市と農村の貧富の差が大きく、それが教育格差にもなっているという社会批判になっているようにも思います。中国語タイトルは「一个都不能少」、英語タイトルは"Not One Less"。ミンジは、残っている生徒をうっちゃっておいてホエクーを探しに行っているわけで、カンヌの審査員たちは当然のことながら、聖書の「迷える子羊」の話を想起したのではないでしょうか(改めて、上手く作られていると思う)。
「あの子を探して」●原題:一个都不能少/NOT ONE LESS●制作年:1999年●制作国:中国●監督:張芸謀(チャン・イーモウ)●製作:趙愚(ツァオ・ユー)●脚本:施祥生(シー・シアンション)●撮影:侯咏(ホウ・ヨン)●音楽:三宝(サンパオ)●原作:施祥生(シー・シアンション)「空に太陽がある」●時間:106分●出演:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)/高恩満(カオ・エンマン)/張慧科(チャン・ホエクー)/田正達(チャン・ジェンダ)●日本公開:2000/07●配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ(00-10-10)(評価:★★★★☆)