【1394】 ○ ドン・ウィンズロウ (東江一紀:訳) 『ボビーZの気怠く優雅な人生 (1999/05 角川文庫) ★★★★

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"ニール・ケアリー・シリーズ"と『犬の力』の中間にある作品。ストーリーが巧み。

ボビーZの気怠く優雅な人生.jpg 『ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)』['99年] The Death and Life of Bobby Z.jpg "The Death and Life of Bobby Z"  輸入版DVD

The Death and Life of Bobby Z hardcover.jpg 元海兵隊員のティムの人生はトラブルだらけで、コソ泥で服役中に人を殺してしまって終身刑が確実となった上に、殺した男の仲間に命を狙われる―そんな彼に麻薬取締捜査官が差し伸べた救いの手は、ティムの容姿がカリフォルニアの麻薬組織の帝王ボビーZに瓜二つであることから、その替え玉になることだった。協力することで自由の身になった彼だったが、彼の前にメキシカンマフィアの顔役、メキシコの麻薬王ら悪党の面々、そして謎の美女とその連れている男の子が現れ、彼自身は、麻薬王や捜査官に追われる立場に―。

 ドン・ウィンズロウが1997年に発表した作品で(原題は"The Death and Life of Bobby Z")、『ストリート・キッズ』をはじめとする"探偵ニール・ケアリー・シリーズ5部作"に対して、これはシリーズ外の作品。

 他にも90年代に発表された"ニール・ケアリー・シリーズ"以外の作品では、『歓喜の島』('96年)、『カリフォルニアの炎』('99年)』がありますが、この『ボビーZの気怠く優雅な人生』は、小説の背景は"ニール・ケアリー・シリーズ"とは異なるものの、主人公のキャラクター的には、ニール・ケアリー的要素を引いているのではないでしょうか。
 一方で、後の『犬の力』('05年)を予感させるようなバイオレンス的要素もあり、"ニール・ケアリー・シリーズ"と『犬の力』の中間にある作品と言っていいかと思います。

 危機一髪が繰り返されるストーリーはとにかく面白い。ただ、こんな殺戮場面の連続に子どもを立ち会わせていいのかなあと気を揉んだりもしましたが、後になって思えば、「血の繋がらない家族」というのがテーマとしてあったわけかと(子どもを通して、ティムが真人間になっていく過程を描いたともとれる)。

 こんなに事が旨く運ぶのかなあとも思いましたが(ラストのサーフボード!)、ボビーZが語り部のワンウェイによって伝説として語られるように、ティム自身も、1個の伝説となる、その予兆として描かれていると見るべきでしょうか。

 但し、ティムは、最後には、ボビーZの伝説に終止符を打つとともに、自分自身をも消し去る―これは、ティムをボビーZに仕立てることで利するはずだった黒幕の陰謀を、そのまま裏返しにしてお返ししたような結末であるとも言え、そのストーリーテイリングの巧みさには舌を巻くばかりです。

ボビーZ.jpg 語り部のワンウェイの口から伝わるのかどうかは別として、やがて、どこかでティム(乃至ボビーZ)は生きているということで、また新たな伝説が広まるのではないでしょうか。
 どちらの名で伝わるにしろ、実質的にはティムがボビーZの伝説を引き継いだことになりますが、ワンウェイの口から伝わるのならば、"ボビーZ"の名で伝わるのだろうなあ。

 映画化され、ストーリーはほぼ原作に忠実なようですが、ポール・ウォーカーのティム役は、ちょっとイメージ違うような...。

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