【1038】 ○ アーネスト・ヘミングウェイ (福田恒存:訳) 『老人と海』 (1966/06 新潮文庫) (○ ジョン・スタージェス 「老人と海」 (58年/米) (1958/10 ワーナー・ブラザース)★★★☆/○ アレクサンドル・ペドロフ 「老人と海」 (99年/露・カナダ・日) (1999/06 IMAGICA) ★★★☆)

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男性原理、或いは"ハリウッド映画"に受け継がれるようなヒロイズム。

世界の文学 44 ヘミングウェイ.jpg老人と海/ヘミングウェイ 福田恆存・訳 新潮文庫.jpg   老人と海.jpg
世界の文学〈第44〉ヘミングウェイ (1964年)武器よさらば・老人と海・その他六編』['64年]/『老人と海 (1966年) (新潮文庫)』旧版/『老人と海 (新潮文庫)』 改版版

The Old Man And the Sea.jpg ヘミングウェイの代表作、且つ、生前に発表された最後の作品。最初に読んだのは中学生の時で、多少気負って読み始めたら、最初の老人と少年との会話の部分でいきなり野球の話などが出てきて、文学全集に収まるような作品にプロ野球(正確にはメジャーリーグだが)の話があるのがちょっと意外な印象を受け、結局今でもそのことが一番印象に残っていたりもします(川上弘美氏だったかな?小学5年生の時に読んだという作家は)。

ヘミングウェイ .jpg ヘミングウェイは1952年にこの作品を書き上げ、1954年にノーベル文学賞を受賞しており、ノーベル文学賞は個別の作品ではなく作家の功績および作品全体に与えられるものですが、一方で、この「老人と海」が受賞に寄与したとされていて、これを"受賞対象作"とすれば、書かれてから受賞まで僅か2年しかないことになります(まあ、それまでの実績が評価されたのだろうけれど)。ヘミングウェイはこの作品でピュ-リッツア-賞(文学部門)も受賞しています。

 新潮文庫版は、シェイクスピア作品の翻訳で知られる福田恒存の訳で(福田恒存・野崎孝以外で誰が訳している?)、作中人物の個性にも歴史が反映される(空間が時間に支配されている)ヨーロッパ文学に比べ、ただそこに空間があるだけのアメリカ文学は「食い足りない」とする福田恒存にとって、大海原での老人と魚の格闘というシチュエーションに的を絞ったこの作品は、そうしたアメリカ文学の弱点を逆手にとることで成功しているということになるようです。

アーネスト・ヘミングウェイ (Ernest Miller Hemingway).jpgGrace Hall Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life.bmp 「ハードボイルド・リアリズム」と呼ぶに相応しい福田訳(経年疲労しない名訳)から、センチメンタリズムを排した男性原理、ギリシャ悲劇的なヒロイズム(或いはハリウッド映画に受け継がれるようなヒロイズム)が浮き彫りにされているように思えます(実際、このサンチャゴ老人のストイシズムはカッコいい)。ヘミングウェイは母グレイスに女の子のように育てられたとのこと、幼少の頃の女装させられた写真は有名で(後のハンティングなどに興じる数ある"逞しい"写真と対比すると興味深い)、彼のマッチョ願望をそうした幼児体験の反動であると見る心理学者もいます。
Grace Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life. 女の子姿のヘミングウェイ

