【1389】 ◎ アガサ・クリスティ (橋本福夫:訳) 『鏡は横にひび割れて (1964/04 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★☆ (○ ノーマン・ストーン 「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」 (92年/英) (1997/03 テレビ東京) ★★★★)

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ミス・マープルのシリーズの中でも傑作。ラストの哀しい余韻がいい。

鏡は横にひび割れて ハ―パーコリンズ版.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ.jpg 鏡は横にひび割れて  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg 鏡は横にひび割れてクリスティー文庫.jpg クリスタル殺人事件 ポスター.jpg 鏡は横にひび割れてdvd.jpg
"The Mirror Crack'd from Side to Side" ハ―パーコリンズ版『鏡は横にひび割れて (1964年) 』『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ・ミステリ文庫)』(カバーイラスト:真鍋博)『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』/「クリスタル殺人事件」ポスター/「ミス・マープル 第11巻 鏡は横にひび割れて [DVD]

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964.jpg ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。

THE MIRROR CRACK'D .Pocket (US) 1964

 アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1962年、72歳で発表した作品で(原題"The Mirror Crack'd from Side to Side")、犯人の動機やラストの余韻が忘れ得ない作品、ミス・マープルのシリーズの中でも傑作中の傑作ではないかと思います。

 タイトルの「鏡は横にひび割れて」は、マリーナがパーティでミセス・パドコックと言葉を交わした直後に見せた、凍りついたような謎の表情が、ヴィクトリア朝の詩人テニスンの「シャロット姫」の中で、鏡が横にひび割れ、シャロット姫が、呪いが我が身にふりかかったことを知った時の表情にも思えたところからきています。

 この後にミセス・パドコックは、誰かにぶつかって飲み物をこぼし、代わりにマリーナから渡されたグラスを飲み干して死ぬ、ということで、犯人はもともとマリーナを狙っていたのか、それとも...。

鏡は横にひび割れて 1971.jpg やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。

 最後に犯人は睡眠薬で自殺を遂げますが、本当に自殺だったのか、それとも、犯人のことを想う身内が裁いたのかという謎が残り、ミス・マープルの推論は後者のようですが、哀しいなあ、この結末。マープルもそれ以上のことは追及しないような終わり方です。
       
英国・Fontana版 (1971) (Cover Illustration By Tom Adams)
      
「クリスタル殺人事件」('80年/英)キム・ノヴァク/エリザベス・テーラー
クリスタル殺人事件1.jpgクリスタル殺人事件2.jpg ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているというクリスタル殺人事件3.jpg感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『白昼の悪魔』を原作とするガイクリスタル殺人事件es.jpg・ハミルトン監督の次回作「地中海殺人事件」('82年)の方がスペインで海外ロケをしている分、舞台に金をかけている)、しかも第三の殺人は省いてしまったりもしています。ラストでマリーナの最期に原作には無いオリジナルのひねり(空のベッド!)を加えていますが、これはまずまず。一方、BBCのテレビ版('92年)も見ましたが、むしろこちらの方が、役者の派手さは無いものの、3時間を超える長さで、且つかなり原作に忠実に作られていて"本格派"のように思いました。
 
TVドラマ「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」 ('92年/英)
The Mirror Crack'd 1992 01.jpgThe Mirror Crack'd 1992 03.jpg 導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。

The Mirror Crack'd  07.jpgThe Mirror Crack'd 1992 02.jpg テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。

The Mirror Crack'd 1992 Joan Hickson.jpgThe Mirror Crack'd 1992 スラック警部.jpg この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「第3話/予告殺人」で捜査に当たったクラドック警部(ジョン・キャッスルが、原作に沿って再び登場し(どうやらやり手であるがために逆に出世が遅れているらしい)、いつも登場するスラック警部(デヴィッド・ホロヴィッチ)は「警視」に昇進しています(スラック警視はクラドック警部の有能さを買っている)。

 シリーズを通してミス・マープルに対抗心を抱きながらいつも先を越され、苦虫を噛み潰してきたスラック警部が、「警視」に昇進して自らが直接捜査に当たる必要がなくなった余裕からか、これまでのミス・マープルを無視しようとする姿勢を全面的に改め、クラドック警部にミス・マープルに相談するようアドバイスする場面が個人的には愉快でした(実はクラドック警部はミス・マープルの甥で、彼女の卓抜した推理力については上司に言われるまでもなく知っている)。スラック警部は、ミス・マープルのおかげで昇進できたということでしょうか。そして、本人にもその自覚がある? シリーズ最終話らしいオチでした。

ミス・マープル 鏡は横にひび割れて BBC.jpg 本作はビデオ('98年)にもDVD('02年)にもなっているし、最近ではAXNで観ました(ジョーン・ヒクソンの吹き替えを担当している山岡久乃(1926‐1999)もいい)。ビデオ化される以前にテレビ東京「午後のロードショー」で放映されています('97年)。(いずれも短縮版) 

ミス・マープル 完全版 DVD-BOX.jpg '98年リリースのVHS版では第12話、DVD版は第11話になっていますが、本国での放映年からみると第12話(最終話)。最初に出されたDVDがシリーズ全12話中11話収録(「ポケットにライ麦を」が欠落)だった関係でしょうか?その後出された完全版DVD‐BOX1とBOX2で全12話がフォローされているが最終話ではなく第11話のまま。ビデオ・DVDの収録順は全体を通して本国でのドラマ版制作順と一致していないようです。 「ミス・マープル[完全版]VOL.11 [DVD]

ミス・マープル[完全版]DVD-BOX 2

Disc 7:「ポケットにライ麦を」(A Pocket Full of Rye)
Disc 8:「牧師館の殺人」(The Murder at the Vicarage)
Disc 9:「動く指」(The Moving Finger)
Disc 10:「魔術の殺人」(They Do It with Mirrors)
Disc 11:「鏡は横にひび割れて」(The Mirror Crack'd)
Disc 12:「予告殺人」(A Murder Is Announced)

クリスタル殺人事件 dvd.jpgクリスタル殺人事件4.jpg「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
クリスタル殺人事件 [DVD]

The Mirror Crack'd from Side to Side 1992.jpg「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 
ミス・マープルbbc.jpgミス・マープル jh.jpgミス・マープル bbc.jpg「ミス・マープル」Miss Murple (BBC 1984~1992) ○日本での放映チャネル:テレビ東京/NHK‐BS2/FOXチャンネル

鏡は横にひび割れて dvd.jpg鏡は横にひび割れて 01.jpg 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第20話)/鏡は横にひび割れて」 (10年/英・米) ★★★★

 【1964年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1977年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳]/2004年再文庫化[早川書房・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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