【1958】 ○ メアリー・マクマーレイ 「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」 (87年/英) (1996/05 テレビ東京) ★★★★

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原作自体に好き嫌いはあるかと思うが、少なくとも原作の持ち味は出し尽くされていた。

バートラム・ホテルにて dvd01.jpg バートラム・ホテルにて dvd02.jpg  バートラム・ホテルにて 02.jpg  バートラム・ホテルにて ハヤカワポケット.jpg
ミス・マープル 第5巻 バートラム・ホテルにて [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.2 [DVD]

バートラム・ホテルにてJoan Hickson 1987.gifバートラム・ホテルにて 1987Caroline Blakiston.gifバートラム・ホテルにて 01.jpg ミス・マープル(ジョーン・ヒクソン)が、甥のレイモンドの好意でしばらく滞在することになった古風な格式をが売りの「バートラム・ホテル」。そこに偶々、女性冒険家のベス・セジウィック(キャロライン・ブラキストンン)も投宿していた。ミス・マープルはべス・セジウィックが結婚・離婚を繰り返していることを友人のセリナ(ジョーン・グリーンウッド)から聞く。
バートラム・ホテルにて 1987James Cossins.gifバートラム・ホテルにて 1987Helena Michell.gifバートラム・ホテルにて 1987バートラム・ホテルにて 1987.gif 同ホテルには、ラスコム大佐(ジェイムズ・コッシンズ)が姪と称するエルヴィラ・ブレイク(ヘレナ・ミッチェル)と宿泊しているが、実はエルヴィラはべス・セジウィックの娘で、21歳になると莫大な資産を相続することになっていて、大佐は彼女の後見人であった。また彼女は、母親べス・セジウィックの若い愛人でレーサーのラディスラウス(ロバート・レイノルズ)と連絡を取り合っている。
バートラム・ホテルにて 1987George Baker.gifバートラムPreston Lockwood.gif ホテルが大規模な強盗事件と関係があると以前から睨んでいて、ホテルで張り込みを続けているフレッド警部(ジョージ・ベイカー)は、ミス・マープルに警部であることを見抜かれてしまう。そんな中、宿泊客の一人ペニファーザー牧師(プレストン・ロックウッド)が大事な会議の日を間違えて飛行機に乗れずホテルに戻ってきたところを何者かに襲われ、そのまま失踪するという事件が発生した。 
バートラム・ホテルにて 1987 Neville Phillips.gifバートラム・ホテルにて 1987Brian McGrath.gif フレッド警部は失踪事件を捜査する警部に同行し、ホテルの受付係りやボーイ長のヘンリー(ネヴィル・フィリップス)らに聞き込みをするが、強盗事件、失踪事件とも手掛かりが得られずにいた。そこへ、離れたところで交通事故にあったらしく記憶を失っている牧師が戻ってきて、彼は自分の部屋で"鏡"を見たという。そんな中、ベスの元夫でホテルのドアマンのマイケル・ゴーマン(ブライアン・マクダラス)がホテル前で射殺される。銃撃されたエルヴィラを庇って自分が撃たれたらしい。犯罪組織の黒幕は誰か。ゴーマンを射殺したのは誰か―。

バートラム・ホテルにて ハヤカワ文庫.jpgバートラム・ホテルにて クリスティー文庫2ー.jpg BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第7話(本国放映は1987年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 この映像化作品のプロローグでは、列車でロンドンのホテルに向かうミス・マープルと、航空機でホテルに向かうベス・セジウィックが交互に出てきますが、これ、ハヤカワ・ミステリ文庫の真鍋博(1932-2000)による表紙イラストのモチーフと同じです(真鍋博の発案の方が先か。重なったのは偶々だと思う)。

バートラム・ホテルにて 03.jpg 内容はほぼ忠実に原作をなぞっており、この作品の主人公は、表向きは由緒正しく、実は犯罪組織の大掛かりな犯罪のための「舞台装置」である「バートラム・ホテル」そのものであると言ってもよく、それだけにそのホテルをどう撮るかというのが一つの大きなポイントになるわけですが、雰囲気がよく出ているなあという印象(ミス・マープルは、あまりに昔のままであることに却って違和感を抱くわけだが)。原作でかなりの分量を割いているAT BERTRAM`S HOTEL 19871.jpgホテル内の描写や、そこで行われるお茶会の模様が、映像だと一発で分かるわけで、そこが映像の強みですが、逆にイメージと違ったりすると大きな引っ掛かりになるわけで、その点に関しては、この映像化作品は一定水準をクリアしているように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19872.jpg 更に、エルヴィラがベス・セジウィックの娘であることも原作よりも早くから明かされており、ますますテンポがいいと言うか、娘エルヴィラに冷たく接するベス・セジウィックの真意というのが作品の一つのテーマになっているため、ドンデン返しの結末の伏線として、早い段階に母娘の対面を持ってきたのも悪くないように思いました。

AT BERTRAM`S HOTEL 19874.jpg この作品、前半部分は、ホテルが何らかの秘密を抱えているらしいという、その謎がメインであって、一方、エルヴィラは、自分の相続関係を調べまくっています。原作を知らないで観ると、メイドが牧師の部屋に入っていったところでその死体を見つけるというのが、時間帯的にもそろそろといったタイミングであるように思われることから、「死体発見シーン」的な典型的な効果音につられて、ついそう思い込んでしまうでしょう。原作を知らない人向けの演出だったんだなあ、あれは(バックの音楽とは裏腹に何も起きないわけだが、このメイドも"一味"だったみたい)。行方不明になった牧師が戻ってきて、ミス・マープルが"鏡"を見たという彼の言葉を頼りに実地検分してみせる場面は、"適度に解説的"でいいのではないかなあ。

 そうこうしているうちに、ドアマンが射殺されるという殺人事件が起きるのですが、それは原作同様、やっとこさ終盤近くになってから。但し、終盤に畳み掛けるように事件の全貌を明かす原作に対し、この映像化作品の方は、途中で少しずつコトの経緯を明かしている印象です。

 それでも、フレッド警部(彼自身が"やり手"であるにも関わらず、次第にミス・マープルべったりになっていく様が愉快で、いい味出している)が"犯人"の自供につられ「組織の黒幕」=「射殺犯」と思い込むに対し、ミス・マープルの意外な謎解きがあって充分に楽しめ、エゴイスティックな犯人は、その場においては見逃されてしまった原作とは異なり(原作のままでは一般には後味悪かろうと考えたのか)しっかり逮捕連行されています。

 原作も好き嫌いはあるかと思いますが、少なくとも原作の持ち味は十分に出し尽くされていた映像化作品ではないでしょうか。ここまでしっかり作られると、後から再映像化する側が、原作にヒネリを加えたくなるのは分かります。2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版では原作を大胆に翻案していますが、それはそれで成功しているように思いました。
 
Agatha Christie's Miss Marple 1.jpg「ミス・マープル(第7話)/バートラム・ホテルにて」」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL●制作年:1987年●制作国:イギリス●演出:メアリー・マクマーレイ●脚本:ジル・ハイエン●時間:日本放映版108分(完全版205分)●出演:ジョーン・ヒクソン/キャロライン・ブラキストン/ヘレナ・ミッチェ/ジェームス・コッシンズ/ジョアン・グリーンウッド/ジョージ・ベイカー/ プレストン・ロックウッド/ブライアン・マクダラス/ロバート・レイノルズ●日本放映:1996/05/07●放映局テレビ東京(評価:★★★★)

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