老人と海 1958 チラシ.jpeg この作品については、ジョン・スタージェスが監督し(「OK牧場の決斗」('57年)と「荒野の七人」('60年)の間の作品になる)、スペンサー・トレーシーが主演した映画化作品「老人と海」('58年)が老人と海 1vhs.jpgあり、個人的にはビデオで観ました。2度アカデミー主演男優賞を受賞しているスペンサー・トレーシーは、「山」('56年)などを観ても名優だと思いますが、この映画でも十分名優ぶりを発揮していたと思います。ただ、独白とナレーション(本人)の組み合わせが多く続くため、さすがの彼も「山」よりは結構きつそうに演技している印象も受けました。この映画の当初製作費は200万ドルであったのが、「適THE OLD MAN AND THE SEA 1958 2.jpg切な魚の映像を探す」ために500万ドルにまで上昇したそうで、そのため水中でカジキをつつくサメたちのシーンなどもあったりして緊迫感は大いにありますが、その緊迫感は動物パニック映画風のものでした。そうした状況の中で、原作の文学性はスペンサー・トレーシー一人の演技にすべて負わせているという感じで、その辺が「結構きつそうに演技している印象」に繋がるのかもしれません。でも、スペンサー・トレーシーという人はものすごい自信家だったそうで、まさに自分の力の見せ所と思って演技していたとも考えられます。

老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 変わったところでは、ロシアのアレクサンドル・ペドロフ監督が約2万9千枚ものガラスの板に油絵具を使って指で描いて制作しアカデミー賞に輝いたアニメーション作品('99年)があります。日本では東京アイマックスシアターなどで上映されましたが、この手法(「手作り」で完結しているのではなく、最終的には膨大なTHE OLD MAN AND THE SEA 02.jpgコンピュータ制御により動画構成されている。これは最近のアニメ芸術に共通して見られる傾向)だと、海が本当に綺麗に描かれて、実際、この人の作品は水をモチーフにしたものが多いようですが、これはまさに「動く巨大絵本」だなあと感心させられました。ただ、時間が23分と短いため(この23分に4年もかけたそうだが)、アイマックスで観た時はスゴイと思ったけれど、後で振り返ると文学的なエッセンスはかなり抜け落ちた感じも拭えませんでした(星3つ半はやや辛目の評価か)。

Oceanic White‐tip Shark.jpg 余談ですが、サンチャゴ老人はまず、獲物であるカジキマグロと闘い、次にその獲物を狙う鮫たちと戦うわけで、最初に襲って来るのが「アオザメ」で、その次に、サンチャゴが「ガラノー」と呼ぶところの"シャベル鼻の鮫"が襲って来ます。そして、結局この鮫が獲物のカジキマグロを食い尽くしてしまうのですが、この「ガラノー」というのは中学生の時に読んで以来ずっと「シュモクザメ」(Hammerhead)のことだと思っていましたが、メジロザメ科の「ヨゴレ」(Oceanic White‐tip Shark)とのことでした(シャベルの"柄"と"先"を取り違えていたかも)。魚の映像(水中撮影等)に費用をかけたスペンサー・トレーシー版「老人の海」を観るとどんなサメかがよく分かります。

老人と海 [DVD]
老人と海 1958.jpg老人と海 1958 syounen.jpg「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・スタージェス●製作:リーランド・ヘイワード●脚本:ピーター・ヴィアテル●撮影::ジェームズ・ウォン・ハウ/フロイド・クロスビー/トム・タットウィラー/ラマー・ボーレン(水中撮影)●音楽:ディミトリ・ティオムキン●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:86分●出演:スペンサー・トレイシー(老人&ナレーション)/フェリッペ・パゾス(少年)/ハリー・ビレーヴァー/ドン・ダイアモンド●日本公開:1958/10●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)

THE OLD MAN AND THE SEA 01.jpg 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター 東京アイマックスシアター2.jpgタイムズスクエア 東京アイマックスシアター.gif(99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション
東京アイマックスシアター (タカシマヤタイムズスクエア) 2002(平成14)年2月1日閉館
      
1955年単行本[チャールズ・E・タトル商会(福田恒存:訳)]/1956年全集[三笠書房(福田恒存:訳)]/1964年「世界の文学44」[中央公論社(福田恒存:訳)]【1953年老人と海、チャールズ・イー・タトル商会版.jpg文庫化・1980年改版[新潮文庫(福田恒存:訳)]/2014年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義:訳)]】
老人と海 (1955年)』チャールズ・E・タトル商会

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