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リーダーシップの発揮は危険だが、やるだけの価値はあるとして、そのプロセスを説く。
『最前線のリーダーシップ』['07年]『[新訳]最前線のリーダーシップ―何が生死を分けるのか』['18年]ロナルド・A・ハイフェッツ in NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(全6回)(2016)
本書は、ハーバード・ケネディスクールの教授らによるものであり(著者の一人ロナルド・ハイフェッツ教授は「NHK白熱教室〕シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られている)、原著("Leadership on the Line: Staying Alive Through the Dangers of Leading")刊行は2002年です(2017年に改版された)。人はいかにしてリーダーシップ行動を起こすことができるか、また、リーダーシップ行動に伴う危機をどう乗り越えるのか、その方法や技術について説いた本ですが、本書では、そもそも、リーダーシップを発揮するということは、危険な生き方をするということであるというところから始まります。つまり、真のリーダーは、未解決の問題を表面化させ、長きにわたる慣習に挑戦し、人々に新しいやり方を要求せねばならず、脅威にさらされた人々は、変化を要求する人間に狙いを定め、その結果リーダーは、個人的にも職業的にも傷つくことになるのだと。しかし、周囲の人々の生活をよりよくし、人々にとって価値のある「将来の可能性」を提供できるがゆえに、リーダーシップはリスクに見合う価値があるというのが著者らの考えです。
第1部「リーダーシップには危険がいっぱい」では、なぜリーダーシップがそれほど危険なのか、どのようにしてリーダーシップを発揮した人々が表舞台から排除されるかについて取り上げています。
第1章「危険の本質とは」では、リーダーシップを発揮することの危険は、リーダーシップを必要とする問題の本質に由来し、適応を必要とする問題に取り組むことは、人々の習慣、考え方、価値基準の変化を迫ることになるため、抵抗を招くのだとしています。
第2章「迫りくる4つのリスク」では、組織や社会が示す抵抗の4つの形として、リーダーシップには「脇に追いやられる」「注意をそらされる」「個人攻撃される」「誘惑される」という4つのリスクがあるとしています。
第2部「リーダーシップを発揮しながら生き延びる5つの方法」では、排除されるリスクを減らすためにどのような行動をとるべきかについて取り上げています。
第3章「全体像をつかむ―方法1」では、「ダンスフロアから1歩出てバルコニー席に上がる」という表現を用いて、まず起きていることの全体像を知るべきであるとし、①技術的な問題か、適応が必要な問題かをみきわめる、②人々の立ち位置を知る、③言葉の奥に潜む歌に耳を傾ける、④権威者の行動を読む、の4つを説いています。
第4章「政治的に考える―方法2」では、政治的に考えることの重要性を説き、そのうえでの6つの基本的な視点として、①パートナーを見つける、②反対派を遠ざけない、③自分が問題の一部であったことを認める、④喪失を認識する、⑤自らモデルになる、⑥犠牲を受け入れる、を挙げています。
第5章「衝突を指揮する―方法3」では、破壊的側面を最小化し、建設的なエネルギーを確保するための方法として、①適応を促す環境を確保する、②熱気を調整する、③ペースをつくる、④将来像を見せる、の4つを挙げています。
第6章「当事者に作業を投げ返す―方法4」では、作業を自分の方から下ろしてあるべき場所に戻すべきあるとする一方、リーダーシップを発揮する際には必ず介入が必要になるが、その介入には、①観察する、②問いを投げかける、③見解を示す、④行動に移す、の4種類があるとして、介入し、結果を評価し、介入を修正し、再評価し、再び介入するという、リーダーシップの継続的な行動において、自分の行動がどう受け取られたか、それに対する反応に常に耳を傾ける必要があるとしています。
第7章「攻撃を受けても踏みとどまる―方法5」では、攻撃を受けても踏みとどまるには、①ほかのどのような懸念事項が問題にかかわる人を忙しくしてしまっているか、②その問題を取り上げることで、どのくらい深く人々が影響を受けるか、③人々は取り上げられる問題をどの程度深く学ぶ必要があるか、④権威ある立場の人は、その問題についてどのような意見を持っているか、の4つの問いかけをせよとしています。
第3部「リーダーシップの原点、心を見つめる」では、人々がどのようにして自ら墓穴を掘るような行動をとってしまうのかについて論じ、これらの状況を見きわめて行動に移る方法に加え、リーダーシップに課されるストレスに持ちこたえるための個人的な挑戦について、考え方と実践の両面から対処法を提示しています。
第8章「渇望をコントロールする」では、渇望(欲望)に屈しないためにためにはどうすればよいか、渇望を抑制するにはどうすればよいかを説いています。
第9章「自分自身をつなぎ止める」では、役割と自己を区別し、自由と強さを得るための方法として、相談役を協力者と区別して確保すること、肉体的にも精神的にも安心できる聖域を探すことなどを説いています。
第10章「原動力を把握する」では、リーダーシップを発揮することは、人々の人生に貢献することによって、自分の人生に意味を与える方法の1つであり、最も良いのは、リーダーシップが愛情を原動力とした行動であるときであるとしています。
第11章「神聖な心を保つ」では、自己防衛的な姿勢は、無邪気さを皮肉に、好奇心を傲慢に、哀れみを冷淡に変えてしまうが、神聖な心とは、人間のあらゆる活動に対して包容力を持ち続けることであり、無邪気さ、好奇心、哀れみは開かれた心の美徳なのであるとしています。
リーダーシップを発揮する際のプロセス全体を俯瞰するとともに、反対派のさまざまな行動に対して戦略的に対処して、人々が課題と向き合って自らを変えていくための環境をつくりこんでいくという、リーダーシップの本質的な作業を的確に捉えた本であると言えます。啓発的であると同時に実践的であり、本書に示されているリーダーシップのプロセスを押さえておくことは、我々が実際にリーダーシップを発揮する際に役に立つものと思われ、本書の姉妹書とも言えるハイフェッツ教授らの新著『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)と併せお薦めできる本です。
《読書MEMO》
●英治出版 公式Twitterより(2018年10月5日)
紀伊國屋書店 梅田本店さんでは、最新刊『[新訳]最前線のリーダーシップ』を新刊話題書棚やリーダーシップ棚など多面で展開くださっています!!
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