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このシーズンから雰囲気が重くなる。緻密にプロットを再現、ドラマ的にも重厚。
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ポワロはルーシー・ルマルション(旧姓クレイル)という21歳の女性に、14年前に母キャロラインが画家である父アミアスを殺害した罪で絞首刑になった事件の真相を探って欲しいと依頼される。母キャロラインは処刑される直前に娘ルーシーに自分は無実であるという手紙を遺していたのだ。ポワロは事件を担当した弁護士から事件の概要を聴く。当時アミアスは、妻子がありながら、頼まれてその肖像画を描くことになった大金持ちの美少女エルサ・グリアーに夢中になっていた。アミアスは結婚後も芸術家として何度も女性と付き合っていたが、今回はエルサに公然と一緒に住むよう迫られ、そのためアミアスと妻キャロラインの間で口喧嘩が多発し、当時近くにいた人々もキャロライン自身がアミアスを殺すかもしれないと言っていたのを聞いていた。近所の住人メレディス・ブレイクの薬棚から毒物のコニンが紛失しており、妻がビールグラスに入れて夫を毒殺したことは疑いようも無かった。ポワロは事件の関係者、アミアスの親友でメレディスの弟のフィリップ・ブレイク、エルサ・グリアー、メレディス・ブレイク、当時の家庭教師ミス・ウィリアムズ、キャロラインの異父妹アンジェラの5人を訪ねる。アンジェラは幼い頃、キャロラインが投げつけた文鎮で右目を失明していた。ポワロは、それぞれが語る当時の様子から事件の真相に辿りき、メイドのスプリッグも加えて古い屋敷に関係者が集められ、ポワロによる謎解きが行われる―。
「名探偵ポワロ」の第50話(第9シーズン第1話)で2003年製作のロング・バージョン。本国放映は2003年12月14日で、本邦初放映は2005年8月25日(NHK-BS2)。原作はクリスティが1943年に発表した長編推理小説で(原題:Five Little Pigs)で、『スリーピング・マーダー』などと同じく所謂"回想の殺人"物です。
『五匹の子豚 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』(クリスティー文庫山本やよい新訳版・真鍋博復刻カバー)
テレビドラマの方は、第9シーズンの第1作であるこの第50話から製作会社や製作者が変わって転換点を迎え、以降の21話分はそれまでの49話分とがらっと変わってシリアスなトーンになっています(第49話と第50話の間に2年8カ月のブランクがある)。ヘイスティングス、ジャップ警部、ミス・レモンのレギュラー3人が登場しなくなり、これまでユーモラスな描写が結構あったのが極端に減って、全体に暗く重いトーンになっていきます。こうした変化については賛否あるかもしれませんが、この「五匹の子豚」などは原作も結構重い話なので、こうした演出が合っているかもしれません(IMDbの評価スコアは「8.4」とシリーズトップクラス)。
原作ではルーシーの母キャロラインは死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡したことになっていますが、このドラマ版では死刑を宣告されてすぐに刑死したことになっており、冒頭その処刑シーンから始まるので、かなり暗いです(「クリスティのフレンチ・ミステリー(第7話)/五匹の子豚」では、キャロラインが獄中でまだ生きていた設定に変えられている)。一方で、メレディスの弟のフィリップ・ブレイクが殺害された当の画家アミアスに対して以前からボーイズ・ラブ的な感情を抱いていて、片や幼馴染みのキャロラインにも気があって...といった脚色もされています(フィリップが、寝室に誘い込んだキャロラインにアミアスへの自分のの感情を指摘されて激高するのは、ある種の分裂症気味だが、ここにもまた重いモチーフが設けられていると言える)。
キャロラインが自分が右目を失明させた異父妹アンジェラを守るために敢えて犠牲になろうとする一方、娘のルーシーに自分は無実であることを知っておいて欲しいという、その母としての気持ちが分かるだけにやるせないです。一方で、オリジナルの精緻なプロットは損なわずに映像化しており、ラストのポワロの関係者一同を集めての謎解きにもドラマ的な重厚感がありました。しかし、犯人は憎らしいくらい堂々としていたなあ。ポワロがルーシーに犯人は処罰を受けるだろうと言ったのは、今更死刑になるということではなく(一事不再理か)、生きて精神的な罪苦を受け続けるということなのでしょうが、ここまでエゴイストだと、どれくらい罪の意識を感じるのか。犯人に銃を向けたルーシーの気持ちが分かります(母親の仇ということだからなあ)。
エイミー・マリンズ(Aimee Mullins)
因みに、ルーシーを演じたエイミー・マリンズ(Aimee Mullins)はアメリカの女優で、両脚の骨の一部(腓骨)を持たずに生まれ、1歳で両膝から下を切断、両脚とも義足です。義足ながらもスポーツをずっと好きでやっていて、5年間ソフトボールをした後、高校からはずっと競技スキーをやり、やがて陸上競技でパラリンピックを目指すようになり、'96年、アトランタ・パラリンピックで女子100Mと走り幅跳びに出場、その後ス―パーモデルとして活躍しながら女優業もこなしているという女性です。但し、この作品に関して言えば、演技力よりもヘアスタイルやメイクアップなどヴィジュアルの方が印象に残るといった感じでしょうか。
ジュリー・コックス(Julie Cox)/ジュリー・コックス in「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」/ジュリー・コックス&マーク・ウォレン in「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)
エルサ・グリアー役のジュリー・コックス(Julie Cox)とメレディス・ブレイク役のマーク・ウォレンは、ジェラルディン・マクイーワン主演「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」 ('04年)において、若かりし日のミス・マープルと、その恋人エインズワース大尉をそれぞれ演じています(「若かりし日のミス・マープル」という設定はドラマのオリジナル)。また、キャロライン・クレイル役のレイチェル・スターリング(Rachael Stirling)も、同じ「牧師館の殺人」でグリゼルダ役を演じるなどしていますが、彼女はアガサ・クリスティ原作の映画「地中海殺人事件」('82年/英)で元女優アレーナ・スチュアートを演じたダイアナ・リグの娘です。
レイチェル・スターリング(Rachael Stirling)/レイチェル・スターリング(右)/レイチェル・スターリング in「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第2話)/牧師館の殺人」('04年)
「名探偵ポワロ(第50話)/五匹の子豚」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON9:FIVE LITTLE PIGS●制作年:2003年●制作国:イギリス●本国放映:2003/12/14●監督:ポール・アンウィン●脚本:ケヴィン・エリオット●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/エイミー・マリンズ(ルーシー)/ジュリー・コックス(エルサ)/レイチェル・スターリング(キャロライン)/エイダン・ギレン(アミアス)/ソフィー・ウィンクルマン(アンジェラ)/トビー・スティーブンス(フィリップ)/マーク・ウォーレン(メレディス)/ジェマ・ジョーンズ(ウィリアムズ)/パトリック・マラハイド(ディプリーチ)●日本放映:2005/08/25●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)
Five Little Pigs