【3298】 ○ エリック・ロメール「緑の光線」(86年/仏)(1987/04 シネセゾン)★★★★(○ 「飛行士の妻」 (80年/仏)(1996/03 シネセゾン) ★★★☆/○ 「美しき結婚」(81年/仏)(1996/03 シネセゾン) ★★★☆/△ 「満月の夜」 (84年/仏)(1987/01) ★★★)

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演出もストーリーも自然な流れでよくできていた「緑の光線」。

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「緑の光線」(1986)「喜劇と格言劇」シリーズ第5作
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「飛行士の妻」(1980)「喜劇と格言劇」シリーズ第1作
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「美しき結婚」(1981)「喜劇と格言劇」シリーズ第2作
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「満月の夜」(1984)「喜劇と格言劇」シリーズ第4作

「緑の光線」1.jpg オフィスで秘書をしているデルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は、独りぼっちのヴァカンスを何とか実りあるものにしようとする。恋に恋する彼女の理想は高く、昔からの男友達も、新たに現われた男性もなんとなく拒んでしまう。ヴァカンスを前に胸をときめかせていた。7月に入って間もない頃、ギリシア行きのヴァカンスを約束していた女ともだちから、急にキャンセルの電話が入る。途方に暮れるデルフィーヌ。周囲の人がそんな彼女を優しく慰める。女ともだちのひとりが彼女をシェルブールに誘ってくれた。が、シェルブールでは独り、海ばかり見つめているデルフィーヌ。8月に入り山にでかけた彼女は、その後、再び海へ行った。そこで、彼女は、老婦人が話しているのを聞いた。ジュール・ヴェルヌ『緑の光線』の話で、太陽が沈む瞬間に放つ緑の光線は幸運の印だという。太陽が水平線に沈んだ瞬間、青い光線が最後まで残って、それがまわりの黄色と混ざって私たちの目に緑の光線として届き、それを見た者は幸福を得られるという。何もなく、パリに戻ることにした彼女、駅の待合室で、本を読むひとりの青年と知り合いになる。初めて他人と意気投合し、思いがけず、自分から青年を散歩に誘う。海辺を歩く二人の前で、太陽が沈む瞬間、緑の光線が放たれたのだった―。(「緑の光線」

「緑の光線」2.jpg エリック・ロメール監督による1986年のフランス映画。同監督の「喜劇と格言劇」シリーズ全6作の内の第5作にあたり、1986年「ヴェネツィア国際映画祭」金獅子賞受賞作品です。同監督は、「全編がシナリオなしの即興演出で撮られた『緑の光線』の場合は、毎朝その場で役者に台詞を渡して撮っていた」(『映画狂人のあの人に会いたい』蓮見重彦、河出書房新社(2002))と述べています。これまでの作品にもその傾向が見られましたが、このシーリーズの5作目にして、そのスタイルが非常に効果的な演出に繋がったように思います。個人的には、濱口竜介監督がその演出方法を参照・応用したとされていますが、確かに濱口監督の作品に通じるところがあります。

「緑の光線」(86年).jpg 演出もストーリーも自然な流れでよくできていると思いました。「緑の光線」は、ジュール・ヴェルヌの小説で、太陽が沈む最後の瞬間に放つ緑の光線を見ると"自分と他人の感情が分かる"という言い伝えがあることを知った女性の、緑の光を求める旅を描いた作品で、要するに「緑の光線」とは日没時にたまに見られるグリーン・フラッシュのことを指します(小学校の自由研究で日の出・日没観測をやったので見たことがある)。そのモチーフをうまく作品に織り込んでいるように思いました(スピリチュアルな印象もある一方で、なぜグリーン・フラッシュが起きるのか見知らぬオジさんが科学的に説明もしていたなあ)。よくある日没シーンですが、観ている側も思わず固唾を飲んで見つめてしまいます。主人公デルフィーヌの心情が観ている側に伝わっているから、美しく感動的なシーンになっているのでしょう。デルフィーヌ役のマリー・リヴィエールが好演していて、何よりもそのキャラクターに好感が持てるのが大きかったです。しかし、フランス人にとってバカンスをどう過ごすかは大問題なわけだなあ(評価は★★★★)。


