「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2833】 週刊文春(編)『週刊文春「シネマチャート」全記録』
「作品の質×下水道が出てくる度合」で見ると「地下水道」が一番、「第三の男」が二番。
『下水道映画を探検する (星海社新書)』「地下水道 [DVD]」「第三の男」オーソン・ウェルズ
下水道が出てくる映画ばかり59本を集めた映画ガイドで、日本で唯一の下水道専門誌「月刊下水道」で人気を博した連載の「まさかの新書化!」とのことです。ユニークな切り口というか、そもそも「月刊下水道」などという月刊誌があることを知りませんでした(Amazonで検索したらあった!)。
著者(1954年生まれ)は下水道に関わる技師だったとのことで、2015年に名古屋市の下水道局を定年退職していますが、2009年より「スクリーンに映った下水道」を「月刊下水道」に連載開始、本書刊行時点で('16年)まだ毎月続いているそうです。
「ネズミ編」「災害編」「モンスター編」「逃走路編」「強奪編」「隠れ家編」「脱獄編」「歴史編」と分かれていて、それでも名作映画、娯楽映画、アクション映画、パニック映画、モンスター映画といった異種映画が隣り合わせで並んだりするのが、「下水道」を切り口にした本書ならではの特徴かも。マニアックながらも、「下水道」について読者にもっと認知してもらいたいという著者の気持ちも伝わってきます(著者の肩書は「水PR研究家」となっている)。
取り上げられている作品の中では、個人的には、アンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーランド)が「作品の質×下水道が出てくる度合」で見たら一番ではないかなと思います。著者も解説で、執筆にあたり参考にした文献を3冊挙げていて、力が入っている印象です。自分もそうでしたが、著者自身、過去に何回か観たときは、本物の下水道で撮影されたと信じて疑わなかったそうですが、諸資料に当たってみると、セット撮影だったと分かったそうです(プロでも見抜けなかったということか)。
「地下水道 [VHS]」(カバーイラスト:安西水丸)
「第三の男」
これと並ぶ傑作がキャロル・リード監督の 「第三の男」('49年/英)で、「下水道が出てくる度合」は「地下水道」より低いけれども、映画の重要なポイントで使われているように思います(これも参考文献3冊!)。本書によれば、主演のオーソン・ウェルズは、当初は役に気乗り薄で、下水道に降りると悪臭と冷気で肺炎になると嫌悪し、「この役はできないよ!」と叫んだそうな。監督にそこに立つだけでいいと懇願されて、それがカメラが回り始めると、10回も撮り直すほど撮影にのめり込んだというエピソードも貴重でした。
「レ・ミゼラブル」ジャン・ギャバン
ビクトル・ユーゴ―の『レ・ミゼラブル』を原作とする映画「レ・ミゼラブル」は4作品で下水道が描かれているそうで(ジャン・バルジャンは娘コゼットの想い人マリユスを下水道伝いに背負って救い出す)、個人的には、ジャン・ギャバン版('57年/仏・伊)、リーアム・ニーソン版('98年/米)、ヒュー・ジャックマン版('12年/英)を観ましたが、この中ではジャン・ギャバン版がストーリー的にも「下水道」的にもよく描かれていて、リーアム・ニーソン版はストーリー作品としては食い足りないが(ジャン・バルジャンの最期まで描かれていない)、下水道の映像は美しいとのことです。ヒュー・ジャックマン版は個人的には良かったけれども、下水道は暗すぎて良く分からなかった?
その他、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」 ('93年/米)でもリチャード・キンブルが下水管(正しくは排水管だそうだ)から飛び降りるシーンはあったし、ショーン・コネリー主演の「ザ・ロック」('96年/米)でも、元イギリス情報局秘密情報部員のメイソンたちは下水管(これも正しくは排水管)を伝ってアルカトラズ島内に入っていくけれども、映画の中に占める比重はそう高くなかったように思います。
文章は読みやすく、各章の末尾にその作品で下水道が写っているシーンをちょこっと載せているのも親切です(これ集めるの、結構手間ではなかったか)。ただ、どうしても、「アリゲーター」('80年/米)みたいなワニとかネズミとかが出てくる動物パニックものとかが多くなってしまうので、その分、マニアック度が高くなってしまったきらいはあります。
全体を通して、「作品の質×下水道が出てくる度合」で見たら「地下水道」が何といっても一番、「第三の男」が二番、ジャン・ギャバン版の「レ・ミゼラブル」がこれに続く三番という印象でしょうか。
「地下水道 [DVD]」
「地下水道」●原題:KANAL●制作年:1956年●制作国:ポーランド●監督:アンジェイ・ワイダ●製作:ダリル・F・ザナック●脚本:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●撮影:イェジー・リップマン●音楽:ヤン・クレンズ●原作:イェジー・ステファン・スタウィニュスキー●時間:96分●出演:タデウシュ・ヤンツァー/テレサ・イジェフスカ/エミール・カレヴィッチ/ヴラデク・シェイバル/ヤン・エングレルト●日本公開:1958/01(1979/12(リバイバル))●配給:東映洋画●最初に観た場所:新宿アートビレッジ (79-04-10) (評価:★★★★☆) ●併映:「灰とダイヤモンド」(アンジェイ・ワイダ)「Kanal [DVD] [Import] (2003)」米国版DVD
「第三の男」●原題:THE THIRD MAN●制作年:1949年●制作国:イギリス●監督:キャロル・リード●製作:キャロル・リード/デヴィッド・O・セルズニック●脚本:グレアム・グリーン●撮影:ロバート・クラスカー●音楽:アントン・カラス●原作:グレアム・グリーン●時間:104分●出演:ジョセフ・コットン/オーソン・ウェルズ/トレヴァー・ハワード/アリダ・ヴァリ/バーナード・リー/ジェフリー・キーン/エルンスト・ドイッチュ●日本公開:1952/09●配給:東和●最初に観た場所:千代田映画劇場(→日比谷映画) (84-10-15) (評価:★★★★☆)
「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1957年●制作国:フランス・イタリア●監督・製作:ジャン=ポール・ル・シャノワ●脚本:ルネ・バジャベル/ミシェル・オーディアール/ジャン=ポール・ル・シャノワ●撮影:ジャック・ナトー●音楽:ジョルジュ・バン・パリス●原作:ヴィクトル・ユゴー●時間:186分●出演:ジャン・ギャバン/ダニエル・ドロルム/ベルナール・ブリエ/セルジュ・レジアニ/ブールヴィル/エルフリード・フローリン/シルヴィア・モンフォール/ジャンニ・エスポジート/ベアトリス・アリタリバ/フェルナン・ルドゥー/マーティン・ハーヴェット●日本公開:1959/06●配給:中央映画社(評価:★★★★☆)
「逃亡者」●原題:THE FUGITIVE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:アンドリュー・デイヴィス●製作:アーノルド・コペルソン●脚本:デヴィッド・トゥーヒー/ジェブ・スチュアート●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ロイ・ハギンズ●130分●出演:ハリソン・フォード/トミー・リー・ジョーンズ/ジェローン・クラッベ/セーラ・ウォード/ジュリアン・ムーア/アンドレアス・カツーラス/ジョー・パントリアーノ/ダニエル・ローバック/L・スコット・カードウェル/トム・ウッド/ジェーン・リンチ●日本公開:1993/09●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)