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本格推理の色濃い原作のプロットを、丁寧に分かり易く映像化している。
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ヘイスティングスが投資したアルゼンチン・レストランのオープンでポワロは食事中に倒れて入院し、ミス・レモンの手配で、ヘイスティングスに付き添われてヘルス・リゾートホテルのある島に行くことになる。目的の島への船で、記者のパトリックとクリスティンのレッドファーン夫婦に出会うが、パトリックは島で女優アレーナ・スチュアートと再会し、彼女にべったりになる。ホテルにはアレーナの夫ケネス・スチュアートと彼の息子ライオネルもいて、ポワロとは以前にある殺人事件で知り合ったロザモンド・ダーンリー夫人もいた。ロザモンドはケネスが自分の初恋相手だと言う。ポワロはロザモンドから、アレーナは前夫の死で得た遺産で潤っているとの話を聞く。ライオネルは継母のアレーナを嫌い、同じく島に来ている活動的な女性エミリー・ブルースター、狂信的な牧師レイン、バリー少佐らも彼女を嫌い、牧師は邪悪視さえしていた。ポワロはホテルでスチーム・バスに入れられ、隣にいた職業不詳のヨット好きの男ブラットと知り合う。彼のヨットは何故か日によって赤い帆だったり白い帆だったりした。ポワロはパトリックにアレーナとの浮気を咎めるが、逆ギレされてしまう。翌朝、ポワロとヘイスティングスはピクシー洞窟に船外機付きボートで行こうとするアレーナを目撃するが、そのことを彼女から口止めされる。一方、クリスティンとライオネルはガル洞窟に、それぞれスケッチと海水浴に出掛ける。パトリックはエミリーを誘ってボートを漕ぎ出し、ピクシー洞窟の浜辺で俯せに倒れているアレーナらしき女性を発見する。急いで上陸して駆け寄った彼は「脈が無い」と言い、エミリーがホテルに通報をすることに。クリスティンは12時からテニスの約束はあるためホテルに引き返していたが、そこにはケネスやヘイスティングスもいて、そこへ「アレーナが殺された」との報が入り、ジャップ警部が島に捜査に入る―。
「名探偵ポワロ」の第48話(第8シーズン第1話)で2001年製作のロング・バージョン。本国放映は2001年4月20日で、本邦初放映は2002年1月2日(NHK)。原作はクリスティが1941年に発表した長編推理小説で(原題:Evil Under the Sun)、ガイ・ハミルトン監督、ピーター・ユスティノフ主演の「地中海殺人事件」('82年/英)の原作でもあります(映画では舞台をアドリア海の孤島に改変している)。
原作と比べるとこの映像化作品では、島に滞在している人物の内、あまり事件に関係ないガードナー夫妻がカットされ(原作でも容疑者たり得なかった)、その代り、冒頭に島に来る以前のレイン牧師の教会での狂信的な説教の場面があって、その狂信ぶりが強調されており(後でその狂信ぶりが妻に不倫され逃げられたことからくるものであると分かるがこれはドラマのオリジナル)、また、後で謎解きに関係してくる過去の事件の一場面があります。更に、ケネス・スチュアートの連れ子である"娘"が"息子"に置き換わっています(容疑者の一人であることには変わりない)。
原作には、ヘイスティングスが投資したアルゼンチン料理のレストランが出てきたり、ポワロが島のホテルで無理やり食事療法をさせられたりスチーム・バスに入れられたりすることもなく、また、ヘイスティングスがポワロの療養にお供して島に来たり、事件後ジャップ警部が島に乗り込んで来たり、ポワロがミス・レモンに殺害されたアレーナの財務状況や過去の未解決の類似事件について調べてもらったりすることなどもありません。ポワロがほぼ誰からの協力を得ることもなく一人で事件を解決します(『そして誰もいなくなった』のようなクローズド・サークル型に近いミステリと言える。このドラマ版のロケ地は、クリスティが実際に滞在し、小説を執筆する際にモデルにしたとされるバー・アイランドで、この島は『そして誰もいなくなった』のインディアン島のモデルとも言われている)。
英国デヴォン州バー・アイランドと島に渡るSea Tractor
このように細部においては原作と異なりますが、プロット的には、本格推理の色濃い凝ったプロットの原作を、出来るだけ端折らずにうまく再現しているように思いました。原作も傑作だと思いますが、唯一の難点は、実際にこのような複雑な犯行が実行可能かということではないかと思います。でも、映像化作品を見ると、少なくとも理論的には実行可能であると改めて思いました(蓋然性が伴うが)。
牧師の過去についてはドラマの付け足しですが、過去の類似の事件については、事件解決のための重要事項でありながら原作ではそれほど詳しく描かれていなかったように思われ、それを分かり易く映像化しているのは親切だと思いました。また、そのことにより、犯人の動機もより明らかになっているように思いました。ピーター・ユスティノフ主演の映画版でも冒頭で過去の事件を映像化していますが、原作には無い模造宝石の事件とかも出てきて、あまり分かりよくなかったです。ゴージャスさを楽しむなら映画ですが、プロットを楽しむならドラマでしょうか。
Evil Under the Sun
「名探偵ポワロ(第48話)/白昼の悪魔」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON8:EVIL UNDER THE SUN●制作年:2001年●制作国:イギリス●本国放映:2001/04/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:100分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ティム・ミーツ(スチーブン・レーン)/タムジン・メールソン(クリスチン・レッドファン)/マイケル・ヒッグス(パトリック・レッドファン)/ロジャー・アルボロー(ウェストン警視正)/ケビン・ムーア, ルイス・デラメア(アリーナ・スチュワート)/デビッド・マリンソン(ケネス・マーシャル)●日本放映:2002/01/02●放映局:NHK(評価:★★★★)