【3348】 △ 榎本 博明 『体育会系上司―「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書』 (2020/01 ワニブックスPLUS新書) ★★★

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「体育会系」組織の病理に迫るも、人事パーソン的には物足りない。

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 『体育会系上司 - 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書 - (ワニブックスPLUS新書)』['20年] 『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』['18年]  

 以前、その著書『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』('15年/日経文庫)、『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』('18年/平凡社新書)を取り上げた著者の本(この著者は4冊目ということになる)。

 ここ数年、体育会系組織の不祥事が次々と明るみに出て、世間を騒がせていますが、本書は、心理学者である著者が、体育会系組織の特徴と問題点について心理学の視点から検討することで、「体育会系」という存在の正体に迫っています。そして、スポーツ系の組織に限らず、日本的組織の持つ特徴が体育会系組織に凝縮されているとの仮説のもと、日本的組織が陥りがちな問題点を探るとともに、体育会系組織との付き合い方を示しています。

 第1章では、なぜ人は体育系の魅力に取り憑かれるのかを分析しています。著者によれば、池井戸潤の「下町ロケット」などもいわば体育会系のノリの作品であり、見る者を熱くさせるのが体育会系の魅力であるが、そこには非現実の世界だからこそ美しく見えるといった面もあるとしています。

 第2章では、アメフト部、ボクシング連盟、体操協会などに見られた諸事件を分析し、その権力構造が、山崎豊子の「白い巨塔」で描かれる大学医学部の組織構造と酷似していることを指摘、体育会系の組織構造は日本の社会に深く浸透しているとして、果たしてそうした組織に身を置いたとき、自分が正しいと思った通りに行動できる人間がどれだけいるだろうかと問いかけています。

 第3章では、体育会系学生のイメージと実態を分析しています。体育会系学生の肯定的なイメージは、➀礼儀正しい、②仲間を大切にする、③自己抑制力がある、などで、否定的なイメージは、➀勢いだけで動く、②融通が利かない、③自分の頭で考えない、④単純な認知構造、であると。体育会系人材の特徴として、社交性や協調性の高さ、行動力、達成動機の強さ、チャレンジ精神、意志の強さなどがあり、実態としては、今も体育会系人材は企業から好まれているとしています。

 第4章では、体育会系組織がなぜ病んでしまうのかを分析し、その原因として、上意下達が思考停止を招く、気配りが忖度の行きすぎを招く、権威主義がパワハラ容認につながる、属人思考に染まる、事なかれ主義に陥りがちになる、などを挙げています。また、自己抑制による欲求不満が陰湿ないじめを生んだり、団結心の強さが逆に仇になることがあるとしています。

 第5章では、体育会系組織に象徴される日本的組織の病巣を、実際に起きた不祥事事件などから探り、不祥事を生む「気配り」、責任の所在を覆い隠す忖度の心理構造、情実人事につながる「上にお任せ」の「甘えの心理構造」、会議で本当の議論ができず、空気を乱さないことが何よりも大事になっていることなど挙げています。

 第6章では、体育会系組織との上手い付き合い方を指南しています。ここでは、自己中心的になりすぎない、危ない時は情にアピールする、話を単純明快にする、適度の距離感を保つ、自分の軸を持つ、別の居場所を持つ、といったことを挙げています。

 採用時にはどの会社もこぞって欲しがる人材でありながら、何年も会社にて権力を持つと高圧的な態度を取りがちという、「体育会系」人材の問題を指摘した本は、これまでもあったように思います。本書の場合、それを個人レベルにとどまらず、組織心理学的な視点まで敷衍して分析している点は良かったです。

 ただし、何か新規性のある分析が見られたかというとそうでもなく、また、そうした問題のある組織や上司をどうするべきかということではなく、最後は、体育会系組織に馴染めない人に向けたアドバイスで終わっているのが(これはこれで一般向け図書としてはいいのだが)、これまで取り上げたこの著者の本と同様、人事パーソンの視点から見ると物足りないように思いました(今のところ、『自己実現という罠』がいちばん良かった)。


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