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読み終えて時間が経つにつれ、トリックのために書かれた小説との印象が強まってきた。


『愛に乱暴』['13年]『愛に乱暴(上) (新潮文庫)
』『愛に乱暴(下) (新潮文庫)
』['17年]
2024年映画化「愛に乱暴」出演:江口のりこ・小泉孝太郎・馬場ふみか
これは私の、私たちの愛のはずだった―。夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、桃子は誰にも言えぬ激しい衝動に身を委ねるのだが......。夫婦とは何か、愛人とは何か、〈家〉とは何か、妻が欲した言葉とは何か。『悪人』『横道世之介』の作家がかつてない強度で描破した、狂乱の純愛。本当に騙したのは、どちらなのだろう?―。(新潮社サイトより)
主人公の桃子は、東京近郊にある夫の実家の離れに住む結婚8年の専業主婦であり、そこそこ美人で努力家でもあり、カルチャーセンターの講師などもしていますが、夫が愛人をつくって離婚を言い出すとたちまち結婚生活に暗雲がたれ込め、義父の入院や義母との確執も加わって次第に追い詰められていきます。
各章の中で、不倫相手の愛人の日記、夫に不倫をされている妻・桃子の日常と心象、妻・桃子の日記という順番で出てきてそれが繰り返されますが、この構成自体がある種"叙述トリック"でした(読んでいて勘違いしたという人がいたが、勘違いではなく、あくまで作者が仕組んだトリック)。
読み進んで3分の2ぐらいまでいったところでそのことに気づかされますが、夫に浮気された側の女性心理をそこそこ丁寧に描いてはいるなあと思って読んでいたものの、そのトリックに気づいた時点で、主人公にあまり感情移入できなくなってしまったかも。
作者はこの作品を振り返って、「だから、やはり恋愛や夫婦関係がテーマではないんでしょうね。いろんな方向から、〈桃子の居場所〉あるいは〈居場所のなさ〉を書きたかったのだと思います」とインタビューで述べていますが(新潮社サイトより)、人間のエゴを描こうとしたのかと思ってしまいました。
上手いとは思うのですが、「日記」にしても「地の文」にしてもわざと通俗に書かれている感じもして、読み終えて時間が経つにつれ、トリックのために書かれた小説と言うか、トリックに気づいた時点で終わってしまったような小説だったなあという気がしてきました(個人的評価を、当初の★★★☆から★★★に修正)。
【2017年文庫化[新潮文庫(上・下)]】
