【1395】 ○ フレデリック・フォーサイス (篠原 慎:訳) 『第四の核 (上・下)』 (1984/09 角川書店) ★★★☆ (△ ジョン・マッケンジー 「第四の核」 (86年/英) (1997/10 東北新社【VHS】) ★★★/○ ゲイリー・ネルソン 「M&A/タイパンと呼ばれた男」 (88年/英) (1989/10 【VHS】) ★★★☆)

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KGB vs. MI-5の一匹狼同士の対決。TV映画版におけるポロニウムの扱い方は大丈夫?

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第四の核 (上) (下) 』/『第四の核(上) (角川文庫)』『 (下) (角川文庫)』/「第四の核【字幕版】 [VHS]」「M&A タイパンと呼ばれた男・第1部「宿命」 [VHS]

『第四の核 (上)』.JPGThe Fourth Protocol.jpg 1984(昭和59)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。

 時は1987年、ソ連書記長は英国労働党内部で共産主義者が勢力を得ていることを知り、来る総選挙で労働党を勝たせ、英国に共産主義政権を作るべく、英国の米軍基地で小型核爆弾を爆発させるという作戦を立て、KGBのエリート、ペトロフスキーを英国に潜入させるとともに、小型核爆弾の部品を次々と彼のもとへ送り込む。

 一方、MI-5のプレストンは、グラスゴーで死亡したロシア人船員の持ち物の中に、核爆弾の起爆装置の部品が含まれていたことから、ソ連の英国内での核テロ計画を察し、計画の実行役や部品の運び役の正体を暴くために、不審入国者の捜査にあたるが、ソ連側の巧みな偽装工作のため糸口を掴めないまま作戦は進行していく―。

 1984年に英国の作家フレデリック・フォーサイスが発表した、冷戦を背景にしたスパイ小説で(原題はThe Fourth Protocol(第四の議定書))、各国入り乱れてのかなり複雑なストーリーですが(なぜ英国内の米軍基地を狙うかというと、それによってNATOの分断を図ろうというもの)、しかしながら、KGBのペトロフスキー vs. MI-5のプレストンの対決という軸で、関心を切らすことなく読めました(プレストンは左遷されたエージェントであり、単独でペトロフスキーを追っている)。

 もう1つの焦点は、小型核爆弾は果たして完成するのかという点ですが、まあこれは、完成しても爆発させるところまでは至らないないだろうという気が、最初からしてしまうというのはありましたが...(書かれた時点では、3年後の話なのだが)。

The Fourth Protocol v.jpg第四の核THE FOURTH PROTOCOL.jpg 1986年にBBCでテレビ映画化されていて、ピアース・ブロスナンがKGBのスパイを演じていますが、これがなかなか渋い。後の「007シリーズ」を思わせるような女性との絡みやアクション・シーンもありますが(ピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンド役を射止めるのは、この作品の8年後)、アクションに関して言えば、いかにもテレビサイズのそれという感じで、むしろ敵役マイケル・ケインとの演技合戦の方が見どころかも。

 結局、ペトロフスキーは核爆弾を完成させるところまではいくのですが、最後は、「007」とは違って不死身とはいかなかった。但し、プレストンにやられるのではなく...。ペトロフスキーのキャラクターイメージは、『ジャッカルの日』の「ジャッカル」に近いでしょうか。非情なスパイ(エージェント)やスナイパーとして描きながらも、最後に彼らに対するシンパシーのようなものが滲むのも、作者の特徴かも知れません(ケン・フォレットの『針の眼』なども、そうした傾向があるが)。 
 
アレクサンドル・リトビネンコ.jpg この小説にある小型原子爆弾の起爆剤となる物質はポロニウムで、2006年に英国で発生した、元ロシア連邦保安庁情報部員アレクサンドル・リトビネンコの不審死事件は(事件そのものが、この小第四の核 映画.jpg説とかなり似ている部面があるようにも思えるが)、リトビネンコの死因はポロニウムによる毒殺だとされています(公開された病床のリトビネンコの、それまでとは変わり果てた写真は衝撃的だった)。

 マリ・キュリーが発見したことでも知られるポロニウムは極めて危険な放射性物質のはずですが(マリ・キュリーの死因もポロニウムの被曝による可能性が高いとされている)、映画の中では、小型核爆弾の組み立て作業で、女性物理学者が手袋をしただけの素手のまま円球ポロニウムを扱っていて(それをブロスナンが傍で見ていたり、出来あがったキットを一緒に素手で運んだりしている)、こんなんで大丈夫なのかなあ、2人とも被曝しないのかなあと心配になってしまいます。

NOBLE HOUSE 1988 0.jpg ピアーズ・ブロズナンの映画初出演作は、 アガサ・クリスティの『鏡は横にひび割れて』を原作とする「クリスタル殺人事件」('80年/英)で、劇中劇でエリザベス・テーラーの相手をするチョイ役(ノンクレジット)でした。ピアーズ・ブロズナンは、1995年に007/ジェームズ・ボンド役を得るまでは、むしろ劇場映画よりもこうしたTV映画に出演していて、「M&A/タイパンと呼ばれた男」('88年/英)というミニTVシリーズにも出ていました。

NOBLE HOUSE 1988 1.jpg 中国返還を10年後に控えた香港を舞台とするビジネスドラマで、原作は、あの「将軍」を書いたジェームズ・クラヴェル。「将軍」がイマイチだったのでこれもどうかと思ったのですが、ビデオ全3巻、6時間のNOBLE HOUSE 1988 03.jpg長尺でありながら、比較的飽きずに最後まで観ることが出来、ということは、それなりに面白かったということになるのでしょう。「タイパン(大班)」とは香港にある外資系企業のトップを指し、原題の「ノーブル・ハウス」はかつて東アジアで勢いを誇った実在の商社。ピアーズ・ブロズナンはそこの後継者として生まれた青年実業家役で、敵対的M&Aに対する攻防を繰り返していく様をミステリーを絡めて描いたものです。日本でもM&Aが珍しくなくなった今日、比較的馴染みやすい内容となっており、DVD化されるかなと思いましたが、現在のところ['10年]まだのようです。

THE FOURTH PROTOCOL 1986.jpg「第四の核」●原題:THE FOURTH PROTOCOL●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督:ジョン・マッケンジー●撮影:フィル・メヒュー●音楽:ラロ・シフリン●原作・脚本:フレデリック・フォーサイス●時間:116分●出演:ピアース・ブロスナン/マイケル・ケイン/ジョアンナ・キャシディ/ネッド・ビーティ/ジュリアン・グローヴァー/マイケル・ガフ/レイ・マカナリー/イアン・リチャードソン/アントン・ロジャース/キャロライン・ブラキストン/ジョセフ・ブラディ/ベッツィ・ブラントリー/ショーン・チャップマン/マット・フルーワー●日本公開:(劇場未公開)VHS/1997/10 東北新社(評価★★★)

NOBLE HOUSE 1988 00.jpg「M&A/タイパンと呼ばれた男」●原題:NOBLE HOUSE●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゲイリー・ネルソン●原作:ジェームズ・クラヴェル●時間:361分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョン・リスデイヴィーズ/ジュリア・ニクソン/デンホルム・エリオット/デボラ・ラフィン●日本公開:(劇場未公開)VHS(全3巻)/1989/10 アスミック・エース(評価★★★☆)

 【1986年文庫化[角川文庫(上・下)]】 

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