「飛行士の妻」1.jpg 二十歳の法学部の学生フランソワ(フィリップ・マルロー)は、秘書として働く5歳年上のアンヌ(マリー・リヴィエール)と交際中。そんなある日、航空会社パイロットのクリスチャン(マチュー・カリエール)が以前から不倫関係にあったアンヌを訪ね、妻とヨリを戻したので関係を完全に終わらせようと申し出る。話を終えた2人が部屋から出ていくところをフランソワが偶然目撃し、2人の仲を疑う。動揺したフランソワがパリの街をさすらっていたところ、クリスチャンが別の女性といる姿を目撃し、衝動的に尾行する。途中のバスで彼はリュシー(アンヌ=マリー・ムーリー)と目が合う―。(「飛行士の妻」

「飛行士の妻」 (80年/仏).jpg 1980年発表の「喜劇と格言劇」シリーズ第1作。主人公の青年がある勘違いをしたため、交際中の年上の女性の不倫相手の妻(ややこしい!)が一体誰なのかというちょっとしたミステリ仕立てにもなっています。これ、後に続く作品の流れで行くと、フランソワはたまたまバスで乗り合わせ共に謎を探ったリュシー(ぱっと見、15歳に見えないくらい大人っぽいが、キャラクター的にはやは女子高生だった)と結ばれそうな気もしますが、結末はほろ苦いものとなっています。結局、この映画でマリー・リヴィエールが演じているアンヌというのは悪女に近いかなあ。フランソワは何だか人生を回り道しそうなタイプに見えました(評価は★★★☆)。


「美しき結婚」12.jpg「美しき結婚」 (81年/仏).jpg パリで美術史を学ぶサビーヌ(ベアトリス・ロマン)は画家で妻子持ちの愛人シモン(フェオドール・アトキン)との関係を清算し、結婚することを決意する。親友のクラリス(アリエル・ドンバール)は従兄弟で弁護士のエドモン(アンドレ・デュソリエ)を紹介する。サビーヌは彼との結婚を決意するのだが、多忙なエドモンがなかなか電話に出てくれない―。(「美しき結婚」

ベアトリス・ロマン/アリエル・ドンバール

「美しき結婚」22.jpg 1981年発表の「喜劇と箴言」シリーズの第2作目。第1作よりよりはわかりやすい面白さになりました。ただし、ベアトリス・ロマン演じるヒロインのサビーヌの猪突猛進的な暴走感もあったなあ。結婚を絶対視していて、しかも、「自分が相手を好きならば相手も自分を好きに違いない」的な思い込みが凄いです。思われた相手は迷惑しそう。エドモンが最後に付き合えない理由をやんわり傷つけないように言ってるのに、逆上して彼を罵倒する場面は、見ていて痛々しかったです。第1作より作りはいいのですが、ヒロインが好きになれない。最後は親友(アリエル・ドンバール、米国生まれだが、父親がフランスの駐メキシコ特命全権大使だっためにメキシコで育ち、フランス語とスペイン語を話す)にまで当たっていたからなあ。友達無くすタイプ(評価は第1作と同じく★★★☆)。


「満月の夜」01.jpg インテリア・デザイナーの美女ルイーズ(パスカル・オジェ)は、仕事一筋の男性レミ(チェッキー・カリョ)とパリ郊外で同棲中。パーティ好きなルイーズと生真面目なレミは相容れない性格だが、縛られることを嫌うルイーズの自由気ままに対してレミは寛容に接しようとする。そんなある日、美しいゆえ常に誰かと交際し続けてきたルイーズは、孤独になりたくて新たに一人部屋を借りることに。ルイーズは妻帯者の親友オクターブ(ファブリス・ルキーニ)と遊び歩き、やがて彼から関係を求められるが、ルイーズは友だち以上の感情をもっていな い。あるパーティで、ルイーズはバスチアン(クリスチャン・ヴァデム)という美青年と知り合う。オクターヴの忠告も聞かずバスチアンの誘いにのるルイーズ―(「満月の夜」)。
「満月の夜」02 (1).jpg 1984年発表の「喜劇と箴言」シリーズの「喜劇と格言劇」シリーズ第4作。恋多き女性を個性的に演じて室内装飾も担当したパスカル・オジェが、遺作となった本作で1984年・第41回 「ヴェネチア国際映画祭女優賞」を受賞しています(パスカル・オジェは「満月の夜」公開2か月後に心臓発作のため25歳で夭折した)。

