【1956】 △ ジュリアン・エイミーズ 「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」 (86年/英) (1997/03 テレビ東京) ★★★

「●TV-M (クリスティ原作)」の インデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【1957】「ミス・マープル(第6話)/スリーピング・マーダー 
「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●く アガサ・クリスティ」の インデックッスへ

「原作を読んだ気」になりたければ押さえておくべき作品だが、犯行トリックが分かりにくい。

牧師館の殺人 dvd.jpg  牧師館の殺人 dvd2.jpg 牧師館の殺人 t2.jpg    牧師館の殺人 クリスティー文庫 新訳.jpg
ミス・マープル 第10巻 牧師館の殺人 [DVD]」「ミス・マープル[完全版]VOL.8 [DVD]

牧師館の殺人010.jpg セント・メアリ・ミード村の牧師クレメント(ポール・エディントン)の若妻グリセルダ(チェリル・キャンベル)は料理が苦手なメイドに不満を抱いている。そのメイドのマリー(レィチェル・ウィーヴァー)は密猟で刑務所を出たばかりのアーチャー(ジャック・ギャロウェイ)と恋仲で、仕事の方はおざなり。クレメントが牧師館の離れを貸している画家レディング(ジェームス・ヘイゼルダイン)は、プロセロー大佐(ロバート・ラング)の妻アン(ポリー・アダムズ)と恋愛中で、前妻の娘レティス(タラ・マックゴーラン)の水着姿も描いている。副牧師ホゥズ(クリストファー・グッド)は情緒不安定であり、数日前から村に滞在している"謎の女"レストレンジ夫人(ノルマ・ウェスト)を、医師ヘィドック(マイケル・ブラウニング)は親身に思って診察している。そんな中、教会の募金が消えたことに疑いを持ち、帳簿を調べるために牧師館に来ていたプロセロー大佐が書斎で射殺体で見つかり、地元警察のスラック警部(ディヴィッド・ホロヴィッチ)とレイク警部補(イアン・ブリンブル)が捜査に乗り出すが、画家のレディング自首し、誰もが事件は解決と思った。ところが彼にはアリバイがあって犯行不可能とされ、続いて、彼と恋仲にある大佐の妻アンが、自分が夫を殺害したと認めるが、これも筋が通らない―。

牧師館の殺人 マープル.jpg 1984年から1992年にかけて本国イギリスで放映されたBBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズ全12話の内の第5話(本国放映は1986年)で、原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の1930年に刊行されたミス・マープルの長編初登場作品(原題:The Murder at the Vicarage)。ジョーン・ヒクソンはおおよそ80歳だったことになります(後に作られるジェラルディン・マクイーワン(Geraldine McEwan、1932‐)主演の「グラナダ版」は(「牧師館の殺人」は2004年制作)、マクイーワンは当時72歳ぐらいか)。

 ジョーン・ヒクソン版は、シリーズを通して時代設定を1950年代に統一しているため、この「牧師館の殺人」では、原作の戦前の話が戦後の話に置き換わっていますが(ジェラルディン・マクイーワン版もおそらくそう)、どちらかと言えば原作寄りに衣装や風俗、建物や自動車などを再現している感じで、ストーリー展開も原作に忠実です(但し、原作は牧師の手記の形をとっている)。

牧師館の殺人 01.jpg 例えば、この事件の犯人はわざとミス・マープルの目の前を通って行ったうえで犯行を犯し、彼女に捜査をミスリードする証言をさせるわけですが、事件後に捜査が始まってからの「マープル証言」の中での"振り返り"としてその場面が出てくるのに対し、グラナダ版ではリアルタイムでその場面を映しています。

 このように、BBCのこのシリーズは概ね原作に忠実に作られているため、映像化作品を通して「原作を読んだ気」「読み直した気」になりたければ、本作もやはり押さえておくべき作品でしょうか。

 グラナダ版の「牧師館の殺人」の方も、シリーズの中では改変が少ない方ですが(挙動不審の教授と助手のコンビをカットしていない点では、BBC版より原作に忠実?)、原作に無い人物が出てきたりするので、原作に忠実であることを求める人には好かれないのかも。但し、説明的に作られているという点では、このBBC版「牧師館の殺人」よりも犯行の時間差トリックが分かりよいので、BBC版を観てよく分からない部分があった人が、グラナダ版を観て腑に落ちるというこはありそうな気がします。

 画家がレティスの水着姿を描いていることになっているけれど、レティスの水着姿は映像としては出てこず(グラナダ版ではしっかりビキニ姿になっている)、但し、この作品のレティスそのものがあまり魅力的な女性に感じられず、むしろ、牧師の若妻グリセルダや、実はレティスの実の母親で不治の病にあるというレストレンジ夫人の方が、カメラアップに相応しい容貌かも。

牧師館の殺人 02.jpg これ観ると、スラック警部はミス・マープルとの出会いがしらから「事件のあるところにミス・マープルあり」とウンザリしている様子で、最後の最後までミス・マープルを疎ましく思っている印象を受けます。

 ラスト、メイドは恋人と一緒になれてハッピー、一方、マープルは若妻の妊娠を見抜いて、牧師にとってもハッピーエンドですが、レティスと実の母親である(これもマープルが見抜く)レストレンジ夫人が残り僅かながらも濃密な時間を持つことができたというモチーフが、やや脇に回っている印象も。

 ジョーン・ヒクソンの演技はこの作品でも定評通りで、派手さを抑えたちょっとくすんだトーンのセント・メアリ・ミードの描写も良かったですが、デジタル処理してもこのくすみは消えないのかという印象も。それと、オリジナルはもっと長尺(3時間強)であり、このシリーズのテレビ版は概ね上手く短縮編集されていますが、この作品についてはやはり、途中端折ったような印象を受けました。

 本当は関完全版を観て評価すべきなのでしょうが、この作品はテレビ放映でしか観ておらず、テレビでは今まで短縮版しか放映していないのではないかな。この「牧師館の殺人」について言えば、個人的には、グラナダ版の星4つに対してこのBBCの方は星3つぐらいかなあ、BBC版の評価がグラナダ版を下回るのは自分としては珍しいことだけれど、「短縮版としての評価」になってしまうため、その分BBC版にハンディがあるとも言えるかも。

牧師館の殺人.jpg「ミス・マープル(第5話)/牧師館の殺人」」●原題:THE MURDER AT THE VICARAGE●制作年:1986年●制作国:イギリス●演出:ジュリアン・エイミーズ●脚本:T・R・ボーウェン●時間:日本放映版95分(完全版188分)●出演:ジョーン・ヒクソン/ポール・エディントン/ロバート・ラング/シェリル・キャンベル/ポリー・アダムス/タラ・マクゴーラン/ジェームス・ヘイゼルダイン/デヴィッド・ホロヴィッチ●日本放映:1997/03/07●放映局:テレビ東京(評価:★★★)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1