【1391】 ◎ ドン・ウィンズロウ (東江一紀:訳) 『ストリート・キッズ (1993/11 創元推理文庫) ★★★★☆

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元ストリート・キッズの探偵の活躍が爽快。"ソフトボイルド"の傑作。

A Cool Breeze on the Underground.jpg ストリート・キッズ ドン・ウィンズロウ.jpgストリート・キッズ (創元推理文庫)』['93年] Don Winslow.jpg Don Winslow

A Cool Breeze on the Underground: A Neal Carey Mystery: Don Winslow

 1994(平成6)年・第12回「ファルコン賞」(マルタの鷹協会主催)受賞作。

 1976年5月、「朋友会」という組織に属する探偵ニール・ケアリーは、来る8月の民主党全国大会で副大統領候補に推されることになっている上院議員から、行方不明の17才の娘アーリー探しを依頼され、彼女の元同級生の目撃証言をもとにロンドンに向かうが、その地で何とか探しあてた娘を巡って、ワル達との間での駆け引きが始まる―。

 『犬の力』で2009年の「このミス」海外編で第1位になった、ニューヨーク出身の作家ドン・ウィンズロウ(Don Winslow,1953‐)が、1990年に発表したデビュー作で、"ニール・ケアリー"シリーズ(全5作)の第1作でもあります(原題は"A Cool Breeze on the Underground")。

 邦訳のタイトルは、主人公が、父親は行方知れず、母親は飲んだくれの娼婦という不幸な生い立ちの路上生活少年、所謂ストリート・キッズだったことに由来し、彼はひょんなことから父親代わりと言うべきグレアムと出合い、尾行術など探偵の基礎を教えられ、やがて組織の一員となり、大仕事をやってのけるという痛快な内容です。

 文庫で512ページの長編ですが、テンポ良く楽しめながら読める文体が良く、前半はあまり探偵小説っぽくなくて、「ニューヨーカー」誌(短編主体だが)の都会小説を読んでいるような感じもあります。

 ニールとグレアムの父子関係にも似た師弟関係が良く、実際2人は「父さん」「坊主」と呼び合っていますが、時にそれは強い信頼の絆の下にある友情関係のようでもあります。

 そして、ニールのキャラクターも最高。普段は減らず口ばかり叩いていますが、実は繊細ではにかみ屋。大学で文学を教えることを目指す知性派であり、体力よりも知力で勝負するタイプですが、いざという時は身体を張って、時には命がけで勝負しなければならない局面も。

 そんな時には、既存のハードボイルド小説のスーパーヒーローやタフガイと違って、"普通人"と同様に恐怖心を抱き、それを克服しようと懸命になっている様が健気で(それが時に、作者によって巧みにユーモラスな筆致で描かれている)、こんなキャラって、従来のハードボイルド小説ではいなかったなあと思われ、実に新鮮でした。

 ニールとアーリーに絡む様々な人物の描写も楽しめ、彼らが複雑に取引きし合って、そして、終盤のたたみかけるような展開。全体のプロットも秀逸で、まさに「ニール、してやったり」という感じ。

 近作『犬の力』(これ、傑作です)に比べ、より自分の経験に近いところで書かれている感じで(作者は俳優、教師、記者、研究員など様々な職業を経験していて、この作品を書いた時点でも、調査員兼サファリガイドだったとのこと)、基調にはユーモアが目一杯に鏤められています。

 こういうの、"ハードボイルド"でなく、"ソフトボイルド"と呼ぶそうです。ナルホドね。ソフトボイルドの傑作です。

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