クリスチャン・ヴァディム/パスカル・オジェ

「満月の夜」 パンフ.jpg 登場人物それぞれに恋人が複数いたり、お互い知り合いだったりして、性的交渉も含め自由奔放に生きているようで、それでいて息苦しさもあって、結局、冒頭の格言"二人の妻を持つ者は心をなくし、「満月の夜0.jpg二つの家を持つ者は分別をなくす"に帰結するような話だったように思います。パスカル・オジェ演じる男を切らしたことが無いというのが自慢の主人公ってあまり好きになれないなあ(キャラクターは嫌いだけれどファッションは好きという人も多いみたい)。野性味のある男が好きな彼女は〈満月の夜〉に彼氏とは別のそんな男(クリスチャン・ヴァディム、「アガサ・クリスティー 奥さまは名探偵 〜パディントン発4時50分〜」 ('08年/仏)にも出ていた)と寝てしまいますが(すぐ寝るね)、彼氏の方は彼氏の方で他の女性と恋に落ちていた! パスカル・オジェに賞が与えられたのは、追悼の意味もあったのではと思ったりもしましたが、受賞した後に急逝したようです(評価は★★★)。

 演出方法やカメラの撮り方など、技法論的に語られることの多い作品であったはずですが、ほとんど主人公(ヒロイン)のキャラクターの好き嫌いで観てしまいました。そうなってしまうのは、それだけキャラクター造型が画一的なものではなく、リアリティのあるものであるためではないかと思います(こんな人物が自分の身近にいたらどうだろうか...という思いでついつい観てしまう)。


「緑の光線」ds.jpg「緑の光線」●原題:LE RAYON VERT(英:THE GREEN RAY)●制作年:1986年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴス●撮影:ソフィー・マンティニュー●音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ●時間:98 分●出演:マリー・リヴィエール/リサ・エレディア/ヴァンサン・ゴーティエ /ベアトリス・ロマン●日本公開:1987/04●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-12-26)(評価:★★★★)

「飛行士の妻」 (.jpg「飛行士の妻」99.jpg「飛行士の妻」●原題:LA FEMME DE L'AVIATEUR(英:THE AVIATOR`S WIFE)●制作年:1980年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴス●撮影:セシル・デキュシス●音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ●時間:107分●出演:フィリップ・マルロー/マリー・リヴィエール/アンヌ=マリー・ムーリー/マチュー・カリエール●日本公開:1996/03●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-20)(評価:★★★☆)

「美しき結婚」●.jpg「美しき結婚」23.jpg「美しき結婚」●原題:LE BEAU MARIAGE(英:THE GOOD MARRIAGE)●制作年:1981年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴズ●撮影:ベルナール・リュティック●時間:103分●出演:ベアトリス・ロマン/アンドレ・デュソリエ/アリエル・ドンバール/フェオドール・アトキン/ユゲット・ファジェ/ヴァンサン・ゴーティエ/タミラ・メツバ/ソフィー・ルノワール/パスカル・グレゴリー●日本公開:1996/03●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(22-11-28)(評価:★★★☆)
アリエル・ドンバール 美しき結婚.jpg

アリエル・ドンバール.jpg アリエル・ドンバール

「満月の夜」sb.jpg「満月の夜」●原題:LES NUITS DE LA PLEINE LUNE(英:FULL MOON IN PARIS)●制作年:1984年●制作国:フランス●監督・脚本:エリック・ロメール●製作:マルガレット・メネゴズ●撮影:レナート・ベルタ●音楽:エリ&ジャクノ●時間:101分●出演:パスカル・オジェ/チェッキー・カリョ/ファブリス・ルキーニ/クリスチャン・ヴァディム/ラズロ・サボ●日本公開:1987/01●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-12-19)(評価:★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2024年1月 9日 23:21.

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